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現代の川の怪!?「カミツキガメ」 現代の外来種の事情とは〜人と生態系について考える

記事:朝倉書店

常にわたしたちの身近にある、自然・生態系と人との関わりについて読み解いてゆくシリーズから「カミツキガメ」についてご紹介します。
常にわたしたちの身近にある、自然・生態系と人との関わりについて読み解いてゆくシリーズから「カミツキガメ」についてご紹介します。

川や沼に住む怪といえば?

 川や沼に住む怪といえば、昔からカッパと相場は決まっている。頭に皿をのせ、体は鱗に覆われ、嘴があり、背には甲羅を背負っている。人や牛馬に危害を及ぼす悪役としての面もあるが、船頭や道行く人に相撲を挑む愛嬌もあったりする。

 そのルーツは水死体とも、ニホンカワウソともいわれている。ともに昔の日本では珍しくなかったのかもしれない。だが、今は水死体をみることはまずないし、ニホンカワウソも残念ながら絶滅してしまった。そんな現代に、川の怪としての新たな地位を築いている生き物がいる。アメリカから来た外来種カミツキガメである(図)

カッパのルーツは水死体とも、ニホンカワウソともいわれているが、残念ながらニホンカワウソは絶滅してしまった。※写真はユーラシアカワウソ
カッパのルーツは水死体とも、ニホンカワウソともいわれているが、残念ながらニホンカワウソは絶滅してしまった。※写真はユーラシアカワウソ

生態系のトップ捕食者として、河川に君臨するカミツキガメ

 英名で文字どおりsnapping turtle と呼ばれているこの怪物は、成体になると小学生ほどの体重になり、生理寿命は50 年を超える。性成熟までは15 年ほどかかるが、その後はほぼ毎年数十個の卵を産み続ける。成長すればほぼ無敵で、生態系のトップ捕食者として、河川に君臨することになる。その姿はカッパの絵にも似ていて、現代の川の怪そのものである。

図.カミツキガメの幼体。まだ幼さが残っているが、足の鱗のごつさに怪物の片鱗が感じられる。写真:西本誠
図.カミツキガメの幼体。まだ幼さが残っているが、足の鱗のごつさに怪物の片鱗が感じられる。写真:西本誠

 原産国のアメリカでは食用やスポーツハンティングで乱獲され、保全対象種にもなっている。日本では1990 年代からペットの逸出による野外での目撃や採集例が報告され始め、2000 年以降は各地で急激に増えてきた。2002 年には、当時著者(宮下)の学生だった小林頼太氏により、野外での産卵も確認された。日本でもっとも高密度で生息している千葉県印旛沼周辺の河川では、2016 年以降、毎年1000 頭以上が駆除されているが、それでも顕著な減少はみられない。

外来種が外来種を支えるという図式は、今や決して珍しいものではない

 流域全体で約7000 頭いると推定されているが、実際はもっとたくさんいそうである。河川だけでなく、水田や細い水路も利用しているので、全体像の把握は至難である。原産国のアメリカでは、アライグマやキツネなどが幼カメの有力な天敵で個体数を抑制しているようだが、侵入先の日本ではそうした哺乳類の天敵が少なく、爆発的な増加をもたらしているのであろう。

アメリカザリガニはカミツキガメ以上に繁殖力が強い生き物として有名で、カミツキガメの餌になっている。
アメリカザリガニはカミツキガメ以上に繁殖力が強い生き物として有名で、カミツキガメの餌になっている。

 カミツキガメの高密度化を支えているもう1 つの理由は、豊富な餌にあるかもしれない。その有力候補はアメリカザリガニである。実際、駆除された個体の胃内容物からは、アメリカザリガニがもっとも高頻度で見つかっている。アメリカザリガニはカミツキガメ以上に繁殖力が強い生き物として有名で、関東の低地の河川や沼では高密度に生息している。外来種が外来種を支えるという図式は、今や決して珍しいものではない。

 カミツキガメを駆除すれば、アメリカザリガニが増えて、在来の水草が衰退するという皮肉な現象も杞憂ではないかもしれない。

(宮下直 東京大学)

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