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偏見や差別を生む「ステレオタイプ」はなぜつくられるのか──『印象の心理学』

記事:日本実業出版社

「日本人はみな勤勉で礼儀正しい」と見られがちだが…… 写真:GoodIdeas/Adobe Stock
「日本人はみな勤勉で礼儀正しい」と見られがちだが…… 写真:GoodIdeas/Adobe Stock

ステレオタイプのつくられかた

「ステレオタイプ」とは、特定の集団成員の属性に対する一般化された固定概念である。

たとえば、「チームスポーツのリーダー」という社会的カテゴリーに対し「外向的」という属性が結びついていて、「チームスポーツのリーダーは外向的だ」という「信念」が存在する場合である。これは集団に対する「認知的知識構造(スキーマ)」といえる。

 こうしたスキーマに、「よい」とか「悪い」といった評価的要素や、「好き」とか「嫌い」といった感情的要素が加わったものが「偏見」である。「チームスポーツのリーダーは外向的なのでよい」というような場合だ。とくに、否定的な評価や感情をともなうものを「偏見」と呼ぶこともある。

 さらに、この「偏見」に基づいて選択や意思決定などの行動がとられると「差別」となる。

 たとえば、「営業職の人事採用を行うときには、チームスポーツのリーダー経験者を優遇する」といった場合である。

 それでは、なぜこのように特定の集団成員に対する「ステレオタイプ」が生じるのか見ていこう。

「カテゴリー化」によるバイアス

 他者たちを「まとまり」として見て、その全体的な印象を持つようになることが「ステレオタイプ」の形成につながる。わたしたちの認知は、さまざまなかたちで「ステレオタイプ」の形成に関わっている。このことを「カテゴリー化」という過程と、「錯誤相関」という現象から考えていく。

 わたしたちは日常のなかで多くの人と出会う。そのため、相手がどういう人なのか、また相手に対してどう対応すればよいのか、すばやく判断する必要があるが、他者を「カテゴリー化」することによってその人に対するシンプルな見方が可能になる。

 日常生活において、わたしたちは他者の「カテゴリー化」をよく行う。電車で座席に座っているとき、前に立った人が高齢者であれば立ち上がって席を譲ろうとするし、若い人であれば座ったままでいる。これは、相手を年齢によって「カテゴリー化」しているから可能なことだ。人の年齢は外見から判断しやすいので(年齢不詳の人もいるが)、カテゴリーとして用いられやすい。

 同様の理由で、視覚情報に基づいた人種や性別のカテゴリーも他者の判断の際にしばしば利用される。他者をカテゴリーにあてはめること自体は、悪いことではない。ただし、こうしたカテゴリー化が「ステレオタイプ」の形成の過程に関わっていることには注意が必要だ。

「内集団」(自分たち)「外集団」(自分たち以外)というカテゴリー化によって、「内集団ひいきの現象」や「集団均質性の知覚」(カテゴリー内の類似性は大きく知覚される)、また「黒い羊効果」(外集団との比較において、内集団の優れたメンバーをより高く評価するとともに、劣るメンバーをより低く評価する)といったバイアス(認知のくせ)が生じる。

 とくに、「集団均質性」は外集団に対して知覚されやすい。つまり、ある外集団のある成員の特徴を、ほかの成員も共通して持っているように見てしまうのである。

 たとえば、アフリカ系アメリカ人のアスリートがスポーツ競技で活躍するのを見ると、同じ人種の人たちはみな身体的能力が高いと思うかもしれない。けれども、そうではない人もいるはずだ。海外の人からは、日本人はしばしば礼儀正しいイメージで描写されるが、そうではない人もいるのと同じである。このように、外集団の成員をみな同じように見ることが、その集団成員に対する「ステレオタイプ」を形成させてしまう可能性がある。

「少数派」とステレオタイプの関係

 もうひとつ、「ステレオタイプ」の形成に関わる過程として検討されてきたのは、ふたつの目立つものがある場合である。そのふたつには本当は関連性がない、もしくはあったとしても弱い関連性しかないときでも、わたしたちは両者の関連性を強く知覚してしまうことがある。

 少数派集団は目立ちやすい。たとえば、女性が多い職場にいる男性たちは注意を引く。また、他者の望ましくない行動は、望ましい行動よりも一般に目立ちやすい。そうした状況で、もしも男性社員が望ましくない行動をとったとしたら、男性というカテゴリーと、望ましくない特性とが結びつけられて記憶され、それらに関連があるように知覚されてしまうのである。

 このような誤った関連づけの現象は「錯誤相関」(Hamilton & Gifford, 1976)と呼ばれている。 ある実験によると、少数派集団の「望ましくない行動」は記憶に残りやすく、その集団に対する好意を低めた。つまり、「少数派集団である」ことと、「望ましくない行動」をしたということ、このふたつの目立つことが結びつけられてしまったのである。

 このように、少数派であることが、その集団に対する否定的な「ステレオタイプ」の形成につながる可能性がある。さきほど例に挙げた、女性の多い職場にいる男性、反対に男性の多い職場にいる女性、また、たとえば来日中の外国人は、その望ましくない行動が注目を集める。その結果、集団のカテゴリーに対する否定的な「ステレオタイプ」がつくられやすいのである。

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