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年末年始に読みたい! 晶文社・編集部の3人がおすすめする2021年の3冊

記事:晶文社

140字で要約できない3冊

深井 じゃあ、今年の 3 冊を去年と同じく葛生さんからお願いします。

葛生 先に 3 冊の書名をあげます。1 冊目、菊地成孔『次の東京オリンピックが来てしまう前に』(平凡社)、2 冊目はカズオ・イシグロ著、土屋政雄訳『クララとお日さま』(早川書房)です。最後は『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』インベカヲリ★(KADOKAWA)

深井 『クララとお日さま』って今年だったんですね。

葛生 そうなんです! 1冊目から行きます。菊地成孔さんのエッセイ集です。刊行が2021年の1月15日で、だから多分今年最初に買った本ですね。次の東京オリンピックが来てしまう前、2020年の夏に連載をすべて閉じるというコンセプトだったんですけど、結局オリンピックが延期されてしまったという。これのどこがいいのかっていうと、私は菊地さんの文体のファンと言うか。今年それこそ、SNSで「〇〇構文」って話題になりましたよね。

深井 「おじさん構文」。

吉川 あとは「昭和軽薄体」の復活?

葛生 はいはい! 文体とか構文っていうものが注目された年だったかなと思うんですけど、菊地さんは独特の文体があって、艶っぽさというか、香り立つような文章が続いていくんですね。私はもう文章をヨダレ垂らして読んでいるという感じで(笑)。なんというか詩を読む感じというか、それを延々と楽しめるフェティッシュな一冊です。時事ネタと言ってもなんかもう、本当にちっちゃいの拾ってきて全然関係ないこととくっつけてっていう。やっぱり独特の荒業をずっと見せてもらっている。その荒業が荒事っていうか芸事とっていうか。これが技芸、アーツっていう感じが個人的にはするんですよね。

全編はこちらから☟

14回「2021年の3冊①〜140字で要約できない本〜」 (Spotify)

『次の東京オリンピックが来てしまう前に』菊地成孔(平凡社)、『クララとお日さま』カズオ・イシグロ、土屋政雄訳(早川書房)、『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』インベカヲリ★(KADOKAWA)
『次の東京オリンピックが来てしまう前に』菊地成孔(平凡社)、『クララとお日さま』カズオ・イシグロ、土屋政雄訳(早川書房)、『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』インベカヲリ★(KADOKAWA)

人の人生・生活について考える3冊

吉川 私も思いつくまま選びました。でも、考えてみるとちょっとテーマがあるなと思ったんです。それが「人」、あるいは「人生」「生活」みたいなテーマです。1 冊目が翻訳もので、レベッカ・クリフォード『ホロコースト最年少生存者たち――100人の物語からたどるその後の生活』芝健介監修、山田美明訳(柏書房)。そして『問題の女 本荘幽蘭伝』平山亜佐子(平凡社)。 3 冊目が『ヘルシンキ 生活の練習』朴沙羅(筑摩書房)です。

深井『ヘルシンキ 生活の練習』気になっていました。

吉川 朴さんは社会学者なんですが、ヘルシンキで就職するんですよ、急に。お子さん 2人いるんだけど、決まったからっていうのでポンって移住生活をする。その記録なんですけど、この「生活の練習」ってタイトルがすごく良くて、「生活」と「練習」って普通あんまり結びつかない言葉かもしれないんですけど、よくよく考えたら生活って練習の連続じゃないですか? 洗濯一つ、料理一つ練習しなきゃできないし。ヘルシンキという文化も土地も気候も違うところに行って、そうしたことを一つ一つ、朴さんは親子で実践していくんですよね。まさに「生活の練習」。

葛生 いいですね。

吉川 それと、ヘルシンキの人のね、言葉が全て良くて。学校で先生はお子さんたちに対して、「あなたの人格や才能のこと、私たちは評価しない」と。そもそも学校教育では人格や才能を評価しちゃいけないことになってると。そうじゃなくて、「スキルを評価する」。生活もそういう風に一生練習できることなんですよっていう。

葛生 タイトルだけみると「北欧の暮らし」のような本だと思っていたんですが、大分内容違うんですね。

吉川 とはいえね、この本を読むと北欧が好きになっちゃうところもあって(笑)。笑ったのが、朴さんが最初、職場に行った時に服装について尋ねるんです。日本だと特に女性の職場の服装って世間の目があるじゃないですか。だから聞くんだけど、でも、職場の人は「すごい厚着して、反射板を付けなきゃいけないよ」とかそういうことしか言わないんですよ(笑)。

葛生 安全面を(笑)。

深井 面白いですね。

全編はこちらから☟

第15回「2021年の3冊②〜人の人生・生活について考える本〜」(Spotify)

『ホロコースト最年少生存者たち――100人の物語からたどるその後の生活』レベッカ・クリフォード、芝健介監修、山田美明訳(柏書房)、『問題の女 本荘幽蘭伝』平山亜佐子(平凡社)、『ヘルシンキ 生活の練習』朴沙羅(筑摩書房)
『ホロコースト最年少生存者たち――100人の物語からたどるその後の生活』レベッカ・クリフォード、芝健介監修、山田美明訳(柏書房)、『問題の女 本荘幽蘭伝』平山亜佐子(平凡社)、『ヘルシンキ 生活の練習』朴沙羅(筑摩書房)

没入感がある3冊

深井 私は没入感が強かった3冊を選びました。1冊目が『複眼人』呉明益、小栗山智訳(KADOKAWA)、2冊目が植物忌』星野智幸(朝日新聞出版)、最後が漫画で『女の園の星②』和山やま(祥伝社)です。

吉川 『複眼人』の装丁、これすごい気になっていました。

深井 これ著者の呉明益さんが描いた絵なんですよ!

葛生 すごい!

深井 では2冊目の『植物忌』。植物短編小説集という感じで、 SF とかちょっとディストピアっぽい要素がある短編集です。人間と植物が混ざり合っていくような話が収録されてて、「植物転換手術を受けることを決めた元彼女へ、思いとどまるよう説得する手紙」が入ってたりとか、植物と戦うネオ・ガーディナーという特殊工作員が出てきたり。植物への畏怖を感じる作品で、例えば街中でコンクリートの建物の外壁がツタでいっぱいになっている建物を見るとちょっと怖くなる感じがあるなあと。

葛生 あーはい、ありますね。

深井 植物に本気を出されたら人間は勝てないと思うので、植物は好きだけど、ちょっと怖さもあるなと感じる人とか、雑草の手入れに苦労したことがある人も読んだら楽しいと思います。

吉川 植物が本気出したらっていうのは本当そうで、レイ・ブラッドベリの短編を映画にした「サウンド・オブ・サンダー」では、植物がもうものすごい力なんですよね。おそらく人間が死に絶えたら、神保町も一気に緑になるでしょうね。

深井 なるでしょうね。この本、構成が不思議な作りになってて、あとがきの後に「喋らん」て 一篇が入ってるんですね。ここに文字を読む本ならではの仕掛けがあります。なんで最後が「喋らん」なのか読むとわかるので、ぜひ読んでみてください。

全編はこちらから☟

第16回「2021年の3冊③~没入感がある本~」 (Spotify)

『複眼人』呉明益、小栗山智訳(KADOKAWA)、『植物忌』星野智幸(朝日新聞出版)、『女の園の星』和山やま(祥伝社)
『複眼人』呉明益、小栗山智訳(KADOKAWA)、『植物忌』星野智幸(朝日新聞出版)、『女の園の星』和山やま(祥伝社)

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