日本や世界の地すべり地形・山体崩壊を空から見る。〜斜面災害を知り、備えるために
記事:朝倉書店
記事:朝倉書店
地震や集中豪雨、火山活動などの原因で生じる地すべり・山体崩壊を豊富な写真とともに解説した一冊です。本書の特徴はなんと言っても収録した空撮写真のほぼすべてが著者によって撮影された写真である点です。報道のために撮られた写真ではなく、地形学の研究者の知見に基づいて撮影された学術的な価値の高い写真群をまとめている点で本書のオリジナリティは際立っています。
著者の一人の八木浩司先生は、防衛大学校に所属していた経緯もあり1980年代後半から自衛隊の航空機を使って活断層・地すべり・山体崩壊の空撮を継続されてきました。その成果の一部を収録した『図説 日本の活断層』(2019年)が好評を博し、それに続く本として本書が計画されました。序文によると、今回収録された空撮写真は防衛省のほか、山形県消防防災航空隊、国土交通省東北地方整備局、林野庁東北森林管理局、防災科学技術研究所、朝日新聞社、パキスタン陸軍と多数の機関の協力によるものとのこと。パイロットの方への謝辞が掲載されているのは本書ならではです。
本書では地すべり・山体崩壊を「地震に誘発された地すべり」「集中豪雨誘発型地すべり」「火山体大規模地すべり・崩壊」など9種に分類し、分類ごとに日本を中心に各地の地すべり・山体崩壊の事例を紹介していきます。本書のカバー前面にも写真を掲載した「2018年北海道胆振東部地震で発生した地すべり」のように比較的新しい事例だけではなく、「1707年羽後・津軽地震に伴って発生した巨大山体崩壊としての十二湖崩れ」など、古い時代の山体崩壊の痕跡を現在の地形に見いだす節も本書の見所です。また「2012年5月に発生したアンナプルナIV峰西壁の崩落と氷河・岩屑なだれから土石流への変化」のように海外の事例も複数取り上げられています。
著者長年の活動が集大成した『図説 日本の活断層』と本書は、地形学の知識の少ない人にも地形変化・災害の痕跡をありありと伝える、貴重な資料となるはずです。