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NFTアートって何ですか? どこかモヤモヤする、新しいアートにどう向き合うか?

記事:平凡社

平凡社新書『新しいアートのかたち 』の著者、スタートバーン代表の施井泰平氏(写真:平凡社編集部)
平凡社新書『新しいアートのかたち 』の著者、スタートバーン代表の施井泰平氏(写真:平凡社編集部)

平凡社新書『新しいアートのかたちNFTアートは何を変えるか』(施井泰平著・平凡社)
平凡社新書『新しいアートのかたちNFTアートは何を変えるか』(施井泰平著・平凡社)

アートのためのインフラをつくる

——NFTアートはアートとテクノロジーを融合させた新しいアートです。アートは大変古くからあるもので、フォーマット(形状)や発表方法、流通経路はある程度固定化されていると思われます。そのような中でNFTアートに携わろうとお考えになったきっかけについてお話を伺えますか。

施井泰平:おっしゃるように、アートの歴史は古く、フランスのラスコー洞窟の壁画などがアートの原点だと言われています。そのようなかなり長い歴史を経て今に至っているわけですが、正直申してアートの世界の構造は100年前とあまり変わらず、どこか旧態依然としています。

 たとえば、それはテクノロジーの100年の間における変化と比べてみるとよくわかります。インターネットが普及したのはこの20年の話ですが、Web1.0やWeb2.0という流れで進み、多くの産業はこの流れに乗り、現在はWeb3の時代へと進もうとしています。しかしアートの世界は、アート作品がそもそもリアルなものやコミュニケーションを重視していることや、流通経路などのさまざまな事情もあって、Web2.0の流れにあまり乗ることはありませんでした。アート作品のオンライン売買が浸透しないのもそういう事情があるからです。

 やみくもにテクノロジーの変化に乗るべきだと言っているのではありません。ただ、過去100年のテクノロジーの進展に伴う産業構造の変化をみてみると、テクノロジーをうまく取り込めなかった産業や企業の大半は淘汰されています。アートの世界を振り返るとどうも時代の変化に乗るのがあまり得意ではないということを感じていましたので、もしかしたら徐々にアートの世界も活気を失ってしまうのではないかとの危機感を抱くようになりました。

 私は美術家として活動するなかで、社会の変化を捉え、世の中の問題を提起するようなアート作品を作りたいと思っていました。そこで「インターネット時代のアートとは何だろう」と考えたとき、アート作品の制作を通してインターネット時代の課題を問うだけではなく、「インターネットのようなテクノロジーを使ってアートのインフラをつくる」のと同時にやるほうが自分が感じていた危機感を少しでも世の中に伝え、解決する道筋を見つけることができるのではないかと思い、今の事業につながるようなアートプロジェクトを2006年頃に始めたのです。

——ご自身もアーティストとして活動されていることからも、新しい時代を迎えている中でのアート作品の位置や役割など、危機感をよりリアルに感じられてきたわけですね。

施井:そうですね。私が特に意識してきたのが「アーティストを守る」ことです。これまで世の中の評価がまだ定まっていない若いアーティストなどが直面する厳しさを色々と見聞きしてきました。全身全霊で作品づくりに打ち込んだとしても、ちゃんとしたギャラリーに管理してもらわない限り結局は安値で買い叩かれ、仮に売れたとしても、その作品がその後、誰の手に渡ったのか追うことが難しい、コピー作品が出回るなど、アーティストの大半は残念な環境に置かれています。また多くの人が想像できるように、金銭面でもなかなか厳しい状況に置かれています。よほど有名なアーティストでない限り、制作コストに見合った価格がつけられることは非常に少ないうえ、将来有名になって初期の作品が二次流通で値上がりしたとしてもアーティストには支払われることはありません。

 そしてせっかく作品を作ったとしても、その作品を見つけ、それをよいと言ってくれる人と出会えなければ埋もれ、消えゆく運命にあるわけです。もしかしたら既に多くのよい作品を私たちは失っているかもしれません。そう考えると非常に惜しいと思います。ではどうすればそうした事態を防ぐことができるのかと考えたとき、それは「作品の価値を後世にテクノロジーを活用して受け継いでいくこと」ではないかと思ったのです。

 作品の価値をつないでいくためには、なぜそうした高い評価を得ているのかを信頼できるデータとして残さねばなりません。誰の手によって、どういう想いで作られたのか、そしてどこで買われたのか、どこで展示されたのかなどの作品のバックグラウンドが大変重要になるわけです。ではそうした情報を後世に伝える方法として何が最適なのかと探っていたとき、辿り着いたのがブロックチェーン技術、つまりNFTだったのです。

Larva Labsが提供するNFTプロジェクトの一つ「CryptoPunks(クリプトパンクス)」のデジタルアート。2021年8月にはクレジットカード大手のVisaが購入した。(写真提供=Shutterstock)
Larva Labsが提供するNFTプロジェクトの一つ「CryptoPunks(クリプトパンクス)」のデジタルアート。2021年8月にはクレジットカード大手のVisaが購入した。(写真提供=Shutterstock)

平凡社新書『新しいアートのかたち NFTアートは何を変えるか』の目次
平凡社新書『新しいアートのかたち NFTアートは何を変えるか』の目次

「情報の時代」の中で生まれたNFTアート

——NFTアートって何だろう、と大半の人はそういった疑問を抱かれていると思います。もしくはまだNFTアートという言葉ですら耳にしたこともない人もいるかもしれません。NFTアートについて簡略に説明するとしたらどういった説明がふさわしいですか。

施井:昨今話題になっている「NFTアート」という言葉は、NFTによって唯一無二性を担保されたデジタル作品、もしくは、データの唯一性や真正性を証明するために用いられるNFTという技術がアート作品と結びつくことで生まれたものを指しています。確かに、テクニカルな点で言えばそれは間違っていません。

 しかしそうしたテクニカルな説明だけですと、今多くの人が抱いているNFTアートへの疑問はなかなか払拭できないと思うのです。ですから私は、NFTアートは「情報の時代に最適化されたアートのかたち」だと表現するほうがふさわしいのではないかと考えています。今や誰もがインターネットに接続して豊富な情報をすぐに得られ、またSNSを使って情報を発信できるようになり、「情報」というものが私たちの生活には非常に重要な位置を占めるようになりました。そうした情報の時代の中で現れたNFTが果たすべき役割は従来のアートではなし得なかったことをやるということであり、そういう意味でもNFTは未来のアートのゆくえを左右するほど重要なものになってくると思うのです。

 こうしたこともあり、本書では情報社会の歴史を振り返ることで、NFTという技術が、なぜアートと結びついたのかということまで言及しています。NFTアートの買い方や種類などのテクニカルなところだけ知りたい人にとっては、やや遠回りになるかもしれません。ただ、なぜNFTアートというものが誕生し、今この時点で多くの人が関与しているのかということを理解していただくには、情報社会の歴史を振り返ったり、アートそのものの価値などを考えたりすることで少し寄り道をしたほうが一番だと思ったのです。

——正直を申して、NFTアートは新手のマネーゲームのようにしか見えず、一過性のブームで終わってしまうのではないでしょうか。また、高価格で売却されたニュースなどを聞くと「金儲け」や「投機」という意味合いが強く、あまりよいイメージが持てません。こういった疑問は多くの人が抱いているのではなかろうかと思います。そういうモヤモヤ感はどこから生じていると思われますか。

施井:たしかに、デイトレーダーのように日々パソコン画面とにらめっこをしてNFTアートを売買している人はいます。それが良いか悪いかはいまここで判断することはできません。ただ、アート作品の本来の価値は、価格のような表面的なものだけで決まるものではありません。さらに、短期間でその価値がわかるもの、決まるものではなく、10年、50年、そして100年というように、時間をかけてその価値が定まっていくものです。たとえば、フィンセント・ファン・ゴッホは生涯にたった1枚しか絵が売れなかったと言われていますが、ご遺族による普及活動、そして研究者やキュレーターによる熱心な調査研究やコレクターたちなどといったさまざまな人の手を介することで作品としての価値が上がり、適切な評価がなされ、今や相当な高値が付く画家のひとりになりました。ゴッホからしてみれば、自分の絵が今や著名な美術館に展示され、彼の絵を目当てに大勢の人がやって来る、とは考えもつかなかったことでしょう。

 アートは時間や手間などをかけた分だけ、その魅力が増します。発酵食品のように、十分に寝かせて、熟成させればさせるほど、その味わいが豊かになります。ですから、いま目の前にしているなんともないアート作品がもしかしたら後世、ものすごく価値がつくのではないか、その価値に最初に気が付いたのは私だったとしたらすごいかも、と想像すると、NFTアートも案外面白いのかもしれないと俄然興味が湧いてくると思うのです。私としては、株式市場における「投資の神様」と言われている、ウォーレン・バフェットのように、長い時間をかけてよい作家や作品を育て上げるような「目利き」が多く出てくれば、NFTアートに対する見方もだいぶ変わってくるのだと信じています。

ここ最近NFTやNFTアートに関するイベントや講座などでも登壇することが多くなったと語る施井泰平氏。(写真:平凡社編集部)
ここ最近NFTやNFTアートに関するイベントや講座などでも登壇することが多くなったと語る施井泰平氏。(写真:平凡社編集部)

NFTアートは「可能性のかたまり」

——そもそも「アート」自体が、敷居が高いイメージです。なぜこういったイメージを抱いてしまうのでしょうか。ただでさえそういうイメージが強いのに、そこにNFTが絡んでくると、さらに縁遠くなってしまうのではないでしょうか。

施井:たしかに、アートはそういう見方をされることが多いですね。ギャラリーなどはちょっと入りづらいと思う人が多いと思います。緊張しますしね。ただ、たとえばですが、ミシュランガイドに掲載されるような高級寿司店の店主がダジャレなどを言いながら半ズボンとサンダルで寿司を握っていたらどう思いますか。新しいファッションの寿司屋も面白いしたまには少しくらいのダジャレはよいですが、その店の品格や雰囲気が損なわれるようになったら寿司を食べる体験すら残念なものになってしまいます。ですから、敷居が高いという演出はある程度は必要だと思うのです。しかし、うちの店は老舗だから現金しか使えません、オンラインの店舗情報は間違っている、潜在顧客の要望を無視する、それでも来たい人はどうぞ、というようになってしまうと、徐々にお客さんは離れていってしまいます。アートの世界も同じように、敷居を高くすべきところはうまく維持して、一方、受け入れるべき技術は受け入れて、より多くの人にアートに触れてもらうよう環境を更新していく必要があるだと思います。

 そして、NFTという馴染みのないものが関係することで、厄介そうな印象を持たれてしまうのでは、ということですが、NFTが徐々に浸透することで薄まっていくと思います。今やほとんどの人が使うようになったインターネットも当初は、オタクがやるものでよくわからない難しそうなもの、と見られていましたが、今になってはそんなことを思う人はほぼゼロに近いでしょう。NFTがインターネットほどまで普及するまでにどのくらいの時間を要するかはわかりませんが、新しい技術というものはそうした課題はつきものです。

 NFTアートは子どもからお年寄りまで幅広い世代が作品を出しています。その気になれば誰でもアート作品を売買できますので、少しでもNFTアートに興味を持っていただけたら、まずはNFTアートのマーケットプレイスを覗いてみることをおすすめします。世界中の人に自分の作品を見てもらい、それが売れるかもしれないということを考えるとシンプルに嬉しいですよね。デジタルアートのようなかっこいいものではないとダメなんですか、と思っている方もいらっしゃると思いますが、最初はスキャンした油絵でもイラストでもなんでもいいんです。誰もがアートに関わることができるようにしてくれるのがNFTで、そこはNFTアートの最大の魅力だと思います。

——本書のタイトルは「新しいアートのかたち」です。NFTアートはどのような点が「新しいアート」なのでしょうか。また、サブタイトルには「NFTアートは何を変えるか」とありますが、何を変えるとお考えでしょうか。

施井:NFTアートはたしかに「新しいアート」ですが、アートの根源的な部分は変わらないと思います。ただ、Web3時代が到来し、私たちはデジタル上でシームレスに自由に行き来するようになります。すると、そんな新しいデジタル空間は次第にリアルな空間と結びついてデジタルかフィジカルかということを意識しなくなると思うのです。すると国や地域、時間などを自由に超えてさまざまなアートが生まれてきます。そんなところにNFTアートの新しさがあると思います。あとは先ほども申しましたが、アート作品の価値を参加する人たちが決め、その価値を後世に伝えていくという役割が与えられている点も新しさがあります。

 そして「NFTアートは何を変えるのか」については、みなさん、それぞれ考えが異なると思います。ふと思い立って発表したアートが思いがけず売れたという人はNFTアートで人生が変わったと思うでしょう。また、良い意味、否定的な意味で、何も変わらないと思う人もいるでしょう。正直、私もどうなるかわかりませんが、NFTアートはあらゆる人に開かれた「可能性のかたまり」だと思っています。新書をまとめるきっかけとなったのが、NFTアートに関心を持っていただきたいという気持ちでしたが、アートと情報の関係性やアートの評価の仕方などアートの本質にアプローチしていることからも、アートの面白さについて考えるきっかけとなれば本当に嬉しいですね。

[文=平凡社編集部・平井瑛子]

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