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《椿姫》《カルメン》《フィガロの結婚》はなぜ傑作か? 『16人16曲でわかる オペラの歴史』

記事:平凡社

現在につながるオペラのイメージを19世紀に確立したヴェルディ(左)とワーグナー(右)(Giuseppe Verdi by Giovanni Boldini
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Giuseppe_Verdi_by_Giovanni_Boldini.jpg)
(Richard Wagner by Franz Hanfstaengl
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:RichardWagner.jpg)
現在につながるオペラのイメージを19世紀に確立したヴェルディ(左)とワーグナー(右)(Giuseppe Verdi by Giovanni Boldini https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Giuseppe_Verdi_by_Giovanni_Boldini.jpg) (Richard Wagner by Franz Hanfstaengl https://commons.wikimedia.org/wiki/File:RichardWagner.jpg)

11月15日発売、平凡社新書『16人16曲でわかる オペラの歴史』(加藤浩子著)
11月15日発売、平凡社新書『16人16曲でわかる オペラの歴史』(加藤浩子著)

今のオペラのイメージはブルジョワたちがつくった

 オペラは、一九世紀が黄金時代だと言われる。現在よく上演されるオペラ作曲家の大半が一九世紀生まれであり、彼らの作品の多くが一九世紀に作曲されているからだ。一八世紀以前の作曲家でよく上演されるのはモーツァルトくらいである(最近はちょっと変わってきているが)。それはオペラが、一九世紀に台頭した金持ちのブルジョワ階級に好まれた舞台芸術だからだろう。「オペラ」という言葉にまつわるスノッブな雰囲気は、おそらくそこからきている。

 しかし一九世紀のブルジョワが劇場に集まったのは、一昔前の権力者だった貴族階級への憧れからでもあった。フランス革命前、オペラは貴族のものだった。革命後、そして産業革命で、時代を動かすようになった金持ちの実業家が、過去の富裕層である貴族の趣味に憧れてオペラハウスに通うようになったのだ。オペラは、そもそもは宮廷芸術だった。けれど宮廷芸術がブルジョワのものになったことは幸いだった。貴族たちには古典や神話の教養があり、オペラ発祥の地イタリアの言葉で書かれたオペラにも抵抗がなかったが、領地から収入が得られて働く必要がなく、日がな一日暇だった貴族と違い、働いて富を得るブルジョワは教養を蓄える時間などなかったから、知識がなくてもわかる作品が好まれるようになったからだ。だからブルジョワ全盛の一九世紀には《椿姫》や《カルメン》のような、予備知識がなくともわかる物語と、誰でも口ずさめるヒットメロディを盛り込んだオペラが主流になり、現在でも上演されているのである。オペラが貴族のものにとどまっていたら、とてもここまで生き延びてはこられなかっただろう。

 とはいえ、「貞節」とか「神」のような一九世紀の価値観が刻まれたオペラが、今の時代に「古臭い」と感じられる面もあるのは否めない。またクラシック音楽の衰退が言われて久しいように、オペラの衰退も否定はできない。新作オペラは世界中で作曲されているが、ミュージカルのように盛んとはいえないし、市民権を得てもいない。が、本文で触れるが、音楽劇であるオペラが積み上げてきた成果は、ミュージカルや映画のような、音楽が重要な役割を果たす他の総合芸術に確実に継承されているのだ。

「時代の必然」から生まれたオペラ

 本書は、「オペラ史」の本が意外と少ない、と思ったことがきっかけで生まれている。オペラ講座の受講生の方と接していて、オペラをそれなりに観ていても、作品や作曲家が時系列で頭に入っている方は意外と少ない、と感じたことも執筆の理由だ。例えば「モーツァルトはしゃべるような部分が多くてわかりにくい」といった意見を聞いたりするが、モーツァルトは一八世紀の人であり、一八世紀のオペラは曲の間を語りに近い「レチタティーヴォ」でつなぐ形式(あるいはセリフでつなぐ形式)で、一九世紀のワーグナーや二〇世紀のプッチーニのように(レチタティーヴォが発展的に解消したため)オーケストラがずっと鳴り続けてドラマを語るわけではない。それは作曲家の個性ではなく、時代の必然なのだ。そのようなことを頭に入れていただいた方が、オペラに対する理解は深まる。

 ほとんどの方にとって、オペラは遠い存在だろう。けれど、映画『地獄の黙示録』で有名になった《ワルキューレ》の〈ワルキューレの騎行〉、サッカーの応援ソングでもある《アイーダ》の〈凱旋行進曲〉、フィギュアスケートの伴奏に繰り返し使われている《トゥーランドット》などオペラに由来するヒットメロディは少なくないし、映画やミュージカルはオペラの末裔でもある。一般に想像されているより、オペラはずっと身近なものなのだ。オペラのかけらは、生活に溶け込んでいると言っても過言ではない。

 本書を通じて、一人でも多くの方がオペラに興味を持ってくださり、あるいはオペラへの興味を深めてくださるなら、筆者にとってこれ以上嬉しいことはない。

『16人16曲でわかる オペラの歴史』目次

はじめに
序章 オペラ誕生
第1章 モンテヴェルディ《ポッペアの戴冠》
第2章 ヘンデル《エジプトのジューリオ・チェーザレ》
第3章 モーツァルト《フィガロの結婚》
第4章 ロッシーニ《セヴィリアの理髪師》
第5章 ドニゼッティ《ランメルモールのルチア》
第6章 ベッリーニ《ノルマ》
第7章 ヴェルディ《椿姫(ラ・トラヴィアータ)》
第8章 ウェーバー《魔弾の射手》
第9章 ワーグナー《ワルキューレ》
第10章 ヨハン・シュトラウス二世《こうもり》
第11章 グノー《ファウスト》
第12章 ビゼー《カルメン》
第13章 プッチーニ《蝶々夫人》
第14章 チャイコフスキー《エフゲニー・オネーギン》
第15章 リヒャルト・シュトラウス《ばらの騎士》
第16章 ベルク《ヴォツェック》
補章 團伊玖磨《夕鶴》
終章 オペラのその後
推薦映像
あとがき
文献紹介

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