「五十嵐喜芳自伝―わが心のベルカント」書評 戦後の日本オペラの代表歌手
評者: 朝日新聞読書面
/ 朝⽇新聞掲載:2012年01月08日
わが心のベルカント 五十嵐喜芳自伝
著者:五十嵐 喜芳
出版社:水曜社
ジャンル:芸術・アート
ISBN: 9784880652733
発売⽇:
サイズ: 20cm/229p
五十嵐喜芳自伝―わが心のベルカント [著]五十嵐喜芳
「ベル」は「美しい」、「カント」は「歌う」。昨年9月に亡くなった著者の、甘く美しいテノーレ・リリコ・レッジェーロ(軽やかな質の叙情的なテノール)の声がよみがえる。戦後日本のオペラを代表する歌手で指導者。23歳で東京芸大入学と、声楽家としては遅いスタートだったが、才能と出会いに恵まれて2度のイタリア留学を果たした。時代だろうか、運命を切り開こうとする挑戦者に次々と援助の手が差し伸べられる。事業家の安宅英一は個人奨学金を出し、イタリアの往年の名歌手スキーパは1年間の個人レッスンの授業料を受け取ろうとしなかった。芸術の恩寵(おんちょう)が、著者の歌声さながら、晴れやかに伝わってくる。
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水曜社・1995円