1. じんぶん堂TOP
  2. 教養
  3. 『生協の白石さん』から学ぶ会話のポイント ー心理学を日常のコミュニケーションに活かす

『生協の白石さん』から学ぶ会話のポイント ー心理学を日常のコミュニケーションに活かす

記事:朝倉書店

会話などのやりとりで、誤解されてしまった経験は誰しもあることでしょう。そんなコミュニケーションを学ぶ好事例として、あるベストセラーにふれてみます。
会話などのやりとりで、誤解されてしまった経験は誰しもあることでしょう。そんなコミュニケーションを学ぶ好事例として、あるベストセラーにふれてみます。

「会話」の難しさ

 文章力や話す力を向上させることで、会話などのコミュニケーションがより円滑に進むでしょうか? 実は「必ずしも、そううまくはいかない」ところが難しいところです。
 本書ではその難しさの背景に「多種多様な心の働き」があることを見て取り、会話のルールや共有知識、相補的交流といったコミュニケーションの心理的側面を検討しています(「第4章 会話の成立要件」など)。
 その中で学ぶべき事例として、ベストセラー『生協の白石さん』を紹介しています(4. 3 『生協の白石さん』から学ぶ)。
 「白石さんの受け答えから学ぶことは多い。他者と会話をするとき、何が大切なのか、それを教えてくれる良書である」と。
 実は私もリアルタイムで『生協の白石さん』を楽しんだ1人なのですが、本書を担当していて、「『生協の白石さん』にはこんな秘密が隠されていたのか!」と驚くばかりでした。

『生協の白石さん』とは

(「4. 3 『生協の白石さん』から学ぶ」より)

 2005 年に『生協の白石さん』という本が出版された。白石さんという人物は、東京農工大学の生協に勤務していた職員さんなのだが、顧客(学生)が質問や要望を書く「ひとことカード」で、学生から寄せられたコメントに対して非常にユニークな回答をすることで話題となり、そのやりとりを集めて書籍化されたのである。そして、その本はたいへん売れてベストセラーになった。
 白石さんは学生のどのような質問にどんな回答をしたのであろうか。学生から実際に寄せられた3 つの質問や要望の例を以下に示そう。あなたが生協の職員だったとしたらどう答えるか考えてみてほしい。何と答えてよいか困ってしまうのではないだろうか。

 学生A:単位がほしいです                                     (白石他、2005、25 頁)

 学生B:愛は売っていないのですか……?       (白石他、2005、33 頁)

 学生C:マサくんが最近,「そこそこのリアリティ」を追求してます.生協にはそういうものをおかないんですか?                         (白石他、2005、56 頁)

白石さんはどう答えたか?

 学生さんの「質問」に対して、白石さんは以下のように、答えています。

 「学生A:単位がほしいです」

 =>白石さん:そうですか、単位、ほしいですか。
   私は単車がほしいです。お互い、頑張りましょう!

 

 「学生B:愛は売っていないのですか……?」

 =>白石さん:どうやら、愛は非売品のようです。
   もし、どこかで販売していたとしたら、それは何かの罠かと思われます。
   くれぐれもご注意下さい。

 

 「学生C:マサくんが最近,「そこそこのリアリティ」を追求してます。
      生協にはそういうものをおかないんですか?」

 =>白石さん:ご質問ありがとうございます。解釈が間違っていたら申し訳ないのですが、 
   「~風味」という食べ物も、ある意味そこそこのリアリティ。
   例えば、当店販売中のうまい棒は、全13種類。
   求道者のマサさんにもおすすめしてみてください。

 

学生のコメントと白石さんの回答(本書図4.4より;『生協の白石さん』より抜粋)
学生のコメントと白石さんの回答(本書図4.4より;『生協の白石さん』より抜粋)

 いかがでしょう?

 いずれも「楽しい」返事をしています。無茶ぶりとしか思えないような質問にも、機転のきいたコメントを返しています。人気が出るのもうなずけます。学生さんも、そうしたやりとりを楽しみに質問するようになったことでしょう。

白石さんの対話力の秘密

 「生協の白石さん」とのやりとりは、また、農工大の学生さんのみならず、ブログになり、さらに本になったことで多くの人が楽しむこととなりました。文字通り「万人に受ける」ことになりました。秘密にはどのようなものがあったのでしょう?
 著者は、「私がこの本を読んで感じとった白石さんの素晴らしさについて」、以下の5点から読み解きます。

  1. 傾聴的態度
  2. 相手とレベルを合わせる
  3. 豊かな連想力
  4. 相手への思いやり
  5. さりげないアピール

 白石さんの回答の冒頭によく見られる相手の言葉をオウム返しのように返す記述、例えば「そうですか、単位、ほしいですか。」は、来談者中心療法のカウンセラーの傾聴的態度によく似ていることを指摘しています(上の①)。まず、「私はあなたの言葉を受け止めて理解しましたよ」と表明しているわけです。
 「愛は売っていないのですか」という質問は、本人も「どこかに売っているかもしれないと思っている」わけではなく、知らないふりをして質問しています。それに対して、白石さんも相手に合わせて「知らないふり」で返します(上の②)。また、単位から単車へ、「そこそこのリアリティ」から「~風味」へと連想をつなげた返事をしています(上の③)。また、「お互い、頑張りましょう!」とさりげなく励まし(上の④)、さらには販売中の「うまい棒」の商品アピール(上の⑤)にもつなげたりします。
 こんな秘密があったのかと、著者にも、生協の白石さんにも感服です。

『生協の白石さん』から学ぶこと

 「白石さんと同じような、気の利いたコメントなんてできないですよ」という感想も聞こえてきそうです。ただ、このようにその特徴をあらためて見てみると、その1つくらいは試してみることができそうです。①のように「相づち」をうつことからはじめてもよいかもしれません。
 また、『生協の白石さん』の面白味は、「やりとりを楽しむ」ということにもあります。そもそも本になったのも、白石さんの「ひとことカード」に面白さを感じた学生さんが、ブログをつくったことにはじまります。
(「がんばれ、生協の白石さん!」 http://shiraishi.seesaa.net/
 ステイホームやリモートナントカの時間も減り、「対面」の機会もだいぶ増えてきたことと思います。白石さんのように「やり取りを楽しむ」気持ちで臨んでみてはいかがでしょうか。
 ちなみに「生協の白石さん」はもちろん実在の人物で、本名は白石昌則さんと言います。現在は大学生協から日本生活協同組合連合会に異動されています。

『言葉とコミュニケーション―心理学を日常に活かす―』
『言葉とコミュニケーション―心理学を日常に活かす―』

ページトップに戻る

じんぶん堂は、「人文書」の魅力を伝える
出版社と朝日新聞社の共同プロジェクトです。
「じんぶん堂」とは 加盟社一覧へ