「伝える」力を向上させるためのヒント ー心理学を日常のコミュニケーションに活かす
記事:朝倉書店
記事:朝倉書店
「読み・書き・そろばん」は、今も昔も学校をはじめとする教育の場で学ぶべきことを、うまく表現しています。ところが、ここには文章や話し方などの「伝える」という要素が入っていません。文章の書き方、話し方、プレゼンテーションなどの本や講座が盛況なのは、伝える能力を学ぶ必要性を反映しているからといえましょう。『理科系の作文技術』といった古典的名著もあります。
本書『言葉とコミュニケーション―心理学を日常に活かす―』では、心理学の知見を紹介しながら、自分が伝えたいことを正確にかつ効果的に他者に伝える能力のあり方と、能力を向上させるためのヒントを紹介していきます。
言葉とコミュニケーションについて:「はじめに」より
言葉とコミュニケーションと心理学はどのようにかかわるのでしょうか。本書「はじめに」より引用してみます。
「私たちはふだん、あたりまえのように相手が発した情報を理解し、あたりまえのように自分の考えを表現して相手とコミュニケーションを行っている。だが、その背景には私たち人間のきわめて優れた心の働きがある。また、コミュニケーションはどんな場面でもうまくゆくとは限らない。その成否はさまざまな要因に左右される。その要因の1 つが、送り手の表現力である。自分が伝えたいことを正確にかつ効果的に他者に伝える能力。本書が、そのような能力を向上させるためのヒントになれば幸いである。
言葉とコミュニケーションは、心理学の中でも、認知心理学や社会心理学をはじめとして、さまざまな領域にかかわる研究テーマであるが、本書ではそうした領域をまたいで、初学者向けにわかりやすく解説している。内容面では、心理学の研究で明らかになった事実だけでなく、文章の書き方や対話のコツ、プレゼン用スライド作成時の留意事項など、より実践的な内容も含まれており、コミュニケーションの基礎から応用までを幅広く扱ったものとなっている。語り口調で、多くの具体例を盛り込み、ところどころで読者の皆さんに向けてメッセージを送っている。テキストとしては一風変わった印象を受けるかもしれない。」『言葉とコミュニケーション―心理学を日常に活かす―』邑本俊亮
本書の事例から
本書から具体的な事例をひとつご紹介しましょう(「第8章 ビジュアルコミュニケーション」より)。
以下の写真は、著者が実際に目にしたある大学キャンパスの案内板です。著者は「文科系学部」に行きたかったそうですが、みなさんなら「どこに行けばよい」と思われますか?
著者は「左前方」に進んでしまったそうです。そう思われた方もすくなくないのではないでしょうか? 正解は「右後方」です。
なぜ、そのような間違いが起きてしまったのでしょう? 不注意というよりも、この看板が心理学的にわかりにくい・誤解しやすいものになっていることが指摘できます。
心理学の知見には「群化の要因」というものがあります(下図参照)。ここでは「近くにあるものが、まとまったものとして理解されやすい」ということがわかっています。
この案内板の場合、左前方への矢印と「文科系学部」の文字が近くにあったため、「文科系学部は左前方にある」と理解されてしまいやすかったわけです。
心理学を活かす
このように本書では、多彩な事例を紹介しつつ、その背景にある心理学の知見を解説していきます。作文や会話、表情、イラストや写真などのビジュアル表現などなど。「言葉とコミュニケーション」について、実践のためのハウツー書でもあり、関係する心理学への入門書でもあります。
わかりやすい文章の書き方といった書籍は、著者の経験則に基づくものが多いですが、そこには心理学の知見に基づいてるものも少なくないです。そうした理解を通して、また学習をより深めることができるのではないでしょうか。