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BTSって、楽しむ以前に、知ってほしい存在? 「BTS学」を掲げた日本初のBTS研究書!

記事:明石書店

BTSのメンバーたち=2017年5月、ソウル・ロッテホテル(朝日新聞社)
BTSのメンバーたち=2017年5月、ソウル・ロッテホテル(朝日新聞社)

なぜBTSなのか

 「寒い冬の終わりを迎え もう一度春の日が来る時まで 花が咲く時まで そこにもう少し待ってよ 待ってよ」。

 これは、大衆音楽専門誌「Rolling Stone」が選定した「BTS名曲100」(100 Greatest BTS Songs)の1位に挙げられた「봄날(Spring Day)」(2017年)の一節だが、これほど鮮やかに悲しみと憧れ、希望を歌った曲を聞いたことがない。BTSはこれほど詩的で、凄絶な物語をどこから得たのだろうか。

 「Spring Day」のモチーフの一つは、儚さの象徴とも言える桜だ。世の中に永遠なものは永遠にない。時間とともに我々は変わっていき、私とあなたは少しずつ離れていく。しかし私はそんなあなたを一日も忘れられない。今もまだあなたを見送れそうにない。時間はこのように空しく流れる。にもかかわらず、我々が何か安らぎを見出すとき、一縷の望みはつながれ、いつの間にか桜のように花開くだろう。冬は身を切るほど寒くて暗鬱だが、これも「永遠には続かない」こと、いまを大切にしていけば桜のようにまた春を迎えることを、我々は心を込めて確かめておきたい。

BTS is everywhere!!

 Twitterには「#BTSisNotYourAverageBoyBand」(BTSはあなたが思う普通のボーイズバンドではない)というハッシュタグがある。クリックすると、「BTSの音楽が人生を変えた」「BTSが自分を救った」と打ち明ける人々の告白が止めどなく続く。米国の30代のある黒人女性は、「韓国のボーイズバンドにはまったということで周りから白い目で見られるが、まったく気にしない。BTSの音楽を通じて勇気づけられ、自分を愛することの大切さを学んだから」と綴っている。あまりにも多くの人々が、人生でもっとも必要な時期にBTSと出会えて本当によかった」と述べる。世界の彼/彼女にとって、BTSの存在と音楽は、絶望のなかで生きる意味を見出した「光」のようだ。

 BTSのミュージック・ビデオ(MV)を一つひとつ辿っていく間に、我々は、そこに大河ドラマのような巨大な、私とあなた、そして人々の物語が秘められていることに気づく。また、その「蜘蛛の巣」のように複雑なストーリーテリングは、楽曲を補完するだけでなく、MV自体にまったく新しい命、すなわち「いまここ」に関する新鮮な知恵を吹き込んでいることがわかる。普通の恋愛に関する楽曲であっても、自分自身と周りの世界に対する省察を求めることこそ、BTSならではの魅力で、持ち味である。「Mikrokosmos(小宇宙)」(2019年)を聴きながら、「君を眺めながら」、そして「もっとも深い夜にもっとも輝く光」を「夢見る」私とあなたを想像することは、ある意味では、人の常だろう。

 だからこそ、かくも多くの人々が共感し、熱く反応するのだろう。これは、単に新たなポップ・カルチャーにとどまらず、新しい考え方や知識体系、ひいては「新文明」の兆候とも言えるのではないか。

米ホワイトハウスで会見に臨んだBTSのメンバーたち=2022年5月、ワシントン(朝日新聞社)
米ホワイトハウスで会見に臨んだBTSのメンバーたち=2022年5月、ワシントン(朝日新聞社)

「俺たちは夢中になって走ったんだよ!」

 2020年から世界各国は、新型コロナウイルスという感染症から自国民を守るべく、次々に国境を閉ざしていった。さらに、経済覇権や台湾問題をめぐる米中対決の深化、そしてウクライナ戦争などにより、世界は他者への恐怖を募らせ、またも分裂を極めつつある。地球を一つの共同体と捉え、世界の一体化を図ろうとしたグローバリズムはもはや終わったかに見える。しかし、そんな中でも世界は一つに繫がっていることを、「BTS現象」は雄弁に物語っている。

 BTS公式YouTubeチャンネルのBANGTANTVの登録者数を基準にすれば、2022年12月現在、少なくとも7,000万以上の地球市民がBTSと「同時代」を共有している。日本国内にも少なくとも1,300万人以上がBTSを中心とした生態系に住んでいる(BTS JAPAN オフィシャルTwitter の「@BTS_jp_official」フォロワー数は2022年12月20日現在、1,354万人)。これほど多くの世界の彼/彼女たちが、BTSをめぐる物語を、国境と言語、人種の境界を越えた普遍的なものとして受け入れ、日々共有しているのである。

 BTSの物語は韓国という地域的・民族的特殊性に起因するいわゆる「Kのジレンマ」をも軽々と乗り越え、クロスオーバーを重ねて新たな嗜好共同体を創り上げている。絆を失い、不安に満ちた時代に、世界の人々はBTSから伝わる「君のままで大丈夫」という癒しのメッセージに安らぎを覚え、連帯して前へと進む。自分が自分でいられなかった多くの人々が、自分を愛し(Love Myself)、それを語り(Speak Yourself)、他者と共有する(Love Yourself)ことの大切さに気づき、心理的な一体感にたどり着いたのである。

 ある評論家は、BTSがこれほど成功した最大の理由として、SNSを取り上げる。2021年に世界最多のリツイート(RT)を記録したのは、アジア人に対するヘイトクライムが深刻化していた3月30日にBTSが「人種差別に反対する」と発信したツイートだった。SNS上でBTSは、いかなる政治家よりも強力な影響力を発揮し、BTS関連ワードは常に世界の話題を席巻する。

 しかしSNSはあくまでも、人気獲得の手段や背景、尺度に過ぎず、「BTS現象」の本質とは言えない。しかも「BTS現象」は、日本のマスコミがしばしば指摘するような、韓国政府の韓流政策やアイドル業界のプロデューシングシステムの成果でもなければ、BTSの素晴らしいルックスや優れた音楽的実力のみで生じたアイドル・シンドロームでもない。

BTSが2022年3月に開催された「PERMISSION TO DANCE ON STAGE-SEOUL」にてファンたちに感謝の気持ちを伝えている。BTS公式twitter「@bts_bighit」より。
BTSが2022年3月に開催された「PERMISSION TO DANCE ON STAGE-SEOUL」にてファンたちに感謝の気持ちを伝えている。BTS公式twitter「@bts_bighit」より。

 この疑問にBTSはこう答える。「バンタンの成功の理由? 俺も知らない そんなの何処にあるんだよ 俺たちは夢中になって走ったんだよ 何と言われても走ったんだよ 答えはここにあるよ ハハハ」(「Run BTS(달려라 방탄)」、2022年)と。皮肉にも、BTSメンバーたちも自分たちの成功の理由を挙げられず、探り続けているようだ。

 ただし、より重要で明確な事実は、必死になって走るBTSを、ARMYという国境を越えた多くの人々が応援し、これからもBTSと共に走っていくことである。BTSとARMYの伴走は、今後のBTSメンバーの兵役履行により、一時的に動きが沈静化するようにも見える。しかし、「俺たちはちょっと早い」と何気なく自慢するBTSはあっという間に「もう行こう 準備はいいか」と、ARMYたちを目覚めさせるだろう。

2023年3月15日刊、明石書店新刊『「BTS学」への招待 大学生と考えるBTSシンドローム』(北九州市立大学・李東俊ゼミナール編著)
2023年3月15日刊、明石書店新刊『「BTS学」への招待 大学生と考えるBTSシンドローム』(北九州市立大学・李東俊ゼミナール編著)

『「BTS学」への招待 大学生と考えるBTSシンドローム』目次

プロローグ 「BTS学」へようこそ(李東俊)
第1章 BTS、君は誰? (木村愛結・風呂中里菜)
第2章 今、私たちの「心の地図」(今浪ユリヤ・藤岡李香)
第3章 歌詞から読み取れる熾烈なヒューマニズムの物語(星野光晴・小吉美彩貴)
第4章 マーケティング戦略から見るBTSの売上方程式(太田雅子)
第5章 東アジアのなかの「韓国発」アイドルBTS(田村凜香・藤本風歌)
第6章「壁」を越えて(塚盛可蓮・泉咲都季)
第7章 「自分を愛し、声を上げよう」(金ミンジ・川野友里亜)
第8章 「共に生きていこう」(近藤碧・眞名子優斗)
第9章 永久平和に向かった「嗜好共同体」? (鮫島夏葉・安藤咲彩)
エピローグ 「BTSへの旅」を振り返って(李東俊)

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