感覚知覚の研究、できるかな?
記事:朝倉書店
記事:朝倉書店
前回「ヒトの感じ方は色々あります」では、感覚知覚研究の素材には多種多様なモノがあることをご紹介しました。
https://book.asahi.com/jinbun/article/14902487
実は10年以上前に、ほぼ同内容の『感覚知覚心理学』という書籍も担当しました。その時と大きく異なっているのが、インターネット上で様々な関連画像が見られるようになったことです。写真家・本城直季氏によるミニチュア効果の「小倉城」など、一部は口絵に転載しましたが、掲載の何十倍という画像が見られます。
前回ご紹介した「北岡明佳の錯視のページ」は開設されて10年以上の老舗ですが、それ以外にも、まとまって画像が見られる以下のようなサイトがあります。
今回はこうしたサイトの画像も含めて、もっと色々なモノをご紹介していってみます。
今回も、まずは『感覚知覚の心理学』の表紙の図の紹介からはじめてみます。
表紙のまんなかにある立方体の左にある図、点が放射状に並んでいるのがわかるでしょうか? 小さすぎて、これだけではわかりにくいかもしれませんが、これが「動く」と想像してみてください。そうした動画像を、SF映画やアニメ等で「ワープ」といった高速移動の場面で見たことがないでしょうか?
この放射状の図は、「オプティックフロー」(詳細は7章「運動の知覚」を参照ください)と呼ばれるもので、人が見る自然な情景を研究対象とする試みです(ギブソンなど)。一方、「ワープのような動画」は、見る人に「動き」を体験させる仕掛けとしていろいろな場で使われてきました。
現在では映画館に行かずとも、こうした動画をインターネット上で気軽に見ることができます。たとえば「心理学の教材」(伊藤博晃・作)(https://itohhiroaki.com/optic-flow/)では、「高速移動でワープするときによく見るあれ」というタイトルの動画を見ることができます(等倍速から128 倍速まで)。「あれ」の部分に、スターウォーズが入るか、スタートレックが入るかは、個々人の関心と経験によるかと思います。
こうした「自分が動いている」と感じさせる現象を、ベクションといいます(詳細は本書12.1節「ベクション」をご参照ください)。
『感覚知覚の心理学』で「ベクション」(12.1節)の著者の1人の妹尾先生は自らユーチューブチャンネルを主宰し、多種多様な素材を提供されていますので、ぜひご覧下さい(https://www.youtube.com/@senolab2392/videos)。
このベクションは娯楽施設でも使われています。有名なのはディズニーランドのスターツアーズですが、遊園地のアトラクションとして先行する試みがすでに19世紀末からあったということに驚きです。巨大なブランコ状の座席を置き、それを取り囲む家の内装を模した壁・天井・地面がぐるぐると回転するというものだったそうです(Haunted Swing と呼ばれていました)。
さて、今度は自分で何か作ってみませんか? 「動画はちょっと無理」かもしれませんが、「首振りドラゴン」という、ちょうどよいものがあります。展開図もインターネット上で入手できますので、ぜひ自分で作ってみてください。
このドラゴンの顔は、実は「へこんで」います。ところが、どう見てもへこんでは見えません。「顔はでっぱっているものだ」というヒトのもつ思い込みを利用した錯視のひとつです(ホロウマスク錯視と言います;本書6章「3次元空間の知覚」の6.3「絵画的な奥行き知覚」をご参照ください)。
この首振りドラゴンはとても有名なもので、「見たことがある」「知ってるよ」という人も多いと思いますが、ここはぜひ自分の手を動かして作ってみてください。作ってみるとこれが「楽しい」のです。「不思議なものが自分の手で作れる」というのも不思議な感覚です。
NTT「イリュージョンフォーラム 錯視と錯聴を体験」サイトでは、こちらを「トラ」にした展開図が入手できます。このドラゴン(トラ)のもう一つの面白味に「ずっとこちらを見ている」というものがありますが、このサイトでは動画でそのありようを見せてくれます(錯視 > 運動錯視 > リバースパースペクティブ)。
https://illusion-forum.ilab.ntt.co.jp/reverse-perspective/index.html
やはり「自分で作ってみる」のは楽しいのです。気分はもう「できるかな」です。
「できるかな」とは、ゴン太君とのっぽさんによる工作番組(NHK教育テレビで)ですが、知っている人はだいぶ上の世代だと思います。この文章を準備しているときに、のっぽさんの死去が公表されました。小さいころに存分に楽しませてもらいました番組でした。心からの感謝を申し上げます。ちなみにゴン太君にはNHKの放送博物館で会えます。
実はPCなどが発達する前は、感覚知覚の研究者たち自身でこうした実験機器を作っていました。その一つに「二物体間の動きの因果性知覚」を見せる機器があります。
「二物体間の動き」とは、2つの玉の動きが、ビリヤードのように「ぶつかって動く」と見えるのか、「入れかわる」と見えるのか、などの「見え方」についての研究です。現在ではインターネット上でこうした動きのものを手軽に見られます(先の「心理学の教材」サイトでの「交差-反発錯覚」の動画など)。
PCなどないころに、ミショットさんは回転盤を使って、この二物体間の動きを見せる実験機器を作成しました(現物の写真は口絵18を。解説は7章「運動の知覚」の7.8節をご参照ください)。回転する盤のカバーにスリットを空け、後ろの回転盤を動きを、スリットを通して「線状に動いている」ように見せるという仕掛けです。
これだけでは「何を言っているかわからない」と思いますので、自分で作ってみました。意外に簡単な仕掛けですが、実際に作ってみると「回転の動きを1次元の動きに見せる」という発想にたいへん感動しました。いったい、どこから思いついたのでしょう。私がそんな課題を出されたら、パラパラ漫画でなんとかしようと挫折していたことでしょう。
今回は「心理学」から離れて、ほぼ「工作」の解説になってしまいましたが、「自分で実際に見てみる、触ってみる、作ってみる」というのは、たいへん楽しいです。「できるかな」、楽しい番組でした。「不思議」のネタは、案外、身近なところにもあるのではないでしょうか。滝を見たり、川の動きを見たり、天体の動きを見たり、などなど。
ちなみに、『感覚知覚の心理学』の編者である吉澤達也先生が所属されている神奈川大学人間科学部では、有志で「ILLUSION LIVE in JINDAI(イリュージョン・ライブ)」というイベントを開催されています(http://www.hs.kanagawa-u.ac.jp/illusionlive/)。
「有名な錯覚から、他所ではなかなか体験できない大型展示による錯覚まで、自分の目や耳、身体を通じて感じ、楽しむことができる体験型イベント」とのこと。お近くにお住まいの方は、足を運んでみられてはいかがでしょうか?