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AI時代に読みたい「無知論」 『イグノランス:無知こそ科学の原動力』

記事:東京化学同人

知識は大きなテーマだが、無知はさらに大きく、興味深い。 画像:StunningArt/Shutterstock.com
知識は大きなテーマだが、無知はさらに大きく、興味深い。 画像:StunningArt/Shutterstock.com

 文学者のジョージ・バーナード・ショーは、アルバート・アインシュタインを囲む夕食会の乾杯で、次のように述べました。「科学は常に間違っています。問題を解決するたびに、10個以上の新しい謎が生まれるのです」。実際、科学は知識を生み出す速度を超えて、日々、無知(イグノランス)を生み出しています。

 もちろん、知識を持つことは素晴らしいことですが、私たちは完全にすべてを知ることはできません。しかし、自分が知らないことや理解していないこと、そして未知のことに対して、イグノランスという概念は非常に重要な役割を果たしています。

 イグノランスは、新しいアイデアや発見を可能にする刺激となります。私たちは「何かを知っている」という感覚によって専門家たちが進歩を生み出していると思いがちですが、新しい視点やアイデアを見つけるには、自分のイグノランスに向き合い、素直に疑問を持つことが必要なのです。

 イグノランスへの自己認識は、謙虚さを醸し出します。私たちが知っていることの限界を認識することで、他人の意見やアイデアに寛容になることができます。これにより、私たちは多様なアイデアを受け入れることができ、さらなる知的進歩を達成できます。

 イグノランスに対する認識は、私たちが思い込みや偏見に固執することを避けるのにも役立つでしょう。何かを知っていると思い込むことで、自分の意見や信念を固く持ち、他人の意見を受け入れることが難しくなります。しかし、イグノランスについて認識し、自分の限界を認めることで、バイアスを避けて客観的に物事を見ることができ、より妥当な判断を下すことができるのです。

 本書の最後の章では、認知心理学、理論物理学、天文学、神経科学の分野から事例が紹介され、そこで無知がどのように説明され、研究者が日々奮闘しているかが描かれています。無知は研究の真の姿を垣間見る窓となることがわかります。

 イグノランスは新しいアイデアや発見を可能にし、謙虚さを促し、思い込みや偏見を避けるために重要です。私たちは自らのイグノランスに向き合い、率直な疑問を持ち続けることで、より多様で豊かな社会を築くことができるのです。生成AIが登場し、「知識」が簡単に得られるようになった現代こそ、「無知」が持つ価値や意味について考えることは意義のあることかもしれません。

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