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神道関連の本、数十年かけてつくった圧倒的な品揃え:国学院大学生協書籍部

記事:じんぶん堂企画室

国学院大学生協書籍部の齋藤倫さん
国学院大学生協書籍部の齋藤倫さん

神道を専門に学べる大学の書籍部ならでは

 現在、全国には約8万の神社があり、「八百万の神々」といわれるように、各地の神社には多彩な神々が祀られている。神道は開祖や教祖、教典を持たず、森羅万象あらゆるものに神が宿るという思想に基づいているが、宗教というよりは民衆信仰のようなところがある。神社は、神と人間を結ぶ祭祀が行われる場所であり、やがて個人の願いも受け入れる場になったといわれている。

 日本人は“無宗教”の人が多いといわれているものの、多くの人は正月に初詣に行くし、観光地に行けば地元で有名な神社に参拝する。また、近年は、参拝した証である「御朱印」を集める人や、神社を“パワースポット”ととらえて巡る人も増え、神道や神社への関心も高まっている。

 そんな神道を専門に学べる大学は、国学院大学神道文化学部(渋谷区)と、皇学館大学文学部神道学科(三重県伊勢市)の二つ。国学院大学では、神道文化学部だけでなく、全学部の学生が必修で神道を学ぶことになっている。また、学外からも参加できる神職養成講習会も定期的に開催している。

一見、どこの大学にもある生協書籍部のようだが……
一見、どこの大学にもある生協書籍部のようだが……

 国学院大学渋谷キャンパス3号館地下1階にある書籍部は、一見、どこの大学にもある書籍部と変わらないが、向かって左側の壁面や棚を中心に、神道関連の書籍がずらりと揃い、その数は1千冊以上にも及ぶ。かなり前に出版された書籍も、神道に関連するものであれば取次に返品せずにストックし続けているため、他の書店や版元でも既に在庫がないものもあるかもしれないという。

圧倒的な神道関連書籍の品揃え。見たことがない本が数多く並ぶ
圧倒的な神道関連書籍の品揃え。見たことがない本が数多く並ぶ

生協職員になった元学生が、書籍部の見習い中

 2022年12月に、異動で書籍部の担当になった齋藤倫さんは、実はこの大学で学び、食堂でのアルバイトなどを経て、そのまま生協に就職した。

「僕は法学部でしたが、必修で神道は勉強しました。当時、教科書は買ったけど、正直なところ、この神道関連の棚をじっくりと見たことがなく、異動した直後は全然わかりませんでした。仕事を実際にやってみて、最近ぼんやりと輪郭がつかめてきた感じです」(齋藤さん)

 実は、この神道関連の充実した棚を、数十年かけて作り上げた立役者がいる。それが、生協を定年退職後、パートとして働く榎本清さんだ。国学院大学に生協が誕生したのは1965年で、榎本さんが書籍部で働きはじめたのは1981年のこと。

 教科書や副読本として採用される本、同大学で神道関係の研究者が執筆した本、神道や神社関連の専門書を出版している神社新報社の本などに始まり、教職員や学生からリクエストのあった本、取次や出版社から送られてくる新刊情報から榎本さんが「これは神道と関連がありそう」と思って発注した本などを少しずつ増やしていった。

近年、神社関係の入門書が数多く出版されており、それらはしっかりと平積みに
近年、神社関係の入門書が数多く出版されており、それらはしっかりと平積みに

「大型書店で、仏教関連本を宗派ごとに揃えて充実させているところは見かけますが、神道関係は意外と寂しい棚のところが多いんですよね。最初からこの書籍部で神道関係の本を充実させようと思ってやっていたわけじゃなくて、お客さんの需要に応えて、これいいなという本を拾っていくうちに今の本棚が出来上がった感じ。返品のタイミングを失って今もここに残っている、というものもありますが(笑)」(榎本さん)

神道から派生し、古典や民俗学の書籍も充実

 神道には、キリスト教の聖書や、イスラム教のコーランに当たる聖典はない。そのため、昔の人たちがどのように神への信仰を抱き、祭りなどを行ってきたかを知るためには、平安時代中期までに記された文献から、古代神道の実態に関する記述に触れる必要がある。こうした関連文献を“神道古典”と呼んでいる。そのため、書籍部でも「古事記」や「日本書紀」、「風土記」、「万葉集」なども神道関連書籍として収集してきた。

日本の古典文学なども手厚くフォロー
日本の古典文学なども手厚くフォロー

「こうした文献に関連する書籍も集めてきたので、どんどん棚が広がっていきました。万葉集の研究で知られる上野誠先生は、本学の卒業生で特任教授でもあり、先生の万葉集関連の著書は揃えています。また、民俗学も神道と密接な関係があるので、民俗学関連の本もいろいろ揃えました。民俗学者の折口信夫先生も本学出身で慶応義塾大学の教授でしたが、おそらく慶応大三田キャンパスの生協書籍部や大型書店よりも、うちの方が折口先生の本を多く集めていると思います」(榎本さん)

榎本さんが「どこよりも充実しているはず」と自負する、折口信夫コーナー
榎本さんが「どこよりも充実しているはず」と自負する、折口信夫コーナー

 棚を見ていると、きちんと分類され、整然と並べられている。近年、パワースポットとして神社が注目されるようになってからは、各地の神社を紹介する本や、正しい参拝の仕方をまとめた本など、一般向けのやさしい入門書が増え、そうしたものもしっかりとカバーしている。イラストなどを多用した装丁も多く、面陳や平積みにすると、結構目を引くものがある。こうした棚作りは齋藤さんの役目だ。

鮮やかな赤と白の装丁が目を引く
鮮やかな赤と白の装丁が目を引く

「生協の書籍部なのでスペースには限りがあります。限られた場所の中で、トレンドを追うのと、伝統的なものを残すバランスは意識するようにしています。マンガやアニメで神社や巫女などが登場するものもあり、こうした方面は私の得意分野で、かつ、この書籍部で扱うべきもの。だから、見つけた時は『めっけもんだな』と思って喜んで揃えています(笑)」

 とある小さな稲荷神社を舞台にしたマンガで、アニメ化もされた『ぎんぎつね』(集英社)は、神社の娘で高校生のまことが、神職を目指して国学院大学への神学を決意する場面があり、作者・落合さよりさんもこの書籍部を訪れたという。また、宮司の息子、住職の息子、牧師の息子の3人が繰り広げるコメディーマンガ『さんすくみ』(小学館)の作者・絹田村子さんも、取材で大学を訪れたことがあるという。絹田さん直筆の色紙が店内に飾られている。

“マニアックな棚”は褒め言葉

 同大学では、学外の人も参加できる神職養成講習会が開催されているため、この時期は神職を目指す受講生が、「なかなか買えない本がたくさんある」とまとめ買いする人も多いという。また、一般の人も立ち寄れるため、神道に関心がある人が来店することもある。

「一般のお客様がいらっしゃって、“マニアックな棚だね”“神道関係の本が充実していいね”とお褒めのお言葉をいただくこともあります。これはひとえにエノさん(榎本さん)が作り、守ってきたおかげなのですが、これからも大切にしていかなきゃいけないな、と思います」(齋藤さん)

「大型書店でも神道関係はあまり揃っていないですし、うちが神道関係なら日本一かなという自負はあります。でも、海外にもないはずなので、イコール世界一ということになります(笑)」(榎本さん)

 神道関係の書籍は、派手なベストセラーはなく、改定を重ねたロングセラーのものが多い。しかし、1999年に発売された『縮刷版 神道事典』(弘文堂)は、この書籍部だけで約800冊を売ったことがあるという。

神道関係者の必須アイテム『神道事典』
神道関係者の必須アイテム『神道事典』

 以前は箱入りの大判だったこの事典は、神道の全領域をカバーしており、個々の用語や概念をわかりやすく解説しているもので、関係者には重宝されていた。これをカラー口絵以外の全ページを縮刷し、価格も1/4に抑えて発売されると聞いた榎本さんは、キャンペーンを張ることにした。

「うちの神道文化学部の卒業生や関係者に、特別価格でしかも送料も書籍部負担で販売するというDMを送りました。そしたら800冊も売れて、たぶん初版の1/3~1/4くらいはうちが売ったことになります」(榎本さん)

『縮刷版 神道事典』はその後も15刷まで版を重ね、今も棚に常備されている。

 もちろんここは大学内の書籍部である以上、文庫や新書、語学など、他のジャンルの本も扱っている。神道関係の次に目を引くのが、古典文学関係の書籍だ。

「うちは文学部も看板学部のひとつであり、研究者も多く在籍しているので、源氏物語などの古典文学の関連書籍も意識して揃えるようにしています」(齋藤さん)

神道文化学部の学生がデザインしたオリジナルブックカバー
神道文化学部の学生がデザインしたオリジナルブックカバー

 実は幼少期からそんなに本を読んできたわけではなかったという齋藤さん。しかし、国学院大学法学部に入学して必修で神道を学び、榎本さんのもとで教科書や本を仕入れて関連書籍に目を通しているうちに、神道や信仰、各地にある神社への心理的な距離感が近くなったという。

「神道は日々の生活に深く根ざしているところもあり、神道を体系的に学んでいなくても神様との距離感が近いというか……。入門書も多く出ているので、そういうものに目を通していると、神道ってすごく面白いなと感じるようになりました」(齋藤さん)

「民俗学」の棚も、なかなかにマニアック
「民俗学」の棚も、なかなかにマニアック

 異動して1年数カ月が過ぎ、今もパートで働く榎本さんの仕事ぶりを見ながら日々学んでいる。

「エノさんは頑固で職人気質で、教えるのが下手(笑)。神道関連の書籍集めはエノさんのセンサー頼りのところはありますが、自分も『この本いいんじゃないですか?』とエノさんに提案したりして、一緒に働くうちに少しずつセンサーが働くようになってきた? と思っています」(齋藤さん)

「後進の職員に、こういうことを大切にしてほしい、守ってほしい、なんてものは特にないですね。ここに来れば、実際に手に取ることができる書籍が揃っていて、みなさんの需要にお応えできればそれでいい。信念なんて大それたものはないですし、うちの棚から何かを語ることもない。信念よりも、売れなきゃ意味がないですし。うちはよほどのことがない限り、神道系の大学という肩書はついて回るわけで、今まで集めてきた本はこの先も残していくべきだとは思いますが」(榎本さん)

神道関連のおすすめ本、たくさんあります!

 ここで、齋藤さんにおすすめの書籍を挙げてもらった。1冊目は、神道の入門書であり、同大学でも教科書として長年採用している『プレステップ 神道学〈第2版〉』(弘文堂)だ。神道文化学部の教授陣が執筆を担当しており、2011年の学部開設20周年というタイミングでこの改訂版が刊行された。神道の歴史、現代社会と神道、祭りから見た神道など、さまざまな角度から神道や神社について解説されている。

「これはまさにうちのロングセラー。神道全般の入門書としてはすごく優秀で、とてもわかりやすいのが特徴です。神社の参拝方法なども載っているので、これを読んでから神社に参拝に行くと、さらに楽しめるはずです」(齋藤さん)

 2冊目は、『魔法少女はなぜ変身するのか ポップカルチャーのなかの宗教』(春秋社)。著者の石井研士さんは神道文化学部教授で、宗教研究の第一人者。アニメやマンガで数多く登場する宗教表象とその変遷を丹念にたどり、現代文化と宗教性の絡みあいを解いた一冊だ。

「変身する魔法少女や、現代の宗教との関わり方が網羅されていて、単純に魔法少女アニメの通史としても楽しめます。最近のトレンドでもある異世界転生もからめつつ、現代社会や日本人の宗教観がどうポップカルチャーに落とし込まれているかが丁寧に解説されていてすごく面白かったです。学生にもよく売れていました」(齋藤さん)

 3冊目は『はじめて楽しむ万葉集』(角川ソフィア文庫)。「万葉集」に収録されたものといえば、額田王や大伴家持などの歌がよく知られているが、あまり知られていなかった歌も含めて、わかりやすい解説とともに多数紹介している。

「これはまさに万葉集の入門書としてうってつけ。上野先生はテレビなどにも登場する人気の研究者ということもあり、長く売れている一冊です。柔らかい口調で解説されているのでとても読みやすいです。また、『宴会を抜けなくてはならない時に、自身を少し滑稽に見せることでまわりの反感を買わずにきれいに去る』といった、哀愁と洒落が感じられる歌も登場し、現代人に通ずるものもあるな、と思いながら楽しめました」(齋藤さん)

 4冊目は『現代語訳 武士道』(ちくま新書)。新渡戸稲造が、「なぜ日本には宗教教育がないのに、道徳を教えることができるのか」という外国人の知人からの問いかけを受け、武家に生まれた新渡戸が、その答えを武士道に見出せると、英語で執筆したもの。齋藤さんが個人的に好きで、何度も繰り返して読んでいるという。

「外国人に向けて英語で書かれた本の現代語訳です。武士道の源泉を、神道、仏教、儒教のなかに探り、欧米思想との比較もしつつ解説しています。日本独自の思想だけでなく、欧米思想のあり方も学べるし、気付きの多い一冊なので、忘れかけた頃に繰り返し読んでいます。堅苦しさがないのもいいんです」(齋藤さん)

 この書籍部に来れば、神道やその関連の書籍があるという圧倒的な安心感と信頼感がある。榎本さんがじっくりと時間をかけて“日本一の神道関連の棚”を築き上げ、齋藤さんら若手職員が受け継いでいくことになるのだろう。

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