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「好き」と「嫌い」から見えてくる鳥の心と個性

記事:春秋社

仲のよい鳥にちょっかいを出すセキセイインコ(イラスト:ものゆう/『人も鳥も好きと嫌いでできている』より)
仲のよい鳥にちょっかいを出すセキセイインコ(イラスト:ものゆう/『人も鳥も好きと嫌いでできている』より)

 歴史の中で長く接してはきたものの、鳥に対する人間の理解はあまり進んでいるとはいえない。実際、鳥の心には、ほかの哺乳類以上に人間に近い部分があるが、その事実もほとんど知られていない。それは、多くの人間が、鳥類は哺乳類よりも下位の生きものと、根拠なく思いこんでいることが大きく影響している。

 もっている感情やその表現方法、コミュニケーションのしかたなどを知ることで、鳥と人間の近さが見えてくる。インコやオウムの精神には、ほかの鳥よりもさらに人間に近い部分がいくつもある。それが理解されたなら、人類の動物観は大きく変わるはずだ。

 知性において鳥類は、多くの点で哺乳類を超える。インコやオウムにも、イヌやチンパンジーに勝っている部分がいくつもある。そもそも、道具を作ったり使ったりするものは、哺乳類よりも鳥類のほうが圧倒的に多い。決して見下してよい相手ではないのだ。

「好き」と「嫌い」がもつ意味

 初対面の相手のことをもっと知りたいと思ったとき、私たちはよく「好き」と「嫌い」をたずねる。どんなものに関心があり、なにが好きなのか示してもらえたなら、相手の素顔と個性がわかる。そこから、物事に対する考えかた、人間性や、キャラクターの基本となっている性格もわかる。人間相手の場合、とても有効な方法なのだ。

 私たちの心は、人やもの、状況、生きもの、食べものなどに対して、「好き」「嫌い」「無関心」「未確定」の4つに分類することができる。インコやオウムも実はおなじだ。それゆえ、人間とおなじやり方――、すなわち「好き」と「嫌い」から相手を知る方法でインコやオウムと向き合うと、彼らのことがより深く理解できる可能性がある。そうした思惑で書かれたのが、『人も鳥も好きと嫌いでできている』だ。

(写真提供:神吉晃子)
(写真提供:神吉晃子)

 人間の中で「好き」と「嫌い」が形成されていくにあたっては、一定の道筋が存在する。生まれてすぐに感じるのが、生理的な「快」と「不快」で、やがて「心地よい・好き」、「不快・嫌い」を経て、直感的な「好き」「嫌い」と、経験による「好き」「嫌い」が生まれ、その組み合わせによって「心」がかたちづくられていく。

 また人間には、もって生まれた「気質」がある。たとえば、神経質かどうか、集中力は続くか、厭きやすいか、活動的かどうかなどが生得的な「気質」と呼ばれるものだ。「好き」や「嫌い」の感じかたも、こうした気質の影響を受ける。「好き」と「嫌い」は気質の上に形成されるといってもいい。そうした考えかたがあることを示唆してくれたのが、「発達心理学」である。

 人間の心は、生得的な気質に「好き・嫌い」や、「関心をもつもの/関心がもてないもの」が加わって形成されていくが、おなじことがインコやオウムにもいえる。鳥たちの心も「好き、嫌い、無関心、未確定」の4つからできていて、それらがもって生まれた気質に重なるかたちで個性をつくりあげている。近年になって、それがはっきり見えてきた。

「好き」と「嫌い」の始まり

 人間の幼児が「快・不快」を感じて心地のよさを求め、そこに安心を得るのとおなじように、幼いインコやオウムも心地よさと「安心感」を求める。それが彼らの「好き」「嫌い」の原点となる。

 インコやオウムの「好き」と「嫌い」は、三つに分類ができる。ひとつは生まれもっての気質に由来する好き・嫌い、それから経験がつくる好き・嫌い、そして最後に繁殖の際に強く影響が出る遺伝子に刻まれた好き・嫌いだ。

 「急かされるのは好きではない」、「のんびり暮らすのが好き」などは生来の気質と関わる「好き・嫌い」で、その根底には人間と同様、「快」と「不快」がある。一方、「あるものが好き、嫌い。この食べものは好き、嫌い。ある相手(鳥、人、ほかの生きもの)が好き、嫌い。ある状況を好ましく思う、思わない」などの「好き」と「嫌い」は、経験がつくる。

 気質由来の好き・嫌いと、経験からくる好き・嫌いが組み合わさることで、好みという点における、その鳥の個性、キャラクターができあがっていく。つまり、人間とあまり変わらないかたちで、個性の一部をなす「好き」と「嫌い」ができあがっていく。そうした「好き」と「嫌い」を基準に相手を見ることで、心の本質が見えてくる。『人も鳥も好きと嫌いでできている』は、ここを目指した。

「好き」の伝え方の上手、下手

 インコやオウムは、好きな相手に躊躇なく「好き」を伝えられる生きものだ。そして、「今」を生きるものである鳥には、「明日、伝えよう」という意識はない。同種や異種の鳥はもちろん、人間に対しても同様だ。好きであると自覚すると、その対象が同性であったとしても気持ちを伝える。結果として、カップルが成立してしまうことがある。それは飼育下に限定されない。野生でも鳥類の同性カップルの存在は多数、確認されている。

 興味深いのは、セキセイインコ。それなりに仲のよい鳥に対して、こっそり死角から忍び寄って蹴ってみたりする。もちろん相手にケガを追わせるような強い蹴りではなく、軽く「こづく」ようなやり方で。そして、蹴ったあとは「ボクはなにもしていませんよ」とそしらぬ顔をする。これをするのは好きな相手に対してで、無関心の相手には絶対にしない。蹴られた相手は状況的にだれが蹴ったのかわかるが、理由がわからないので困惑する。

 かなり古い時代から、小学生くらいの年齢の男の子が、好きな女の子や気になる女の子に対して髪を引っぱるなど、少々暴力的ともいえる方法で気を引こうとしてきた。自分に関心を向けたいという行動だが、されたほうはどちらかといえば悪印象をもつ。セキセイインコがしていることも、それに近いようである。一方、相手の反応を見て、いつもと変わらず元気かどうかを確認する意図も、どうやらセキセイインコにはあるようだ。インコの「好き」の表現は奥が深い。

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