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5年ぶりの新刊! 平凡社新書『50代上等!』著者 常見陽平氏インタビュー

記事:平凡社

「自分が50歳を迎えたことで50代をポジティブに捉えることができるようになりました」と話す常見陽平氏
「自分が50歳を迎えたことで50代をポジティブに捉えることができるようになりました」と話す常見陽平氏

11月15日に刊行予定の平凡社新書『50代上等!――理不尽なことは「週刊少年ジャンプ」から学んだ』(常見陽平・著)
11月15日に刊行予定の平凡社新書『50代上等!――理不尽なことは「週刊少年ジャンプ」から学んだ』(常見陽平・著)

“うつ抜け”のきっかけにもなった新著

――いよいよ、11月15日に全国の書店で新刊が発売されますが、今の心境をお聞かせいただけますか。

常見陽平:非常にすっきりとした気持ちですね。自分でも不思議なくらいです。約5年ぶりの新刊ということもあって、生まれ変わったような。再デビューという感じですかね。

 あまり言い訳をしたくはないのですが、子どもが産まれてから、本当に毎日がいっぱい、いっぱいという感じでした。日本の男性は育児への関わりが弱いと言われる中、では、仕事をしながらガッツリとやってみたらどうなるだろうと思い、「兼業主夫」になり、1日6時間、育児や家事に取り組む日々をおくりました。宇多田ヒカル風に言うと「人間活動」で充実していましたが、仕事、特に執筆の仕事が滞りました。これもまた現実です。育児、家事をしない男は糾弾される時代ですが、いざやってみると誰からも称賛はされない。当然ですけど。いままで、女性がそんなモヤモヤを抱えていたのですよね。よく理解しました。腰を据えて原稿をきちんと書くということがなかなかできなかったのです。ようやく子どもが大きくなり(現在小学1年生)、昨年あたりから少しずつ時間を確保することができるようになりました。そんなタイミングでちょうど編集者から連絡がありまして。実はずっと前にオファーをいただいたものの、まだ完成に至っていない本が数冊あり、他社の編集者さんからは「なんで先にこっちを書いたの?」と叱られてしまいそうですが……。(すみません、これから真剣に取り組みます!)

50代の知人・友人から「50代本、出して!」

――今回の本は「50代」がテーマです。なぜ50代をテーマにしようとお考えになったのですか。

常見:私自身、ジャスト50歳なんです。実は、40代後半あたりから、自分自身で何か悶々とした感情を抱くことが多く、うまく表現できないのですが、「アラフィフってこんな感じだったっけ?」「こんなのでよいのかな?」「大丈夫かな?」と自問自答する日々が続くこともありました。50歳になる1年前(2023年春)のある日、「50代についての本を書いてもらえないか」と編集者からメールをいただきまして。他の本をお待たせしているので、断る気満々で打ち合わせをしたら、想像を超えるエキサイティングな企画で。この本を書くことで自分でも何か変わる、乗り越えることができるのではないかということ、まず、この本を書こうと。

 また、「常見さん、50代についての本、書かないの?」「50代をテーマにした本、読みたい」という声を仕事関係で会う方や友人からあちこちでいただいて、皆がそれほどまで必要としているのではあれば、取り組まねばならないと思ったのでした。

本づくりは“セラピー”のようだった

――執筆は大変でしたか。

常見:今までのスランプが嘘のように、書けました。デビュー作の頃のように、言葉が湧き出てくるというか。村上春樹風に言うと、私はこの原稿を書きたかったし、この原稿も私に書かれたがっていました。とにかく溢れる想いを書き殴り、編集者のフィードバックを受けて、ブラッシュアップする作業の繰り返しでしたが、原稿がようやくかたちになろうとしたあたりから、モヤモヤしていたものが少しずつとれていって。まさに、“うつ抜け”のような感じですかね。編集者と打ち合わせをし、原稿やゲラのやり取りをする中で、自分自身にとっての新たな気付きもあって、この本を書くことが自分にとっての“セラピー”でしたね。

――その「新たな気付き」とは?

常見:なんで自分がこんなに苦しいのだろうと振り返ったとき、どこか無理している、頑張っている自分がいる、ということに気付いたのです。「よいもの、しっかりした内容のものを書こう」と理想を高く掲げすぎてしまっていたのではないかと。本書がしっかりとした本ではない、という意味でありませんよ(笑)。

 あと、他にも気が付いたことがあります。従来のいわゆる「50代本」というのは、どちらかといえば、「どううまく人生を締めくくることができるのか」というような後ろ向きの本や、「老化を食い止めるためには」のような健康本、そして「モノや人に執着せず、手放しましょう」という断捨離系の本が多く、50代のための「明るい」本が非常に少ないことに気が付いたんです。「50代以降は人生を降りなくてはならないのはおかしいんじゃない?」ということで、あえて明るい方向に向かいました。編集者からの「悲観論は、もう、いいじゃないですか」という言葉も後押ししました。その部分は、他の本にもう書かれているので、大胆に削除しました。

“普通の幸せ”を書きたかった

――たしかに、50代をテーマにした本の大半はネガティブな内容が多数を占めますね。60代、70代だとまた違ったテーマになる。

常見:50代前後の人は「ロスジュネ世代」「就職氷河期世代」と言われます。経済的、社会的な影響を受けて希望通りの職業に就くことができない、学びの道が絶たれたと語られる世代です。実際は、どれくらい苦労したのか、現在の状態を含め、振れ幅があるのですけどね。私も含め、この世代の人たちは、「自分のせいなんだ」という結論にもっていきがちなんです。新自由主義の犠牲者が、新自由主義者化したともいえます。今回の本では、そういう傾向を「自己責任グセ」としています。私はこの「自己責任グセ」さらには「就職氷河期世代仕草」をなんとかしなくてはならないと思っています。ですから、今回の本は、50代を“再起動”させるための本でもあるのです。「最後のマス」と言われるこの世代が「就職氷河期的な何か」を脱しないと、日本は明るくなりません。

 もちろん、経済的に苦しい事情を抱えている人がいることはわかっています。私も就職氷河期世代支援事業に携わっていますので、実情はしっかりと受け止めています。本当に大変な状態の人がいるということは事実です。ただ、これまでの50代本は「かわいそうだよね」「大変ですね」という雰囲気が強く、読んでいて気持ちが沈むことが多かったんです。これは私だけではないと思います。その一方で、同じ50代でも成功している人もいますので、そういう人たちにフォーカスしたイケイケな内容の本もあります。50代ほど“振れ幅”が大きい世代はないと思っています。

 ただ、周囲を見渡してみると、ごく普通の生活を送っている人もいて、むしろ、こうした普通の50代は多いのではないかと。でも、彼らのための本があまりにも少なく、私はいつか“普通の幸せ”を感じている人たちに向けた生き方本を書きたいという気持ちを温めていたんです。普通の人の、普通の幸せは、代表作『僕たちはガンダムのジムである』(ヴィレッジブックスで刊行され、現在は日経ビジネス人文庫になっている)からのブレないテーマです。

バンド活動、小説を書く……50代にして広がる夢

――常見さんはどのような50代を送りたいですか?

常見:非常にシンプルで、ありきたりかもしれませんが、「自由に楽しく自分らしく生きたい」、この一言に尽きますね。40代はなんだかんだと周囲の空気や意見を気にしすぎていたこともあって、ちょっと息苦しく感じる時期もありました。でも、そうした鬱々とした時期を乗り越えることができて、これからは自分の好きなこと、自分がよいと思ったことを信じて進むこと、このスタンスを貫こうと思っています。まあ、期待にも応えてしまうのですけど。

 より個人的な話をして恐縮ですが、音楽活動に真面目に取り組んでいきたいですね。ベーシストとしてステージに上がる回数を増やしていきたい。50代のうちにロックフェスに出演したいです。その前に、年内にこの本の発売記念で50代限定の忘年会のようなイベントを開催できるといいなあ、と漠然と考えています。

 あとは、小説を書きたいですね。それも、令和のプロレタリア文学を書きたいです。そして私が書いた小説がいつしかNetflixでドラマとして全世界に配信されるといいなあ、と漠然とした夢を抱いています。「幸せな夢をみていいですねえ」と言われてしまいそうですが、そんなことを考えている今が本当に楽しいんです。夢しか実現しないですから。今日が人生で一番若い日ですから。

 だから、50代を楽しみましょう!と声を大きくして言いたい。本書をお読みになった方から、「私はこんな楽しいことをしている」「私の50代の楽しみ方を聞いてください!」などのメッセージをいただけたら嬉しいですね。(大歓迎です!)

(構成=平凡社新書編集部)

『50代上等!——理不尽なことは「週刊少年ジャンプ」から学んだ』目次

第1章 50代の憂鬱
キムタクも私も50代になった件/いつの間にか「ソフト老害」になっている件/同世代や先輩のリアルな姿からわかること/「同窓会」に参加していますか?/消えていくフリーランス/「自己責任グセ」が止まらない/「就職氷河期世代」というけれど/「不適切にもほどがある!」のだけど/どこにも居場所がない「松井秀喜世代」の私たち
コラム 新しいマナーにどう向き合うか?

第2章 50代の希望
最高に稼げる時代がやってくる?/年齢をいったん捨てる/会社と社会の変化の目撃者として尊重される/「番頭」「経験者」として頼りにされる/客、消費者として大事にされる
顧問業、大学教授、地方議員など、意外な職業に就くことができる/人間関係が気持ちよくなる/健康に気をつかうのは、案外楽しい/おしゃれが楽しくなる/「サブカル好き」を隠さなくてもよくなる/時間の主導権を握ることができる/「人生の忘れもの」に決着をつけることができる/生きる喜びを実感できる
コラム 「理不尽なこと」はすべて「週刊少年ジャンプ」から学んだ

第3章 50代の処世術
「5年後、10年後にどうなっていたいか」を具体的に考える/「エア転職活動」をしよう
「エア移住」をしてみる/自分はもう若くないということを認識する/「ネタ帳」づくりのすすめ/手帳を読み返してみて、今ならできることを探す/評価ではなく、「評判」を大切にする/デキない人に寛容になる/「麻生太郎」になっていませんか?/「語り部」として、何が変わって、変わらなかったのかを伝承する/モーレツに働いた私たちだからこそ、職場の危険を指摘する/浮ついた言葉に騙されてはいけない/「忖度」する姿勢や風潮を次の世代に残さない/「学ぶ」を楽しむ。期待しすぎない/情報に踊らされない50代になる/体育会系気質をこえて/理想の辞め方を考える
コラム 痛いマニュアル本たち

第4章 50代が生きやすい世の中を! 
「年齢」に関する常識、基準をアップデートせよ/早期退職、役職定年を見直そう/ベテランが活躍する会社を立ち上げよう/キャリア教育、キャリア形成を支援せよ/50代の「副業」を推進せよ/「番頭」の登用、採用を強化せよ/「老害」を死語に、年齢を非表示にせよ/ロスジェネに青春をもう一度
コラム 私的50代の「To Do List」

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