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「男性の育休」本でひもとく 長い戦いに向け「基礎体力」を 写真家・加瀬健太郎

評者の加瀬健太郎さんと3人の息子たち=加瀬さん提供

 「育児のこと? 私やったらいくらでも出てくるけど」と妻が言います。そりゃ、あなたに比べりゃ僕は知らないこと、至らない点がたくさんあるのは百も承知。でもテーマは「男性の育休」ですから、語らしてもらってもよろしいでしょうか?

 うちは9歳、7歳、2歳の息子と妻と僕の5人家族。3年前、『お父さん、だいじょうぶ?日記』という、売れっ子とは言い難いカメラマンの家族の日常を書いた子育て?フォトエッセー本を出しました。僕はフリーランスなので、育休を取ったことは勿論(もちろん)ありませんが、仕事が結構暇なので、育休みたいな状態で子育てをしてきました。

 3人の息子の産後2週間は、いつも義母がヘルプに来てくれていたので、暇で家にいた僕は、義母とお茶したり、美味(おい)しい手料理をいただいたり、いつもより綺麗(きれい)な部屋で快適に過ごしたりして、見かねた妻に「あんたが楽してどうすんの?」と怒られるといった具合です。

働く方が楽か?

 「男性の育休」でまず思い浮かぶのは、「セクシー」発言で知られる小泉進次郎環境相の育休宣言。閣僚初の育休取得ですが、賛否両論になるところを見ると、まだまだ「男性の育休」が浸透するのは、ずっと先の話のように思われます。

 ではまず、事情を知るため、佐藤博樹、武石恵美子『男性の育児休業』を読む。副題の「社員のニーズ、会社のメリット」から分かるように、会社内での「男性の育休」の立ち位置が書かれています。休業中の仕事の引き継ぎ、休業取得後のキャリアへの影響、上司、同僚の顔色、他いろいろな状況を踏まえると、育休を取るより働いている方が楽そうで、取得率6%(2018年度「雇用均等基本調査」)という低さも頷(うなず)ける。

まずオムツ替え

 じゃあリアルに育休を取った人はどうだったか? 電通の魚返洋平の『男コピーライター、育休をとる。』を読んでみる。著者は大学生の時、就職活動の面接で、育休を取れるのかと質問していた逸話を持つ、まさに育休界のサラブレッドのような方で、半年間の育休にも「『やり切った感』が、なさすぎる」と言い放つ。さすがに言葉を生業とされている方だけあって、赤ちゃんのウンチを“ブリット砲”と呼び、軽快なテンポの文章と時折挟むJPOPの曲名や歌詞が相まって、育児って楽しそうだなと思わせてくれます。

 続いて、常見陽平『僕たちは育児のモヤモヤをもっと語っていいと思う』。著者は育休を取ったわけではないが、大学教員で比較的時間の自由がきくので、うまく時間をやりくりし、フルタイムで働いている妻に快適に仕事と育児を両立してもらおうと「仲居さんのように振る舞う」と心に決めます。外見が茶髪、長髪で、プロレスラーのよう(本人談)な著者が、甲斐(かい)甲斐しく働いていると読むと、僕はそっと心づけを渡したい気分になります。

 で、僕が思った「男性の育休」とは、プロ野球のキャンプみたいだということ。これからの長い子育てというペナントレースを戦い抜く体力をつけるのが目的。例えば、赤ちゃんのオムツ替え。幸い、離乳食前の赤ちゃんのウンチは臭くない。ウンチはこちらのオムツ替えレベルが上がった頃に臭さのレベルを上げてくる。たまに、ウンチが臭いからオムツを替えない父親がいると聞くけど、それはキャンプせずに公式戦途中から参加した助っ人選手のようなもの。なかなか活躍するのは難しいでしょう。やっぱり、キャンプインの前から自主トレするぐらいの気合で育児現役時代を生きないと、引退後の妻とふたりのセカンドキャリアも寂しいものになったりとか言って、自分そんなにしてないけど。=朝日新聞2020年2月29日掲載