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建築、家電、農業、医療、輸送…新しいテクノロジーのきっかけは生物だった?! 注目の技術「バイオミメティクス」の新たな入門書

記事:WAVE出版

橘 悟 著『バイオミメティクスは、未来を変える 生物をきっかけに創られたテクノロジー』(WAVE出版)書影
橘 悟 著『バイオミメティクスは、未来を変える 生物をきっかけに創られたテクノロジー』(WAVE出版)書影

バイオミメティクスとはなにか 

 これまで、「賢い!」「おもしろい!」「なんでやねんwww」と感じた生物はいないだろうか。生物は形も生き方も様々で、人間の想像をひょいと超えてくる。バイオミメティクスは、そのような多種多様な生物からモノづくりのヒントを得る技術である。Biomimeticsという単語は、Biology(生物学)、Mimesis(模倣)、Technics(技術)が組み合わさっている。私の言葉で表現すると、「生物の形態・生態・行動の形質を、新たな技術開発などモノづくりの参考にする技術とそれに関する研究領域」を意味する。

 有名な活用例として、水をはじくハスの葉を参考にした、ヨーグルトがつきにくいフタや、ガの眼を参考にした光反射防止フィルム、サメのウロコを参考にした速く泳げる水着、ゴボウの実のフック形状を参考にした面ファスナーなどがある。しかし、実はバイオミメティクスは、建築から宇宙、農業など、ありとあらゆる分野で活用例を生み出している、めっちゃおもしろい技術なのである。

生物からヒントを得るとなにができるの? 

 バイオミメティクスでどういうことができるのか紹介しよう。

 一つは、すでにある製品や要素技術の性能向上である。Speedo 社が開発した、速く泳ぐための水着『LZR Racer(レーザーレーサー)』がこれにあたる。すでに「水着」というモノがあって、「もっと速く泳ぐためにはどのような水着が良いか」という問題に対するヒントをサメから学び、泳いでいるときの抵抗を下げるウロコの構造を参考にすることでより速く泳ぐことのできる「新しい水着」が製品化された。つまり、すでに決められた課題を解決するための方法を生物から探すアプローチである。

 もう一つは、これまでになかった新技術や新製品の誕生だ。おそらく誰もが一回は使ったことのある面ファスナー、いわゆる『マジックテープ』*はこれにあたる。スイスの工学者ジョルジュ・デ・メストラル氏は、山を歩いていた際に野生のゴボウの実が服に引っかかることに気づき、その構造を観察した。トゲの先端がフック状になっていることで引っかかることを突き止め、これまでになかった「着脱容易な構造」として製品開発されたのが面ファスナーである。

 高速水着の開発と違うのは、面ファスナーは開発された時点で面ファスナーと同じような仕組みの製品が存在していなかった点である。このようにバイオミメティクスは、これまでになかった新しい製品や技術を生み出す可能性も秘めているのである。

*マジックテープ 株式会社クラレの商標登録

面ファスナーの開発のきっかけになったゴボウの実。
面ファスナーの開発のきっかけになったゴボウの実。

バイオミメティクスにはどんな事例があるのか 

「バイオミメティクスの活用や研究例で成功しているものは何か」と聞かれたとき、私なら「ハスの葉のロータス効果か、サメ肌のリブレット構造」と答える。サメ肌から誕生したバイオミメティクス技術は世界中で注目されている。サメ肌のバイオミメティクスといえば、2008 年の北京オリンピックで数々の好記録を生み出したことで話題となったSpeedo 社の高速水着『LZR Racer』を思い出す人もいるだろう。思えば、このサメ肌水着が有名になったことがバイオミメティクス開発に拍車をかけたのでは、と感じるほど素晴らしい着眼点であった。しかし、サメ肌が参考にされている技術は水着だけではない。ここでは、水着よりも多くの人に関係しそうな大注目の最新事例を紹介しよう。

 サメのウロコ1枚には、小さな溝が3本ほど並んだリブレット(Riblet)と呼ばれる構造がある。この構造は、泳いでいるときに体のまわりの水から受ける抵抗を小さくする効果があり、泳ぐために使うエネルギーを減らすことができる。少し詳しく説明すると、リブレット構造の小さな溝は、体表面におこる渦に影響する。この渦が生じることで抵抗力が発生するのだが、水の流れを乱さないようにして渦を小さくしたり、渦を体の表面から遠ざけたりすることでその抵抗力は小さくなる。つまり、進みやすくなるのである。

飛行機の燃料削減に期待されるサメ肌

 サメが泳ぐときに水の抵抗を減らすリブレット構造は、応用することで空気抵抗を減らすこともでき、航空機の機体表面への利用で燃費削減の効果が期待されている。Lufthansa Technik社とBASF 社は、サメ肌を参考に開発したリブレットフィルム『AeroSHARK』を共同開発した。Lufthansa Cargo 社はAeroSHARK を機体に貼りつけることで、年間1%削減効果を見込んでいる。1%の燃料というと少なく聞こえるかもしれないが、搭載予定機全体で計算すると、年間4000 トンの燃料、便数に換算するとドイツ(フランクフルト)―中国(上海)間の約53 便分、13000 トンのCO₂ 排出量、という膨大な削減効果になるそうだ。

 Swiss International Air Lines 社(SWISS) は、2022 年にAeroSHARK を搭載した世界初の旅客機の運航を開始した。そして、2023 年の一年間で2200 トン以上の燃料と約7100 トンのCO₂ 排出量を削減したと発表している。航空機にサメ肌の仕組みを搭載する研究開発は日本でも行われている。日本航空株式会社(JAL)は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)、オーウエル株式会社、株式会社ニコンとともに、機体の塗膜表面をリブレット構造にする開発を進めている。

 本書では他にも「え、世の中にはそんなバイオミメティクスがあるの?!」と驚いてもらえそうな20以上の新しい事例をピックアップしている。ぜひ本書を手に取って、バイオミメティクスの面白い世界に触れて頂ければ幸いである。 

『バイオミメティクスは、未来を変える 生物をきっかけに創られたテクノロジー』目次
『バイオミメティクスは、未来を変える 生物をきっかけに創られたテクノロジー』目次

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