セルフヘルプ本何冊分ものエッセンスが詰まった一冊 『自分にやさしくする生き方』書評
記事:筑摩書房

記事:筑摩書房
『自分にやさしくする生き方』は、認知行動療法の専門家である伊藤絵美先生による最新作です。著者は、公認心理師、臨床心理士、精神保健福祉士として幅広く活動されていて、洗足ストレスコーピング・サポートオフィスの所長も務められています。
本書のテーマは、「自分にやさしくする」ことです。著者は、これまでの臨床経験や研究を通じて、自分自身に対して寛容になることの重要性を説いています。読者が、自分自身を責めるのではなく、自分にやさしく接する方法を学び、心の健康を維持するための具体的なスキルを身につけることを目指しているのです。
本書は三部構成となっています。第Ⅰ部では、「自分の状態に気づく」ことを目指し、自己理解を深めるための方法が紹介されています。第Ⅱ部では、「周囲からサポートを受ける」ことを目的に、孤立しないための実践的な方法が提案されています。第Ⅲ部では、「自分にやさしくする生き方」を身につけるための具体的なステップが示されています。各章では、ストレス心理学、認知行動療法、スキーマ療法、セルフ・コンパッションなどの理論が複合的に用いられ、読者が自然にそれらを実践できるように構成されています。
最大の強みは、読みやすさと構成の良さです。心理学の本にありがちな、一章ごとに一つの治療理論が説明される形式ではなく、読者が「どのようになりたいか」というステップに応じて、複数の治療理論が自然に融合されています。これにより、専門用語の説明に煩わされることなく、スムーズに読み進めることができます。また、著者の豊かな臨床経験に基づいた事例が随所にちりばめられており、理論が現実の場面でどのように応用されるかを理解しやすくなっています。
さらに、読者の抵抗や本音をしっかりと受け止めてくれる点もおすすめポイントです。例えば、認知行動療法で重要視される「外在化」について、「とはいえ外在化を続けるのはけっこう面倒」と率直に述べている部分は、読者としても共感を覚えます。他にもスキーマ療法で用いられる「ヘルシーな大人モード」と「内なるチャイルドモード」についての説明をした後に、「ちなみにこの説明を読んで、ドン引きしている人がいるかもしれません」とすかさず書かれています。このように読者の誰も置いてきぼりにしない、客観性を保ちながら進めていってくれる親切さが救われます。このような親しみやすい語り口が、読者に安心感を与え、本音を出してもいいのだという気持ちにさせてくれます。
本書は、自分に厳しくしてしまう人々にとって、大きな気づきと変化をもたらす一冊です。特に、「自分はだめだ」「だらしない」と自分を責めがちな人々にとって、自己理解を深め、自分にやさしく接する方法を学ぶことができる貴重なガイドとなるでしょう。
最後に、個人的感想を述べます。伊藤絵美先生の著作は以前から読んでおり、その専門性と人間味あふれる語り口に大きな影響を受けてきました。本書でも、先生の豊かな臨床経験と謙虚な姿勢が随所に感じられ、ますますファンになりました。本書を読んで、自分自身があまりに自分に厳しいことに気づかされました。感謝の気持ちでいっぱいです。
『自分にやさしくする生き方』は、他の認知行動療法に関するセルフヘルプ本何冊分ものエッセンスが詰まった、非常に読みやすく実践的な一冊です。等身大の語り口と親しみやすい文体が特徴で、心にすっと入ってきます。今は悩みを抱えていない人にも、予防的に読んでほしい、全員が身につけるべきスキルばかりです。自分に厳しくしてしまう人々にとって、心の健康を維持するための貴重なガイドとなること間違いありません。
ぜひ多くの方に手に取っていただきたい一冊です。
第Ⅰ部 自分にやさしく気づきを向ける
第1章 ストレスに気づいて観察する
第2章 ストレスを感じる自分にやさしさを向ける
第Ⅱ部 周囲からのサポートを受けることで自分にやさしくする
第3章 孤立せずに人とつながることの重要性
第4章 サポート資源を確認したり調べたりする
第5章 サポートネットワークを作成し、積極的に活用する
第Ⅲ部 「自分にやさしくする」スキルを身につける
第6章 安心安全を自分に与える
第7章 中核的感情欲求に気づいて、満たす
第8章 セルフ・コンパッションを理解し、実践する