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87歳の現役イラストレーター・田村セツコが語る「自分らしい幸せの掴み方」

記事:WAVE出版

『田村セツコの私らしく生きるコツ 楽しくないのは自分のセイ』装画より (C)田村セツコ/WAVE出版
『田村セツコの私らしく生きるコツ 楽しくないのは自分のセイ』装画より (C)田村セツコ/WAVE出版

理想は“イカしたおばあさん”! 作者のおしゃれマインドから学ぶ「自分らしさの貫き方」

本書画像イラストより (C)田村セツコ/WAVE出版
本書画像イラストより (C)田村セツコ/WAVE出版

 エッセイ本には、その人の個性が溢れ出る。本書も、田村ワールド全開。いつまでもおしゃれを楽しむ田村さんのかわいらしい写真にほっこりさせられるし、各ページのカラフルさや、そこに添えられたガーリーなイラストにキュンとする。

 今日もおちゃめに過ごしましょ。そう語りかける田村さんは本書を通じて、気分を晴れやかにするおしゃれ法や健康のために心がけている習慣、仕事に対するマインドなど、様々な心の内を明かす。

 「多様化」という言葉が浸透しつつある一方、この国ではまだ「出る杭は打たれる」のが実情。自分らしさを表現し、貫き通すには勇気がいる。

 例えば、ファッション。田村さんも好きなファッションを楽しむ中で、冷ややかな視線に傷ついたことがあったそう。だが、田村さんは心ない反応を原動力に変換。冷ややかな視線から学びを得ようと、帰宅後、シンプルなシャツにコム・デ・ギャルソンのような個性的なパンツを合わせたスタイル画を描き、玄関に貼って、「もっとおしゃれを研究しよう」と、意欲を高める方向に心の舵を切ったのだ。

 おばあさんになった今だからこそ、果敢に色んなおしゃれにチャレンジして、自分の中にある“イカした理想のおばあさん像”を体現したい。そんな田村さんの言葉は年齢や骨格など、様々な枠の中で苦しんでいる人に刺さる。人はつい、誰かと自分と比較し、ないものねだりや自己卑下をしてしまいやすいが、自分をよく見つめれば、オンリーワンの感性や長所は必ずある。

 私も案外、悪くないじゃん。そう自分を認め、心身を労わりたくなる力が田村さんの言葉にはあるのだ。

「いくつになっても新しい世界が待っている」

「いくつになっても新しい世界が待っている」
「いくつになっても新しい世界が待っている」

 年齢は武器にもなるが、挑戦を止めるブレーキにもなる。年を重ねるほど、新しい世界に踏み出すことを「怖い」と感じてしまうのは、大人あるあるだ。それはきっと、自己防衛のひとつ。大人の挑戦は失敗した時、取り返しがつかないように思えるから、「やりたいこと」を見つけてもセーブをかけてしまう。

 そんな弱気な心をもう一度、奮い立たせてくれるのが、田村さんにとっても印象深い『あしながおじさん』の挿絵に関するエピソードだ。

 当時、若かった田村さんは無理をしながら締め切りに間に合うよう、苦手なペン画で『あしながおじさん』の挿絵を描いた。だが、線がガチガチになってしまい、読者からは厳しい声も……。心は、ひどく沈んだ。

 しかし、ずいぶん経った後、思わぬ出来事が。自身が描いた『あしながおじさん』を「大好き」と褒めてくれる人に出会えたり、イラストを真似てブラウスを作ったという嬉しい報告を受けたりしたのだ。

 それにより、田村さんは気づいた。絵には巧拙を超えた評価があるのだ、と。そして、緊張しながらも一生懸命、憧れの仕事をやり遂げた“あの日の自分”が愛しくも思えた。

 こうした経験を経たからこそ、田村さんは読者に対して、やりたいことには尻込みしないことの大切さを伝える。

 “謙虚であることは大切だけれど、足りない分は真心を込めて、人一倍、ていねいに取り組む。そうすれば、思いがけない人がそれを心に留めておいてくれて、めぐりめぐって、未来の自分にハッピーな気持ちを届けてくれるかもしれません”(P50/引用)

 すべて完璧にできなくても、たとえ失敗したと感じても、届く人はいる。田村さんの言葉から、そんな気づきを得ると、今の自分だからこそできることややりたいことが見えてきそうだ。

持ち前のポジティブマインドで乗り越えた「6年間の介護生活」

「気分転換のコツは“気づくこと”」
「気分転換のコツは“気づくこと”」

 本作は、自分らしく生きる方法だけではなく、大切な人の守り方も見つめ直させてくれる。なぜなら、田村さんが励んできた6年間の介護も明かされているからだ。

 介護中、田村さんのまとまった睡眠時間は2時間ほどだったそう。だが、田村さんは妹や母の介護をマイナスに捉えていなかった。みんなが「辛い」というからこそ、やってみたいと思っていたし、実際に行うと、「介護は意外と自分に向いている」と思えたという。

 田村さんは排泄済みの紙おむつから温かさを感じた時には「生きてる証拠ね」と話しかけ、母から「早く死にたい」と言われた時には「そういうことは自分では決められないものなのよ」と返し、一緒にケ・セラ・セラを歌ったそうだ。

 家族の介護は簡単に語れるものではないからこそ、この独特で優しい6年間は、なんとも心に刺さる。似た状況の人は、救いとなる捉え方を見出せるかもしれない。

 最低限の身じまいは考えつつ、人にも自分にも優しくしながら、できる限り“今日”を楽しむ、田村さん。彼女の生き方は、SNSなどの普及で周囲の反応を軸にして生きるのが当たり前になりつつある現代人に深く刺さる。

 私はもっとわがままに、自分を楽しんでいい。本書との出会いを機に、そんな赦しを自分に与えられる人が増えてほしい。

本書画像イラストより (C)田村セツコ/WAVE出版
本書画像イラストより (C)田村セツコ/WAVE出版

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