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日本政治、大きな岐路に―― 『自公政権とは何か』著者・中北浩爾氏、緊急分析!

記事:筑摩書房

連立政権合意書に署名し、写真撮影に臨む自民党の高市早苗総裁(右)と日本維新の会の吉村洋文代表=2025年10月20日午後6時16分、国会内(朝日新聞社)
連立政権合意書に署名し、写真撮影に臨む自民党の高市早苗総裁(右)と日本維新の会の吉村洋文代表=2025年10月20日午後6時16分、国会内(朝日新聞社)

 公明党の斉藤鉄夫代表は2025年10月10日、自民党との連立から離脱することを表明した。自公政権は開始から26年後に終焉を迎えたのである。

 なぜ公明党は連立を解消したのか。

 第一に、自民党の派閥の政治資金収支報告書への不記載という「政治とカネ」をめぐる問題が支持者の不満を高め、蓄積させるなか、それを原因として与党の一角を占める公明党も2024年10月27日の衆院選に続き、25年6月22日の都議選と7月20日参院選で大敗を喫した。自民党との選挙協力のメリットが薄れたのである。

 第二に、衆院選で自公が過半数を割り込み、少数与党政権に陥ったため、パーシャル連合のかたちで野党の国民民主党や日本維新の会から協力を得て予算や法案を成立させざるを得なくなった。公明党は連立を組んでいるがゆえに、かえって自らの政策実現をアピールできなくなった。

 公明党にとって選挙協力と連立政権の両面で自民党と組むメリットが低下するなか、安倍晋三の後継者を自任する右派で公明党との政策距離が大きい高市早苗が2025年10月4日、石破茂に代わる自民党総裁に選出された。高市は公明党嫌いで知られる麻生太郎元首相を後ろ盾としたばかりか、旧安倍派の幹部で不記載額が多かった萩生田光一を幹事長代行に起用した。しかも、国民民主党との連立拡大を優先し、公明党を軽視した。

 こうした情勢を受けて、公明党は企業・団体献金の規制強化を主張しつつ、連立からの離脱に踏み切ったのであった。もしも自民党総裁選で小泉進次郎や林芳正が勝利していれば、公明党の連立離脱は起こらなかったであろう。

 このように「実利」が失われたばかりでなく、人脈に基づく「情」も失われ、自公政権は終わりを迎えた。かつて自公政権を担った公明党のある重鎮は、「残念だ。パイプがなければ、作ればよかったのに」と嘆いた。

 自民党の高市総裁は最終的に10月20日、日本維新の会の吉村洋文代表らと「連立政権合意書」に調印し、翌日、新政権を発足させた。自民・維新両党の政策距離は近く、合計の議席は衆参両院の過半数に接近するので、この組み合わせは連立理論からみてかなりの合理性を有する。

 しかし、現在のところ、自維政権は自公政権ほどの強さを持ちそうにない。

 第一に、「連立」と銘打ち、維新の遠藤敬国対委員長が首相補佐官に就任したが、閣外協力であって閣内協力ではなく、政治学的には連立とはいえない。しかも、維新のガバナンスは公明党に比べて遥かに不安定である。

 第二に、選挙協力である。2024年の衆院選で維新は155の小選挙区で自民系と競合した。現在、自民会派に所属する当選者は69名、維新は18名に上り、比例復活で現職同士が競合しているのは12選挙区である。この候補者調整が今後の課題として残る。仮に候補者調整に成功したとしても、自民・維新両党間では相互推薦・支援に基づく固定票の交換はほとんどできない。選挙の面で維新は公明党の代替物にはなり得ない。

 もちろん、高市首相が高い内閣支持率を維持し、解散総選挙に踏み切り、勝利を収めれば、自維政権が続いていくことになる。しかし、自維が自公のような四半世紀にわたる安定した連立の枠組みとなっていくことは難しい。

 その一方で、自民党の総裁が交代すれば、公明党の連立復帰もあり得る。だが、その場合でも、自公政権はかつての強度を持ち得ないであろう。すでに自民・公明両党の支持基盤は弱体化し、さらに進むに違いない。自民党の右派との摩擦は、簡単には収まりそうにない。また、海外布教に力を入れる創価学会は、連立解消を契機に学会員の負担が大きい小選挙区から公明党を撤退させていくかもしれない。

 そうだとしたら、2ブロック型の多党制をもたらす衆議院の小選挙区比例代表並立制のもと、唯一の安定した連立の枠組みであった自公政権は過去のものになったといいうる。民主党政権の失敗後、野党が結束できなくなったことに続き、いよいよ自公ブロックも崩れ、日本政治は安定した統治の主体を失ってしまった。

 日本政治は多極型の多党制に近づき、不安定な連合政権が続いていく可能性が高まっている。それは1955年体制が崩壊した1993年以降、非自民・非共産連立政権から、自社さ政権を経て、自自公政権へと移り変わっていった時代への逆戻りとみることもできるが、当時とは違う点もある。既存政党の支持基盤が弱体化し、参政党をはじめSNSなどを駆使するポピュリズム政党が台頭していることである。とりわけ福祉排外主義に立脚する右派ポピュリズムの伸長は顕著である。

 そうしたなか、既存政党間の柔軟な連立の組み替えの障害となるのが、小選挙区制である。小選挙区で一つの議席をめぐって激しく争う政党同士は、互いに独自性をアピールする必要が生じる。なかでも多くの小選挙区で競合する二大政党が、大連立を組むことは難しい。今後、「平成の政治改革」によって導入された衆議院の小選挙区比例代表並立制の見直しという選挙制度改革が視野に入ってくる可能性もある。

 以上みてきたように、自公連立の解消によって、日本政治は大きな岐路を迎えたということができる。少なくとも著しく不透明感を増したことだけは間違いない。

中北浩爾『自公政権とは何か ──「連立」にみる強さの正体』(ちくま新書)
中北浩爾『自公政権とは何か ──「連立」にみる強さの正体』(ちくま新書)

『自公政権とは何か ──「連立」にみる強さの正体』目次

はじめに もはや単独政権の時代ではない
第1章 神話としての二党制
第2章 連立の政治学
第3章 非自民連立から自社さへ
第4章 自公政権の形成と発展
第5章 なぜ民主党政権は行きづまったのか
第6章 自公政権の政策決定とポスト配分
第7章 自民・公明両党の選挙協力
おわりに 野党共闘と政権交代を考える

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