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増田剛さん「次期戦闘機の政治史」インタビュー 駆け引きに見る真の関係

増田剛さん

 政治家や政党、国家の攻防。政治の歴史はさまざまな側面から語られてきた。しかし、戦闘機から見通す政治史という切り口はユニークだ。「最も重要な軍事装備である戦闘機は、その国の『顔』。だからこそ、その移転や輸出は高度な政治性を帯びる」

 日米は表向きは「世界で最も緊密な同盟関係」と言われる。しかし戦闘機をめぐる政治的駆け引きを観察すれば、その時々の日米の真の距離感がわかるという。たとえば2000年代後半に日本は米国の「世界最強の戦闘機」F22の導入をめざした。「軍事機密の塊」の情報が日本に渡ることを米国は恐れたが、一方でF22の生産増強につながることから対日輸出を容認する声もあった。日米の政治的駆け引きもあったが、対日輸出は実現しなかった。

 戦闘機をめぐる交渉から日本の防衛関係者は、「世界最高の技術をもつ米国への畏敬(いけい)の念と、同盟国にすら情報を開示しようとしない姿勢への反発」という相反する感情を持つようになったという。

 1992年にNHKに入局。2004年に防衛庁(現・防衛省)の担当になって以降、ワシントン特派員時代を含めて、戦闘機をめぐる外交の舞台裏を政治記者として取材し続けてきた。「防衛機密」という名目のもとに戦闘機をめぐる交渉過程は表に出ない。今年4月にフリーのジャーナリストに転じたが、「戦闘機の世界を知り得た者として取材の蓄積を世に出すべきだと考えた」。

 22年、当時の岸田文雄政権は日米ではなく、日英伊の枠組みによる次期戦闘機「F3」の共同開発を決めた。戦闘機をめぐるニュースは近年注目されるテーマになっている。「開発し、保有することで、他国が日本への侵略や攻撃を断念するような存在。そのような存在である次期戦闘機の開発は、安全保障上の抑止力につながる」

 しかし、平和国家の日本が、多くの人を殺傷する兵器を開発することには批判的意見もある。「戦闘機を考えることは日本の安全保障を考えることと同じだ。この本が議論の土台になってほしい」(文・写真 女屋泰之)=朝日新聞2025年7月26日掲載