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何がアメリカの分断を引き起こしているか!?――『7つのキーワードでみる 分断国家アメリカ』

記事:平凡社

アメリカ政治の象徴、合衆国議会議事堂。
アメリカ政治の象徴、合衆国議会議事堂。

2026年1月15日刊、平凡社新書『7つのキーワードでみる分断国家アメリカ』(西山隆行著)
2026年1月15日刊、平凡社新書『7つのキーワードでみる分断国家アメリカ』(西山隆行著)

「伝統を否定している」VS「愛国心に欠ける」

2025年6月14日に始まった「ノーキングス(王はいらない)」デモはアメリカ国内で2,100以上の都市や町で500万人以上が参加したと推定されている。写真はミネソタ州議会議事堂前での様子。
2025年6月14日に始まった「ノーキングス(王はいらない)」デモはアメリカ国内で2,100以上の都市や町で500万人以上が参加したと推定されている。写真はミネソタ州議会議事堂前での様子。

 2025年10月18日、「王はいらない(No Kings)」というスローガンを掲げてドナルド・トランプ政権に抗議する集会がアメリカ各地で開かれ、主催者によると700万人近くが参加しました。2025年1月に大統領職に復帰して以来、トランプ大統領は大統領令を駆使して大統領権限の増大を図るとともに、自らが敵と見なす相手を起訴するよう司法長官らに要求しています。

 ヨーロッパの君主制を否定して共和制を打ち立てたアメリカでは、大統領が王のような存在になることは絶対に許してはならないという考え方が広く共有されています。トランプ大統領を批判する人々は、トランプ政権の様々な政策や行動は違憲であるとともに、アメリカの伝統を否定し民主主義を脅かすものだと主張しています。

 これに対し、トランプ大統領は、王冠をかぶったトランプが「キング・トランプ」と書かれた戦闘機を操縦して抗議者に汚物のような茶色の液体を投下する、生成AIで作られた動画を自身のSNSに投稿しました。そして、自分の行動は危機的状況にある国を再建し、「アメリカを再び偉大にする」ために必要だと主張しています。また、トランプ大統領の支持者らは、抗議者は「極左」であるアンティファ運動と関係しているとし、トランプ政権に抗議するのは反米的だと批判しています。保守的な州の知事の中には、その主張に賛同し、抗議運動が過激化した場合に備えて州兵を配置した人もいます。

 この事例は、今日のアメリカの政治・社会の分断を象徴的に示しています。民主党支持者とリベラル派は、トランプ大統領と共和党が過激化してアメリカの伝統を否定していると主張します。他方、共和党支持者と保守派は民主党とリベラル派が極左に寄って過剰反応しており、愛国心に欠けると見なしているのです。

2025年1月20日の大統領就任演説で「信頼、富、民主主義、そしてまさに自由を取り戻すための使命を果たす」と述べるトランプ大統領。
2025年1月20日の大統領就任演説で「信頼、富、民主主義、そしてまさに自由を取り戻すための使命を果たす」と述べるトランプ大統領。

歩み寄りの姿勢をみせない“異常事態”

 近年のアメリカで分断が激化し、政治・社会が大混乱に陥っていることは、2025年10月1日から11月12日まで連邦政府が一時閉鎖に陥ったことにも見て取ることができます。アメリカの会計年度は10月1日に始まるため、本来ならば9月末日までに予算を成立させる必要がありました。しかし、2大政党の勢力が拮抗して対立が激化した結果として、予算法案が通過しなかったのです。トランプ大統領が富裕層減税と不法移民対策強化、各種社会支出削減などを定めた「一つの大きく美しい法律」(OBBBA: One Big Beautiful BillAct)の内容をすべて予算に反映させるようにこだわったのに対し、民主党は大半の項目に、とりわけ低所得者向け医療保険(メディケイド)の費用削減に強く反発しています。

 従来ならば、連邦政府の一時閉鎖が起こると世論の反発が起こり、早期に暫定予算を通過させようと試みられるのが一般的でした。しかし、トランプ大統領はむしろこれを機に連邦政府職員の解雇を断行したり、民主党優位州への移転支出を停止するなど対決姿勢を示しました。2大政党ともに歩み寄りの姿勢を示さないという異常事態が発生したのです。これまでの連邦政府の一時閉鎖は、第一次トランプ政権期の2018年12月22日に始まり、19年1月25日に終わったものが35日間と史上最長でしたが、今回の一時閉鎖はそれを超えるものとなりました。11月12日につなぎ予算が通過し、43日で終了しました。

2025年10月1日から11月12日まで続いた連邦政府機関の一部閉鎖の影響により、国立アメリカ歴史博物館などの公共施設も「休館」となった。
2025年10月1日から11月12日まで続いた連邦政府機関の一部閉鎖の影響により、国立アメリカ歴史博物館などの公共施設も「休館」となった。

政治的分断→社会における分断

 近年のアメリカでは、驚くべきことに、ほぼあらゆる争点について分断が進行しています。興味深いのは、アメリカの分断は、単に政治家の間で起こっているだけではなく、社会の次元においても発生していることです。この点は、日本とアメリカの政治・社会の違いを示していると言えるでしょう。日本の場合、大規模な政治変動が起こったとされる場合でも、実際は政治家の間で離合集散が起こっているだけで国民はそれを冷めた目で見ていることが多いように思います。しかし、アメリカにおける政治的分断は、社会における分断とも密接に結びついているのです。そして、後に詳しく述べるように、アメリカの分断は単に保守かリベラルかというだけではなく、保守、リベラルとされる陣営の内部でも発生しています。

 本書は、民主主義、格差と分断、人種と民族(エスニシティ)、ジェンダー/セクシュアリティと宗教、教育、犯罪と暴力、コミュニティという7つの領域に焦点を当てて、アメリカの政治・社会の分断を描き出そうとするものです。1冊を通じて、アメリカ政治の激しい対立を解消するためには政治家が協調しようとするだけでは十分でないこと、国民の間で対話を行い、分断を克服しようとする努力が必要になることを明らかにしています。ただし、その試みが決して容易ではないことも、本書を読めばわかるでしょう。

 政治・社会の分断は、アメリカだけでなくヨーロッパや日本でも鮮明になりつつあります。日本の現状も念頭に置きつつ、お読みいただけると幸いです。

(構成=平凡社新書編集部)

『7つのキーワードでみる 分断国家アメリカ』目次

第1章 民主主義
第2章 格差と分断
第3章 人種・民族(エスニシティ)
第4章 ジェンダー、セクシュアリティと宗教
第5章 教育
第6章 犯罪と暴力
第7章 コミュニティ

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