カブトムシの角はどうやってできる?『いきもののカタチ』(評・うえたに夫婦さん)―文系のための科学本ガイド⑩
記事:白揚社
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私は以前、仕事で養蜂家さんのところに取材に行くことがあり、そこでミツバチの巣枠を見る機会があった。ミツバチの巣はご存知の方も多いと思うが、六角形がずらーっと並んだ形をしている。これはハニカム構造と呼ばれ、まるで「人工的に作ったのでは!?」と思うほど均一で規則正しく並んでいた。養蜂家さんいわく「もともと何もないただの木枠です。ミツバチたちはこのハニカム構造を枠全面に5日ほどで作ってしまうんです」とのこと。生き物が作る形っておもしろいな〜と思っていた。
そんなときに出会ったのが、今回紹介したい『いきもののカタチ』という書籍である。この本にはミツバチの巣のことは書いてない。しかし、それに匹敵するおもしろいカタチや模様に関する研究の話が書かれている。読んだ後には、世界が違って見えるほどのインパクトがあった。
この『いきもののカタチ』の著者は、国立遺伝学研究所の所長の近藤滋博士。そう聞くと、すごく難しくて硬そうな本なのかな、と想像するが、全くそんなことはない。平易な言葉で非常に読みやすく「マジで?」とか「カイメンすげぇ〜」など、読者目線で書かれている部分も多くあり、まるで仲の良い人から話を聞いているような感覚になる。
本書には、さまざまな生物が登場する。たとえば、本の最初に出てくるのはカブトムシの角の話。カブトムシの幼虫とサナギで大きく違うのはサナギには角がある点。それはほとんどの人が知っていると思うが「角がいつ、どうやってできるの?」と考えた人はいるだろうか。私は考えたことはなかった。それを近藤博士は観察し、その仕組みを見事に解き明かしていくのである。詳細はぜひ本書を読んで確認してほしいが少しだけ書かせていただくと、なんとカブトムシの角は、幼虫の時点で頭部分にシワシワに折り畳まれて収納されているのである。まるで焼き鳥屋さんの店頭にある赤ちょうちんを折り畳むかのように。そして、サナギになるときにお腹を動かして角に体液を送ることで、ふくらんで角が形成されるのである。これだけでびっくり仰天だが、近藤博士はさらに複雑な角を持つツノゼミという昆虫の角の解明にも挑むため、わざわざコスタリカまで行くのだ。研究者の好奇心、おそるべし……
カブトムシの他にも、本書では「とげとげがたくさんある貝は、なぜそんなとげとげを形成するのか」「海底のミステリーサークルができる仕組みと犯人」「熱帯魚の迷路模様や縞模様の秘密」などなど。どれも「え〜、そんな仕組みで作られるの!?」と驚かされることばかり。それにしても、クマサカガイ、なんちゅうカタチをしとるんや(すぐに検索して見てほしい) ……そしてそのカタチをしているのはクマサカガイ自身の意識が関係しているだって!? いや〜おもしろすぎる。
とにかく、この本に書かれていることは、すぐに人に言いたくなること間違いなしである。さらには、読む前と読んだ後では、身の回りにあるものへの見方が大きく変わる。たとえば、冒頭に書いたミツバチの巣でいえば、私は本書を読む前は「お〜キレイで均一な形やな〜」くらいの感想だったが、読んだ後では「なぜ六角形?」「どの部分から作られる?」「どうやって均一で同じ六角形になる?」と、次々と疑問が浮かぶ思考回路になる。それ以外でも「葉っぱのカタチは植物によってなぜ違う?」「アゲハ蝶の羽の模様って、どの個体も同じ?」「スイカにはなぜあんな縞模様ができるか?」などなど、カタチや模様について、今まで普通にスルーしていたことが気になるようになる。
もしも、皆が素通りしていたことを疑問に感じ、それを解明すれば、世の中をあっと驚かすすごい研究成果になるかもしれない。実は、本書の著者である近藤博士はそれを体現している。
近藤博士は、もともと免疫学を専門に研究していたのだが、ある論文を読んだことがきっかけで、生き物の模様ができる仕組みに疑問を持ち、特に魚の模様に着目する。研究室では免疫関連の研究をしつつ、プライベートで水族館や熱帯魚ショップを回る日々。ついには70万円もする水槽を自宅に設置し、タテジマキンチャクダイという魚の縞模様の変化をひたすら観察した。詳細は省くが、結果的に数年後に魚の縞模様ができる仕組みを世界で初めて解き明かすことに成功したのである。この論文は世界最高峰の学術雑誌Natureに掲載され、しかも近藤博士の研究を讃えタテジマキンチャクダイの写真が表紙になったほど。近藤博士はまさに、自分だけが気づいた疑問を解明し世界を驚かせたのである。なお、この経緯は本書の前作に位置する『波紋と螺旋とフィボナッチ』(KADOKAWA)に詳しく書かれているので、ぜひ本書と併せて読んでいただきたい。
著者の近藤博士は本書の「おわりに」で、研究のタネやヒントの見つけ方として「興味を持って、ちょっとだけ考える」と書かれている。何かを見聞きしたときに「どんな仕組み?」「他とは何が違う?」と、少しだけ考えてみることが大切で、そういった思考のストックがどこかのタイミングで結実するとのこと。これは、研究だけでなく創作すべてに通じることではないだろうか。私自身、マンガや絵本のネタに困ることがよくあるので、日々のちょっとした出来事に対して少し考えて思考ストックを増やしていこうと思う。