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数学の面白いところを凝縮『とてつもない数学』(評・山本健人さん)―文系のための科学本ガイド⑪

記事:白揚社

山本健人さんに『とてつもない数学』(永野裕之 著、ダイヤモンド社)を紹介いただきます。Illustration & design by 長尾和美(Ampersand Inc.)
山本健人さんに『とてつもない数学』(永野裕之 著、ダイヤモンド社)を紹介いただきます。Illustration & design by 長尾和美(Ampersand Inc.)

なじみの薄い音楽アーティストが、どんな作品を世に出しているのか知りたい、と思ったら、たいてい「ベストアルバム」や「ヒット曲集」のようなものから手をつけるだろう。よく売れた、世間でも評価の高い作品をピックアップして「つまみ食い」すれば、大まかな特徴や良さがわかるからだ。

もちろんこのやり方では、そのアーティストが大切にする理念や、創作にまつわる哲学は理解できない。長年のファンには叱られそうな味わい方だ。だが、たとえコアなファンでも、入り口は「つまみ食い」だった人は多いはずだ。簡単に楽しめるところから始めて、徐々に深みに入っていけばいい。

サイエンスにおいても、上手にまとめられた「ベストアルバム」があれば、面白いところだけ「つまみ食い」できると私は思っている。そして数学という学問で、「ベストアルバム」として右に出るものはないと考える作品が『とてつもない数学』(永野裕之著、ダイヤモンド社)である。まさに、数学の面白い部分の「いいとこ取り」に成功している優れた作品だ。

『とてつもない数学』(永野裕之 著、ダイヤモンド社)
『とてつもない数学』(永野裕之 著、ダイヤモンド社)

学生時代、数学が苦手だった人は多いだろう。今でも数式を見るだけで脳がフリーズする、という人も少なくないはずだ。だが、実は『とてつもない数学』には、数式がほとんど出てこない。わずかに数式が並ぶ部分はあるものの、それを理解しなければ楽しめない類の本ではない。著者も「ここは読み飛ばしてもらっていい」と書いている。つまり、入門者が数学を楽しむのに数式への理解は必須ではないのである。

数学とは、文字通り数を扱う学問だと考えがちだが、全くもってそれだけではない。著者も「Mathematics」の訳語が「数学」であることには違和感があるとし、「Mathematics」の語源がギリシャ語で「学ぶべきもの」を意味する単語であることを紹介している。数以外にも、「変換」「空間」「構造」など数学の射程は非常に広く、数学に必要な論理的な考え方は、実は私たちの生活に深く根ざしている。私自身、そのことに気づかされたのは、本書を読んでからである。数学への考え方が全く変わったと言っていい。

ここまで読んで、「あなたは理系学部出身だから数学が得意だったんだろう。だから数学の面白さが理解できるに違いない」と思った人がいるかもしれない。実は私は受験生時代、数学は苦手科目だった。得意科目は国語と英語で、頭は完全な「文系」である。医学部が理系学部であるがゆえに数学や理科を必死に勉強しただけで、許されるなら毎日古文を勉強していたい受験生であった。そして私は今なお、医師は人文系の知識がかなり求められる職種だと思っているし、他の理系学部とは異質だと考えている。

それはともかく、私が『とてつもない数学』を読み、「数学は面白い」という事実を知ったとき、実は数学を苦手に感じていたのは「教わり方」の問題ではなかったか、という疑念が芽生えてしまった。本書を読みながら、「なぜ学校の先生はこんなふうに教えてくれなかったのか」と何度思ったことか。もしかすると私は学生時代、数学の面白さに気づける環境に恵まれなかったのではないか。自分の能力を棚に上げて、そんな他責的な感情すら抱いたほどである。

だからこそ私は、その悔しさを晴らすため、本書の知識を惜しみなく我が子たちに伝えている。驚くかもしれないが、本書には子どもでも理解できる知識が多いからだ。

なお最後に、サイエンス書を読む際に必要となる注意点を一つだけ挙げておく。それは、本に書かれた全てを理解する必要はない、ということである。理解できないページがあっても、どんどん読み飛ばせばいい。分かるところだけ楽しむ。サイエンス書はそのように読むのがお勧めである。

つまり、「ベストアルバム」をさらに「つまみ食い」すればいいのである。

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