1. じんぶん堂TOP
  2. 歴史・社会
  3. カルト2世の言語研究者の著者が解き明かす「言葉の罠」――『カルトのことば』

カルト2世の言語研究者の著者が解き明かす「言葉の罠」――『カルトのことば』

記事:白揚社

『カルトのことば:なぜ人は魅了され、狂信してしまうのか』(アマンダ・モンテル 著、青木音 訳、白揚社)
『カルトのことば:なぜ人は魅了され、狂信してしまうのか』(アマンダ・モンテル 著、青木音 訳、白揚社)

世の中には「カルト的な言語」が蔓延している

 「カルト」とは何かと問われたら、多くの日本人は地下鉄サリン事件や霊感商法など、世間を騒がせた新興宗教を思い浮かべるのではないか。しかし、本書の冒頭部分で紹介される事例は、意外や意外、ヨガ教室とフィットネスジムだ。これらのメンバーとなった2人の女性は、それぞれ自分の持つ時間と金銭をこれらの団体やその指導者に捧げてしまうほど、狂信的にのめり込んでしまう。いったい何が彼女らをそうさせたのかというと、そこで使われる「言葉」である。カルト2世でもある言語研究者の著者は本書でその「言葉の罠」を解き明かしていく。

 著者がカルトの言葉遣いに興味を持ったきっかけは、アルコール依存症矯正施設に通う友人との会話だった。集会にのめり込んでいたその友人が〝業界用語〟のような言葉を多用するのだ。調査を進めていくと、それも「カルト的」な集団の特徴だった。ジョーンズタウンやヘヴンズ・ゲートといった正真正銘のカルト教団はもちろん、ヨガ教室などのカルト的な集団は、自分たちの集団でしか通用しない独自の用語を使用する。アルコール依存症矯正施設にのめり込んだ友人のように、人は特殊な言葉遣いをするようになり、気づかぬうちにカルト集団に取り込まれてしまう。

 独自用語のほかにもカルト的言葉にはいくつかの特徴がある。「自分は特別で理解されていると感じさせる言葉遣い」「思考を停止させてしまう決まり文句を繰り返す」である。前者の例は「あなたは神の王国に向かうよう運命づけられた(特別な)メンバーの一員だ」、後者は「マスコミを信じてはいけない」等々で、いずれも考えなくてもよいという安心感を与える言葉たちだ。

企業にもあるカルト的文化

 本書の読みどころは、カルト教団の教祖たちが仕掛ける言葉の罠だけでなく、マルチ商法、ネットメディアで活動する「グル(精神的指導者)」、カルトフィットネスなどのカルト的な集団で使われる常套句が順を追って次々と紹介されるところにある。いずれも、それらにのめり込んだ〝被害者〟たちの体験が盛り込まれているので説得力もリアリティも抜群だ。

 たとえば、マルチ商法のリーダーは新規会員たちにこう話す。「意欲的で勤勉な人なら必ず成功する。すぐれたシステムは必ずうまくいくのだ」と。つまり「金持ちになれないのは組織のせいではなく自分のせいなのだ」と会員に思い込ませる決まり文句なのである。

 驚いたのは、こうしたカルト的な言葉遣いを導入して成功している企業もあることだ。「強烈な価値観と儀式を備えた『カルトのような企業文化』を持つことは、先が見えず移ろいやすい現代の市場でリピート客と忠実な社員を確保するために必要」と考えているためである。著者はそんな業者を「資本主義的ゴキブリ」と言い放つところなど痛快である。

 現代社会で「タイパ」「コスパ」という言葉が幅を利かせているのは、多くの人が早く正解を知りたがっているからだろう。考えるよりも正解を教えてもらったほうが早いという人が増えているのだ。そんな人たちほど、カルト的な言葉に操られやすいのは自明の理だろう。

 読者はおそらく、感じるに違いない。実は世の中にはそんな「カルト的」な言葉が溢れているのではと。著者も「今では万人のためにカルトがある」と書いているが、本書を読んで世間を見ると、テレビ通販、流行りの陰謀論、政治家たち、もしかしたらホストも、「結論」を押し付ける言説を操り、カモたちに「考えなくてもいいよ」と囁いているように思えてならない。(鈴木裕也・科学読み物研究家)

ページトップに戻る

じんぶん堂は、「人文書」の魅力を伝える
出版社と朝日新聞社の共同プロジェクトです。
「じんぶん堂」とは 加盟社一覧へ