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中学受験、「低学年から塾に入らないと勉強で遅れをとる」は本当か?

記事:大和書房

誰よりも早く勉強を始めた子のほうが中学受験に有利と言われているが果たして…
誰よりも早く勉強を始めた子のほうが中学受験に有利と言われているが果たして…

 私が中学受験業界に入った20年以上前は、中学受験の勉強のスタートは5年生でも十分間に合いました。テキストも4年生の間は泳がせておくような簡単な内容で、受験に必要な本格的な内容は5年生のテキストからでした。

 しかし、いつからか大手塾は4年生から本格的な内容をスタートするようになり、「4年生(正確には3年生2月)から塾に入らないとついていけない」といわれるようになりました。その結果、難関中学への合格実績を誇る一部の大手塾では、4年生途中からの入塾がかなり困難になりました。というのも、入塾テストにはすでに塾で扱っている内容が出題されるからです。まだ見たことも聞いたこともない「つるかめ算」や「おうぎ形の面積」を初見で、しかも制限時間内に解ける子はほとんどいません。

 さらに最近は、少子化による早期囲い込み戦略もあり、「中学受験は3年生から」とキャンペーンを打つ塾、「2年生から入塾しておかないと席が確保できない」校舎も増えてきました。こうなると、「中学受験するなら1日でも早く塾に入れないと!」と焦る気持ちもわかります。実際、ここ数年は「3年生では最寄りの校舎に入れないので、2年生のうちから入れておくほうがいいのでしょうか……」という1、2年生の親御さんからの相談が増えてきました。

 でも、これはあくまで塾都合の話です。ポテンシャルの高い子は、スタートが周囲から少しくらい遅れていても、すぐに追いつき、追い抜き、そして最難関校や難関校に合格していきます。

 さて、塾都合の早期スタートは横に置いておくとして、中学受験の勉強を始めるのは早ければ早いほどいいのでしょうか。

ある中学受験生3人のリアル

 T君は2年生からサピックスに通っていました。低学年のうちは塾生もクラス数も少なく、楽しく上位クラスに在籍していましたが、4年生から成績が下がり始め、6年生は一番下と下から2番目のクラスを行ったり来たり。5年間にわたる塾生活に飽きてモチベーションが保てなくなり、「勉強をやらされている」惰性状態で入試を迎え、中堅校に合格しました。

 N君は幼少期から奨学社、2年生から希学園に通っていました。お母様が非常に熱心に勉強をさせていたので3年生の終わり頃までは最上位クラスにいましたが、親子関係が悪化し始め、4年生半ばから成績が下がり、5年生で浜学園に転塾。そこでもクラスを上がることができず、最終的に個別指導とプロ家庭教師に切り替えました。何とか難関校に合格したものの、勉強についていけず中学1年の夏休み前に学校をやめました。

 Mちゃんは、6年生の9月に中学受験を決意しました。お父さんは「今から勉強しても行ける学校などない」と反対しましたが、お母さんはMちゃんを応援。10月から個別指導塾に週2回通い、朝6時起床、23時就寝で勉強漬けの日々が始まりました。9月に初めて受けた模試の偏差値は40でしたが、お風呂でも社会の知識モノを勉強する徹底ぶりで、難関校に合格。学校を休んだのは1月入試日とスキー合宿、そして入試直前1週間のみでした。

「学力」は勉強時間や勉強量と比例しない

 T君、N君、Mちゃんは、何も特別な例ではありません。

 スタートダッシュが早いと、最初は周囲に対して優位となります。まだ九九を知らない1年生の中で、スラスラ九九を暗唱する3歳児、といったところでしょうか。しかし、2年生になればほぼ全員が九九を言えるようになります。すぐに追いつかれるのです。

 最難関校に強い塾に早いうちから通っている子が、費した時間と比例して成績が上がるわけでも、優先的に難関中学に合格できるわけでもありません。3、4年生の間に上位クラスにいるからといって、そのクラスが6年生まで維持されるわけでもありません。

 もちろん先取り学習をしていれば、周囲がそこまで到達していないうちは演習を積んでいるぶん有利に働くことはあります。しかし、子どもの学力に合わせた問題をきちんと咀嚼して解くほうがよほど大切です。先んじてまったく理解できない応用問題を丸暗記したところで、公開テストの順位が数回上がる程度で、入試ではまったく太刀打ちできません。

先取り学習より大切な「学習習慣」

 「小さいうちは家庭で何をさせれば良いですか?」という質問をたくさん受けますが、「何をさせるか」という“内容”よりも大切なのは「学習習慣をつけること」と「学習した内容が根を張ること」。ここに視点をシフトしてほしいと思います。

 勉強は特別なことではなく、毎日やるのが当たり前だという家庭の空気感を作り、お子さんを「フェイク学力」まみれにしないことです。そのうえで何に取り組むかは家庭によりますが、ちょっとがんばれば正解できるレベルのものを少しずつ、がコツです。

 理解できない先取り学習を大量にさせたら勉強嫌いなるのは想像がつきますよね。もちろん、勉強が大好きな子には、やりたいだけ取り組ませてあげてください。わが子がどちらの状況にいるかは、親の色眼鏡や理想鏡を取っ払ってちゃんと見れば、判断がつくはずです。

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