『反転授業の実践知』 変わりゆく世界に対応するための「新しい学び」とは?
記事:明石書店
記事:明石書店
2020年、突然の新型コロナウィルスの感染拡大により、世界は大打撃を受けました。このような突発の出来事が起こる現在の世界状況は、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字からなる語のVUCAを用いて説明されます。
新型ウィルス感染のような突発的な問題以外にも、近年の科学技術の発展に伴うグローバル化によって、世界が劇的に変化しています。どの国も急激に変化する世界状況に適応し対応できる人材の育成が喫緊の課題であり、世界中で教育改革が進行しています。
日本も例外ではなく、このような状況に対応すべく、2020年度以降の学習指導要領の改訂に伴い、教育改革が進められています。その改革の中で、教育が大きく変わる環境整備が行われています。文部科学省は「GIGAスクール構想」を打ち出し、ICT(情報通信技術)の教育環境を整備し、「児童・生徒一人一台コンピュータ」の実現に向けて動き出しています。誰もがパソコンやタブレット機器を用いて授業を受ける時代が間もなくやって来ます。
著者が勤務する高校では、すでに2013年度(中学校はその翌年)よりWiFi 環境が整備され、新入生は各自iPad を持ち、BYOD(Bring Your Own Device、自分が所有する機器を持ってくる)状況が実現しています。
その年度より、著者と勤務校の同僚数名は「反転授業」の実践を始めました。当初の実践については、『反転授業が変える教育の未来』(明石書店、2014年)を同僚の芝池宗克との共著で上梓しました。
今回は、拙著出版以降の実践報告と実践で得た知見を紹介します。不易流行という言葉がありますが、「流行」を実践することで、改めて実感した「不易」の知見です。流行の根幹をなすテクノロジーではない「非テクノロジー」の側面を主に焦点を当て、「主体的・協働的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」「資質・能力」あるいは「生きる力」などの学習指導要領の重要語を著者なりに理解し、ICTを含む教育実践に役立つと思われる知見を21の実践知の提言としてまとめました。最初から読み始めるのではなく、関心のあるテーマに合わせて提言を読み進めることも良いかと思います。
本書は、序章の後、三部構成になっています。序章は、2013年より実施した反転授業の実践を振り返り、5点の知見にまとめました。特に最後の5番目に、「問い」と「学び」を合わせた「問い学ぶ(問学)」を提示することで次章の橋渡しをしています。第Ⅰ部〈学びについての提言〉は、第1章「問学のすすめ」から始め、学びと問いの根本的な意味を探り、「学びとは何か?」を提示します。その後、第2章「主体的な学びと反転授業」、第3章「対話的な学びと問学」、第4章「深い学びとICT教育」では、学習指導要領のキーワードである「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」について、反転授業、問学、ICT教育の観点を絡め、独自の視点・考えを提供します。
第Ⅱ部〈能力とその育成についての提言〉は、第5章「スキル論」第6章「テクノロジーと人格形成」、第7章「Society 5.0(AI/IoT時代)の学びと教育」と題し、「生きる力」「学力の3要素」「資質・能力」「非認知能力」「批判的思考力」などの教育上の様々な概念を検討・整理し、教育実践につながると期待される提言をいたします。
第Ⅲ部〈実践報告〉では、著者(英語科)と反転授業研究会会長である芝池宗克(数学科)の実践報告です。拙著『反転授業が変える教育の未来』を上梓した後の実践報告となっています。特に、今まで反転授業に馴染みのない方には、実践報告1(英語科)と実践報告2(数学科)を読んで頂き、反転授業の成果・課題などを知って頂きたいと思います。また、反転授業と一言で言っても、色々な目標で多様な授業が行え、その発展的な可能性も知って頂きたいと考えています。実践報告3(英語科)は、教室内での英語トレーニング(Eトレ)を紹介しています。デジタル教科書を簡単かつ効果的に使用することで、英語が苦手な生徒でも英語の基礎力を身につけることができたという報告です。
劇的に変化する世界で、間もなくやって来る、日本中の学校で一人一台コンピュータ環境が整った日に備え、教育に携わる教員、児童・生徒、保護者の方々と本書の提言を共有し、統合・止揚(synthesis)することで、少しでもより良い教育の実践ができることを願っています。
(明石書店『反転授業の実践知――ICT教育を活かす「新しい学び」21の提言』「はじめに」より)