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アメリカ大統領選で政権交代が起きると、対中国外交は変化するか?

記事:白水社

ポスト冷戦期の北東アジアのパワーバランスを、「新冷戦」というキーワードから読み解く。アジア経済研究所による、覇権争いの罠に陥らないための最新の分析! 松本はる香編著 『〈米中新冷戦〉と中国外交──北東アジアのパワーポリティクス』(白水社刊)[original photo: Rawpixel.com – stock.adobe.com]
ポスト冷戦期の北東アジアのパワーバランスを、「新冷戦」というキーワードから読み解く。アジア経済研究所による、覇権争いの罠に陥らないための最新の分析! 松本はる香編著 『〈米中新冷戦〉と中国外交──北東アジアのパワーポリティクス』(白水社刊)[original photo: Rawpixel.com – stock.adobe.com]

「米中新冷戦」を印象付けたペンス米副大統領の演説

 米中貿易戦争をきっかけとして、「米中新冷戦」が開始したのではないかといった見方が国際社会に広まっている。とくに、2018年秋のペンス米副大統領の演説によって、米中対立の火種が、貿易摩擦といった経済問題にとどまらず、安全保障問題にも及びつつあることが明らかになった。

 米中貿易戦争の関税引き上げ合戦に関していえば、2019年の年末には第4弾の関税発動が見送られ、両国の歩み寄りがみられた。また、それと時を同じくして、中国の武漢で新型コロナウイルス感染症の問題が発生した。予期せずして起こった新型コロナウイルスの問題が、2020年1月以降、中国やアメリカのみならず、世界全体に深刻な影響をもたらしたことから、米中貿易戦争は小休止となった。

 目下のところ、新型コロナウイルスの蔓延によるパンデミックによって、国際社会は混迷を極めている。だが、最近の米中関係の悪化を説明するために、アメリカの対中強硬姿勢がいかに形成されてきたのか、あらためて整理してみたい。

 総じて、アメリカにおける政権交代そのものが、政策変更の主たる要因ととらえられる傾向が強い。たしかに、トランプ政権に顕著にみられる中国への強硬な姿勢は、政権交代に起因する面はあるが、それに加えて、オバマ政権期に中国に対する警戒感が強まったことが背景にある。

 つまり、「新型大国関係」をめぐる米中関係の推移からも見て取れるように、中国に対する脅威感が高まり、米国側が「新型大国関係」から距離を置くにつれて、対中強硬姿勢へシフトする国内的なコンセンサスが固まり、その布石が徐々に敷かれていったという点を見逃すべきではない。その間、超党派の「対中包囲網」が米国国内に形成され、中国に対して強硬な姿勢で臨むことがより本格化していったのである。今後、アメリカで政権交代が起こって、かりに共和党から民主党へ政権が交代したとしても、アメリカの中国に対する強硬な姿勢が大幅に変化することはないであろう。

ペンス米副大統領(2019年4月撮影、朝日新聞)
ペンス米副大統領(2019年4月撮影、朝日新聞)

中国の「二十一字方針」から、何が読み取れるのか? 

 それでは、中国側は米中関係の悪化をどのように捉えているのだろうか。さしあたり、習近平政権は、必ずしもアメリカとの長期的な全面対立を望んでいるわけではないものとみられる。そのことを裏づけるように、2018年12月、党中央の指導部が、米中関係について「対抗せず、冷戦をせず、開放を継続し、国家の核心的利益は譲歩しない」という対米方針を決定したことが明らかになっている。この方針の中国語の文字数が「二十一字」であることから、「二十一字方針」とも呼ばれている。この「二十一字方針」からは、習近平政権が「米中新冷戦」の開戦を必ずしも望んでいないことが読み取れる。

 また、2019年3月の第13期全国人民代表大会(全人代)第2回会議の政府活動報告のなかで、李克強は米中貿易戦争について触れ、「比較的際立ってみられるのが米中経済・貿易摩擦ではあるが、米中双方の協議は一貫して止まっていない。われわれは協議が成果をあげ、互恵とウィン・ウィンの関係を実現できることを望んでいる」と表明した。ここからも、米中貿易戦争を両国の協議によって解決していこうという中国側の前向きな姿勢がうかがえる。

 さらに、李克強の報告のなかで、2015年5月に中国が発表した、建国100周年の2049年までに、世界のイノベーションを先導して、ハイテク分野などで世界トップの「製造強国」をめざす、「中国製造二〇二五」に触れられることはなかった。これまで米国側は「中国製造二〇二五」に強い警戒感を持ってきたが、中国側がその言及を避けることによって、一定の配慮を示すかたちとなった。ここにも、アメリカに対する不必要な挑発を避けようとする中国側の意図が表われている。

『〈米中新冷戦〉と中国外交──北東アジアのパワーポリティクス』(白水社)目次より
『〈米中新冷戦〉と中国外交──北東アジアのパワーポリティクス』(白水社)目次より

 2020年3月末には、トランプ大統領と習近平国家主席が電話会談を行ない、新型コロナウイルス問題の対応で連携していくことで一致した。ここには、それまで米中両国は新型コロナウイルスの感染源をめぐって非難の応酬を続けてきたため、行き過ぎた対立を避けるという意味合いも含まれていた。

 その一方で、新型コロナウイルス問題をよそに、東シナ海や南シナ海での中国の海洋進出は続けられている。2020年1月から3月に、尖閣諸島周辺の接続水域を航行した中国公船はのべ289隻となり、前年同期比で57%増えた。また、4月に入ると、米国国務省は中国が南シナ海で調査基地と称する拠点に特殊軍用機を着陸させたとして、同海域への進出を拡大しないよう警告した。このように、世界全体が新型コロナウイルス感染症の対応に追われるなか、中国はまたもや国際社会の「力の真空」に乗じて海洋進出を活発化させているため、今後の米中関係は楽観できない状況にあるといえよう。

『〈米中新冷戦〉と中国外交──北東アジアのパワーポリティクス』(白水社)目次より
『〈米中新冷戦〉と中国外交──北東アジアのパワーポリティクス』(白水社)目次より

中国は、台湾の蔡英文政権と積極的な関係構築に動くか?

 最後に、米台関係についていえば、近年、トランプ政権は台湾との関係強化をはかっているが、今後もそのような状況は続くことになるだろう。新型コロナウイルス対策をめぐっては、台湾の素早い対応への国際的評価が高まっているなかで、世界保健機関(WHO)への加盟を後押しする声が国際社会の一部からあがっている。だが、台湾の国際的空間の活動を狭めようとしている中国共産党政府がそれを認めることは難しいだろう。当面、中国共産党政府が民進党の蔡英文政権とのあいだで、積極的な関係構築に動く見込みは低いとみてよい。

【『〈米中新冷戦〉と中国外交──北東アジアのパワーポリティクス』(白水社)所収「第1章  対立が先鋭化する米中関係──「米中新冷戦」の幕開けか」より】

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