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内向的な人が自分らしく幸せに生きるには… 韓国のベストセラー作家が贈る『実は、内向的な人間です』

記事:創元社

『実は、内向的な人間です』(創元社)。「猫と相性のいい理由」というテーマの文章も収められている。
『実は、内向的な人間です』(創元社)。「猫と相性のいい理由」というテーマの文章も収められている。

内向型人間の社会性スイッチ

 「内向的」という言葉は、「暗い」「消極的」「おとなしい」といったイメージと結びつけられがちです。しかし著者は、「内向性/外向性」はそういった表現の問題ではなく、性格の問題なのだと言います。実際に著者自身も「私は何かの集まりで黙り込んだり、人見知りしたりしない。数百人の聴衆を前に講義をし、テレビカメラの前でもスラスラしゃべる」ために、まわりから外向型人間だと思われることもあるのだそう。

 本当は極度の内向型人間なのに、そんなふうに外向的に振る舞えるのは、必要に応じて意識の中の“社会性スイッチ”を入れているからだと著者は言います。このスイッチを入れれば、「子どもの頃は絶対に無理だったこと(見知らぬ人に自分から話しかけるとか、気まずい関係の人に連絡するとか)」も可能になると。本来は自分の家に引きこもっていたい内向型人間でも、その望みどおりに生活していくことは容易ではありません。多くの人は著者と同じように、社会生活を通して、苦労しながら自分だけの“社会性スイッチ”を手に入れるのではないでしょうか。

 しかし、本来の気質に逆らうのはとても消耗することでもあります。社会性スイッチをある程度使いこなせるようになった著者でも、仕事で疲れていたりするとスイッチが故障してしまうこともあるのだとか。そんなときのアドバイスがこちらです。

 人間の気力は、川の水ではなく井戸水に近い。一度にたくさん汲み上げると枯れてしまい、再び満ちるまでに時間がかかる。内向型人間の場合、気力が尽きると真っ先に影響を受けるのが社会性だ。なぜなら、そこがいちばん多くのエネルギーを使うところだから。急に人付き合いがつらくなったなら、気力の蓄えが空っぽになっている可能性がある。そんなときは、自分に失望したり無理やり社会性を絞り出そうとしたりせず、気力と体力が回復するまで気長に待ったほうがいい。
 ガチャ、ガチャ、ガチャ……と故障したスイッチを押し続けていると、スイッチ自体が使い物にならなくなることだってあるのだから。

自分が内向的なのか外向的なのかわからない……という人は、本書に収められている「内向性診断」を試してみては。
自分が内向的なのか外向的なのかわからない……という人は、本書に収められている「内向性診断」を試してみては。

境界線の外に踏み出すわけ

 本書のなかで、著者は人生で気まずい思いをした場面をいくつも振り返ります。“西洋式の立食パーティー”に一人で参加して孤立したこと、飲み会でグループとグループの間の席に座ってどちらの輪にも入れなかったこと、おしゃべりな美容師との会話に付き合って疲れ果てたこと……。そのほかにも、人間関係で苦労した経験は数えきれません。

 しかし、だからといってそういった場を避けてばかりいると、「反対に、本当に心地いい生き方を取り逃してしまう気もする」とも著者は言います。そんな考え方が端的に表されているのが、以下の文章です。

 知らない人だらけの席で精いっぱい大人ぶって過ごした日の帰り道、「二度とあんなところには行くもんか」と胸に誓った。空しさが募り、気心の知れた親友に電話してひとしきりおしゃべりをした。やっと胸の隙間が埋まったような気がして電話を切った私は、携帯画面に浮かぶ親友の名前を見てハッとした。思えばその親友に出会ったのも、そういった気まずい席でのことだったのだ。
 生活環境や考え方が変化するたび、ある程度の周期で“親しい人たち”はかわっていく。もしも気楽だからといって限られた世界に閉じこもっていたら、いつか私は、その関係に限界を感じて八方ふさがりになっていたか、孤立していたに違いない。
 その後はそういった席に呼ばれると、喜んで応じることもできるようになった。私にとっては永遠に馴染めない空気かもしれない、だけど心のドアを少しだけ開けておこう。そんな気持ちで。

 無理はしないし、自分の内向性を否定もしない。だけど時には少しだけ勇気をだして、本来の性質から一歩外へ踏み出してみる。そういった小さなチャレンジを積み重ねていく大切さも、著者はくり返し述べています。

 最後は、プロローグ部分の言葉で締めくくりたいと思います。この言葉からも伝わってくるように、本書は内向性や外向性を否定することなく、ありのままと性質として受け入れつつもそこから「一歩踏み出す」ことを応援してくれます。根っからの内向型人間だという人、まわりから外向的だと思われているけど本当は内向的だという人、そして正真正銘の外向型人間だという人にも、ぜひ読んでほしい一冊です。

 人生でいちばん大切なものが“幸せ”だとしたら、総じて、内向的な人がさほど損をしているとは思わない。内向的な人が嚙みしめる幸せは、より深く、より濃い。内向的か外向的かは優劣とは関係ないことを理解し、自分とちゃんと向き合うことが、こういった幸せにつながるはずだ。

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