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アスペルガー症候群の孤独と才能――ゴッホ、コナン・ドイル、モーツァルトも? 『天才の秘密』 

記事:世界思想社

Image by Free-Photos from Pixabay
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アスペルガー症候群の特徴とは?

 アスペルガー症候群の人の多くは、仕事の虫であり、ものごとへの固執性が顕著で、一人でいることと孤独に芸術活動に打ち込むことに満足している。彼らはことのほか好奇心が強く、事細かに細部まで注意を向け、100パーセントそれに没頭するのである。また自分たちの芸術の分野では新しいものを探し求める人であり、かつその専門的領域内で絶大な想像力を発揮するのである。自閉症でない人たちに比べると、自分の仕事の分野では従来の芸術家たちから影響を受けにくい人たちだといえる。そしてかなり拡散したアイデンティティや拡散した心理的領域があるため、自閉症の芸術家というのは、画家ジョージ・ブルースが芸術に必須のものとして述べたこと、すなわち「対象物を単に描くだけではなく、対象物に入り込み、その対象物になりきってしまう」才能をもっていると思われる(Weeks, D. and James, J., 1997, Eccentrics. London : Phoenix.)。

ゴッホ(彼には、自傷行為・自虐行為の傾向があった。自分の耳を切り取り、女性に贈ったこともあったという)
ゴッホ(彼には、自傷行為・自虐行為の傾向があった。自分の耳を切り取り、女性に贈ったこともあったという)

『天才の秘密』では、さまざまな歴史的天才の「アスペルガー」的特性を解説している(目次より)
『天才の秘密』では、さまざまな歴史的天才の「アスペルガー」的特性を解説している(目次より)

 私には、葛藤もまた一つの役割を果たしているように思われる。アスペルガー症候群の人たち特有の芸術作品は、混乱したアイデンティティと表出しがたい言語とを解決するための一種の努力なのである。作品を創造することが自らを助け、しかも自己の療法と化している。彼らが体験する知覚的困惑を解決する努力とも言えるし、彼らの自閉的世界を理解するための努力だとも言えるのである。彼らは「不滅」への欲望に駆り立てられ、これを自分たちの芸術作品でもって「達成」している。

 彼らは言葉や言語に取りつかれていることがよくあり、それは文学的または哲学的作品では明らかに役立つものである。またアスペルガー症候群の人たちはうつ病を患いやすいので、芸術活動は抗うつ的な効果があると推測される。彼らは、芸術面での壁にぶつかったときに、おそらく普通の人より落ち込みが激しいと思われる。彼らの芸術活動は低くなりがちな自尊感情を引き上げるのである。

 アスペルガー症候群の人たちの文学作品は自伝的要素が強いことがよくある(たとえばコナン・ドイルとシャーロック・ホームズ)。それは、ほかの表現方法が困難なアスペルガー症候群の人たちにとって、自己表現の一つの形となるからである。

コナン・ドイル(作家のダニエル・スタシャワーによると、「コナン・ドイルは公的な場で演説する能力がまったくなかった。彼のスピーチは、語の省略があったり口ごもったりしたと言われていた」)
コナン・ドイル(作家のダニエル・スタシャワーによると、「コナン・ドイルは公的な場で演説する能力がまったくなかった。彼のスピーチは、語の省略があったり口ごもったりしたと言われていた」)

 アスペルガー症候群の人たちは自閉症的世界に生きているのに、自閉症ではない人の世界を言語で説明したり、描き出したりする能力があることは、注意を惹く矛盾である。なぜそのような能力があるかというと、彼らは統合的一貫性が弱いせいで自閉症ではない人たちとは異なったものの見方をし、細部に集中するためである。彼らには、普通の、要点だけをつかみ、世界を包括的に処理するやり方のせいで、自閉症ではない人たちが見落としている世界の一部を見せる能力があるのである。

 アスペルガー症候群の人たちは一般的には未熟な性格であり、子どものような能力をもち続けている。こうした子どものような考え方を維持することは、彼らの芸術的活動には役に立つことなのである。彼らはまた、慣習に従わない人たちでもあり、そうしたことから斬新なものや面白みのあるものが生まれてくる。

 もちろん、アスペルガーの哲学者の書いたものは、言語とコミュニケーションの異常性があるので、理解が難しいことが非常に多い。ウィークスとジェイムズは次のように指摘している。

風変わりな人たちは、変わった、また常軌を逸した方法で自分たちの考えを表現する傾向があるが、そのために説得力に欠けるというのではない。完全に論理的で完全にコミュニケーション障害が除かれている言葉というものが存在するとしたら、それは「単調」という最悪の言語的欠陥のあるものになるだろう。そして、時には風変わりな人たちは激怒し、理屈に合わず、謎めいていたとしても、その人たちは決して、一度として単調ではあり得ない。

 これは、部分的には自閉症の芸術家に当てはまることなのだが、今話題にしている内容に関して風変わりな人のことを論じるときには、注意深くならなければならない。なぜならば、風変わりな人の中でも、アスペルガー症候群の人はわずかしかいないからである。(中略)

モーツァルト(彼には注意欠陥多動性障害(ADHD)の特徴もあった)
モーツァルト(彼には注意欠陥多動性障害(ADHD)の特徴もあった)

 本書における天才の独創的才能は、音楽、絵画、文学、詩、そして哲学に及ぶものであった。これは、アスペルガー症候群の人には工学や数学を究める人が多いと思っている人には、驚きかもしれない。本書は芸術的天才性をもつアスペルガー症候群の人を賞賛するものである。もちろん、大多数のアスペルガー症候群の人は天才というわけではないが、それは、普通と呼ばれる人――自閉症ではない人――の大多数が、天才ではないのと同じである。

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