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統合失調症に対して心理学で何ができるのか 公認心理師として活躍する方へ

記事:朝倉書店

公認心理師側から統合失調症患者に関わってきた実践について報告した書物は少ない。
公認心理師側から統合失調症患者に関わってきた実践について報告した書物は少ない。

心理学サイドからの発信はなぜ必要?

 統合失調症についての成書は精神医学からのものが中心で、最近では患者本人からの発信も増えてきている。精神科医師と患者が協同で本を著すというような試みも行われている。それに対し、臨床心理学の立場から成書が書かれることは比較的少なかった。そのような中、2015年に公認心理師法が公布され、公認心理師が誕生し、多職種連携という言葉が目を引くようになった。精神医学領域でも多職種連携がいわれるようになった。複数の専門家が、それぞれの専門を活かして、支援に関わることが求められてきている。こうした多職種の一つに公認心理師も含まれていることは喜ばしいことである。しかしながら、公認心理師にどのような役割が期待されているのかについてはあまり明確ではないように思われる。その理由の一つに、公認心理師側から、公認心理師としてこのように統合失調症患者に関わってきたというような実践について報告した書物が少ないことがあげられよう。統合失調症について何をどのように考えて支援に関わってきているのか、という公認心理師の考え方も含めて、多職種の専門家への発信が少ないと感じるのである。

 そこで、本書では、長年統合失調症に関わってきたベテランの公認心理師を中心に、各自の立場で、どのように統合失調症に関わってきたのかについて具体的に書いていただくことをお願いした。統合失調症に対してどのような関わりがこれまでに試みられてきたかを紹介することで、今後新たに統合失調症に関わるようになる公認心理師に、日々の支援の実際に役立つような情報を提供したいと考えて本書が企画された。

統合失調症では入院する患者が多く,年齢が高い者では長期入院となっている。
統合失調症では入院する患者が多く,年齢が高い者では長期入院となっている。

精神科領域で出会う統合失調症

 厚生労働省の「平成29 年(2017)患者調査の概況」(2)をみると、傷病については世界保健機関(WHO)の「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」(ICD)のICD-10(2013 年版)の分類が使用され、その中の「統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害」の項をみると、入院者数は約15万人、外来者数は約6万人と紹介されている。入院者数でみると統計に上がっている「血管性及び詳細不明の認知症」および「気分[感情]障害(躁うつ病を含む)」の2 つのカテゴリーのそれぞれの人数の約5 倍の数で多いことがわかる。統合失調症の入院者数が他に比べ多い。入院の平均在院日数についてみると、「統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害」は531.8 日であり、「血管性及び詳細不明の認知症」および「気分[感情]障害(躁うつ病を含む)」のそれぞれが349.2 日、113.9 日であるのに比べ、長期であることがわかる。統計では在院日数を年齢で分けて紹介している。その区分は、0〜14 歳、15 歳〜34 歳、35歳〜64 歳、65 歳以上、75 歳以上となっており,それぞれの在院日数は167.2日、106.5 日、301.6 日、1210.6 日、1692.2 日である。35 歳以上になると在院日数がいきなりはね上がり、65 歳以上になるとさらに35 歳以上の4 倍の在院日数となっている。年齢が高いものでは長期入院が多いということである。こうした日本の統計が示していることは、統合失調症では入院する患者が多く、年齢が高い者では長期入院となっているということである。

心理テストの利用で、表出の乏しい状態からも統合失調症を捉える手がかりに。
心理テストの利用で、表出の乏しい状態からも統合失調症を捉える手がかりに。

診断基準からはみえてこないもの

 そうした現場(※注:ほとんど自覚的な訴えはみられない)で心理テストの利用の一つの例が第2 章で紹介する心理検査の実際である。つまりDSM-5 が要求しているような、症状がいくつあるかということを手がかりにして診断するのではなく、第2 章で述べるような心理テストによる診断的手がかりは、統合失調症の症状の訴えのないものに対して行われた心理テスト結果から得られるものであり、表出の乏しい状態からも統合失調症を捉えようとするものである。(略)

 DSM-5 の診断基準からは、統合失調症患者がどのような生涯を送るのかについては何の手がかりも与えてくれない。しかし患者にもライフサイクルに従った人生上のテーマ(7)があり、そのテーマが、再入院のきっかけとなっていることもある。そうしたことの理解は、描画を通した経過を検討することで得られることもある。個々の患者のライフサイクルのテーマに沿った支援ができると、患者の生涯も少しは過ごしやすいものになると思われる。

個々のライフサイクルのテーマに沿った支援ができると、患者の利益となる。
個々のライフサイクルのテーマに沿った支援ができると、患者の利益となる。

文献
(2)厚生労働省(2019).平成29 年(2017)患者調査の概況 
(7)横田正夫(2018).描画にみる統合失調症のこころ─アートとエビデンス─ 新曜社

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