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東日本大震災から10年 「被災地のジャーナリズム」が存在すべき理由

跡形なく街が消え、被災地は広大な空地となった=2011年12月18日、陸前高田市
跡形なく街が消え、被災地は広大な空地となった=2011年12月18日、陸前高田市

 2月13日深夜、福島県沖を震源とする最大震度6強の激震が東北を揺るがせました。2011年3月11日の東日本大震災が「恐怖とともによみがえった」と多くの人が語る地震でした。震源に最も近い郷里相馬市の状況を筆者は懸念し、翌朝に訪ねました。商店街などに建物の倒壊現場はなく、何事もなさそうで安堵しました。でも、建築を営む同級生によれば、震災をかろうじて生き延びた家々は、19年10月、東北南部を襲った豪雨災害で土台に再び打撃を受け、160軒が解体されて、倒れる家屋が残っていなかっただけでした。

 本書の表紙は今年の正月2日、同じ相馬市の松川浦から初漁に向かう出船の光景。暗い闇と小さな光が、津波の後も、福島第一原発事故の風評に苦しめられてきた漁師の心象のようでした。深い傷が癒えぬまま、いまだ再建途上の古里。歳月は被災地にさらなる災害をもたらし、人々の重荷を増し、「復興」を見えないものにしています。あれから10年を経ての「余震」はそれを無言で示し、震災を忘れることを誰にも許さぬかのようです。

現場に通わせた当事者たちの言葉

 『被災地のジャーナリズム――東日本大震災10年 「寄り添う」の意味を求めて』(明石書店)は、震災発生の日を河北新報編集委員として迎え、それから10年、福島、宮城、岩手の被災地の取材を続けてきた筆者の7冊目の著書になります。津波で、原発事故で、古里の町や家族を失った当事者の人々に出会い、河北新報の多くの連載やブログ「余震の中で新聞を作る」を書き、これまで『Journalism』(朝日新聞社)へ論考を、「Foresight」(新潮社)へルポを書いてきました。

 数え切れない現場に筆者を通わせたものは、政府の「復興加速」の掛け声とは裏腹に、終わりなく新たな問題を生みながら変容していく現実であり、何よりも、喪失の痛みから心癒えることなく、それでも小さな希望を模索する当事者たちの言葉でした。「そこに居合わせた自分が伝えなければ、この人の声は誰にも聴かれることなく消えてしまう、永遠になかったことになる」。そんな恐怖とともに、そこに立ち会った者としての切実な使命が生まれます。古里に起きたことであるならば、なお――。筆者の思いはこうでした。

「初めて『同胞』に目覚めました。相馬野馬追の祭りや同じ方言、歴史を共有する人たちの苦難を前に、自分には何ができるのか、自分は何者なのか」(本書より)

『被災地のジャーナリズム――東日本大震災10年 「寄り添う」の意味を求めて』(2021年3月刊)
『被災地のジャーナリズム――東日本大震災10年 「寄り添う」の意味を求めて』(2021年3月刊)

 職業的な記者でなくとも、そこに当事者の声をつなぐ者、新しいジャーナリストが誕生する瞬間です。この列島では毎年のように大地震や豪雨の災害が起き、新たな被災地は一時の報道ラッシュの後、忘れられていきます。報道されない被災地もあります。どんな小さな町にも、当事者のたちと同じ時間を共に生き、その声の発信を助けて外の人々につなぎ、歳月を越えて伝え続ける者がいてほしい。風化し忘却される被災地がないように。

 被災地の当事者であり取材者となった一人として、筆者の体験と模索を伝えられたら、というのが本書を世に出す理由でした。

「寄り添う」の本当の意味とは何か?

 そして、震災でメディアやネットや政治家の発言などを通じて、あまりにも軽い言葉にされた「寄り添う」。その本当の意味とは何か? オリンピックとも結びつけられて政治用語にもなり、被災地の人の口から筆者が一度も聞いたことのない「復興」とは何のことなのか。原発事故や汚染水問題の実態を覆い隠す「アンダーコントロール」という前首相の虚言もありました。そんな素朴な問い直しが、この本のもう一つのテーマです。

集落の墓地と対峙した除染土袋の山。住民の帰還への思いに現実が重くのしかかった=2016年1月12日、福島県飯舘村比曽
集落の墓地と対峙した除染土袋の山。住民の帰還への思いに現実が重くのしかかった=2016年1月12日、福島県飯舘村比曽

 被災地から遠い「他者」の言葉が報じられ、流布するたびに、当事者たちの思いは置き去りにされ、心を傷つけられた人々もいました。他者であっても、当事者と「壁」を越えてつながることはできる。そして、孤立し傷ついた人と共に生きる希望を見いだすこともできる。その道筋の模索こそ、「被災地のジャーナリズム」が存在すべき理由です。

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