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東日本大震災から10年、あらためて学校防災を考える 実践的手引き『教師のための防災学習帳』

記事:朝倉書店

宮城県石巻市の旧大川小学校。多くの児童及び教職員が避難途中に津波に襲われた。
宮城県石巻市の旧大川小学校。多くの児童及び教職員が避難途中に津波に襲われた。

2021年3月発売『教師のための防災学習帳』(小田隆史編著)
2021年3月発売『教師のための防災学習帳』(小田隆史編著)

東日本大震災10年の思い

 2011年の東日本大震災から10年の年月を、皆様はどのように過ごされたでしょうか。あの頃生まれた子どもは小学生になり、第一線で活躍していた教師たちのなかには定年を迎えた人も多くいます。当時子どもだった若者が、教壇に立ち始めています。災害公営住宅や高台の新居に移り住み、長く続いた仮設住宅での暮らしからようやく新たな一歩を踏み出し始めた人もいれば、福島の原発事故により、いまだ故郷に帰還できずにいる人もいます。避難先で育った子どもにとっては、「地元」よりも避難先で暮らした時間のほうが長く、新天地が自身の原風景となっているかもしれません。

 そんな中で、時間の経過とともに、震災の記憶・教訓が忘れ去られてしまう懸念を口にする人たちが増えています。「先人たちが遺してくれた津波の警告の重要性に気づいたのは大災害の後だった」と痛烈な悔恨の念を抱き、再び同じような悲劇を繰り返すまいと、あの日の経験を語り始めた人たちや、災害を後世に伝えるための施設も増えています。

 どれだけ語りを重ねても失われた命は戻ってこないけれど、「せめて」自分が語るという営みが他者の安全と明るい未来に結実すればと、失った我が子との思い出、あの震災の経験、そして未曾有の災禍に我々はどう向き合えばいいかを伝え続ける人たちがいます。無念と悔恨、安堵と寂寥などの感情が入り交じる彼らの追憶の言葉に胸を打たれます。

 直接的な当事者でなくとも、あの災害に正面から向き合おうとすれば、自ずと命の大切さや当たり前のように送られる日々の幸せがいかに尊いものなのか気付かせてくれます。そして、自分に何ができるのか、どうすれば自分や他者の命を守れるのか、何を学べばそれが達成できるのか、学校が社会の安全・安心にとってどんな存在であるべきなのか。教育に関わる者として、そんな問いが湧き出てきます。

学校が社会の安全・安心にとってどんな存在であるべきなのか。
学校が社会の安全・安心にとってどんな存在であるべきなのか。

記録を学びの資源に

 やがて「目の前の子どもに被災した現実とどう向き合わせればよいか」という教育者としての本質的な課題への取り組み、多様な復興教育・震災学習の模索が始まりました。阪神・淡路大震災やそれ以降の大災害後に、被災した子どもや保護者に配慮したうえでなされた語り継ぎの創意工夫に学び、授業の実践事例や子どもや保護者への対応、学校の継続に関する実務の記録もまた残されていったのです。

 災害の記録集は、教師にとって貴重な学びの資源であり、未災の地域や次世代の防災教育の実践に重要な知見を提供してくれます。とはいえ、「震災経験が分厚く丹念に記録されたこれらの良書を熟読して、そこに述べられた豊富な経験から自ら教訓を導き出し、知識を応用・昇華できるまで時間を費やせるほど現場に余裕がない」、との声が教師からは、聞かれます。あまつさえ、いじめ・不登校など足下の課題に追われるなか、過剰とも言える学校への期待に戸惑う現実を前にして、学校防災の重要性は強く感じているものの、そこまで手が回らずジレンマに直面しているとの声がしばしば熱意のある教師たちから吐露されます。

現在、旧大川小学校を震災遺構とするための工事が進められている。
現在、旧大川小学校を震災遺構とするための工事が進められている。

学校防災力の「底上げ」のために

 学校防災に必要とされる知識や経験は、幅広く奥深いものです。管理職や防災担当の教師に任せておけばよいというものではありません。一口に学校や教師といっても、多様な専門、校種、幼児・児童・生徒の発達段階があり、「防災」の学び方、教え方も一様ではないのです。既存の教科や特別活動などにどれだけ防災の要素を盛り込むかは、教師個々の意欲と工夫に任されている側面があり、それだけに戸惑い、試行錯誤している教師たちが多いようです。全国津々浦々に存在する学校で、特有でありながらも多様な環境に応じた備えをしつつ、専門を活かしながら臨機応変な対応をしなければなりません。公的な教育機関である学校ならではの防災への貢献には、地域の拠りどころにもなってほしいという大きな期待も寄せられます。そのためにも教師の防災に関する力の「底上げ」が早急な課題なのです。また、防災について学びを深めたい、学び直したい、でも、どこから手を付けたらよいかわからないと感じている教師たちも多いと思います。

教師の防災に関する力の「底上げ」が早急な課題となっている。
教師の防災に関する力の「底上げ」が早急な課題となっている。

 本書はそんな思いを抱く読者に少しでも役に立ちたいという願いから構想しました。まずは、学校防災の学びの主なテーマを知り、過去の災害事例もふまえて、防災の基礎を押さえるというのが目的です。校種や専門性にかかわらず、教師自身が子どもの命を守り、教え子が学び舎を巣立った後も生涯にわたって、自分とまわりの大切な人たちとともに生き抜く力を高められるよう、学校防災の学びの入り口となる内容を厳選しました。

※関連記事:予期せぬ災害時に最善の行動をとれるように 教師と教職を志す学生のための学校防災

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