1. じんぶん堂TOP
  2. 教養
  3. 「傾聴」の根底にある心理臨床に大切なもの ロジャーズ理論の「一致」「受容」「共感的理解」を徹底解説

「傾聴」の根底にある心理臨床に大切なもの ロジャーズ理論の「一致」「受容」「共感的理解」を徹底解説

記事:創元社

ロジャーズの理論

 編者3人は人間性心理学、特にカール・ロジャーズ(Carl Rogers)の理論を大切にしながらカウンセリングやエンカウンター・グループを行っている。そしてロジャーズの「治療的人格変化の必要十分条件」の論文は、彼が書いた多くの論文の中でも私達臨床家にとって大切なものであると思っている。

 カウンセリングを学習した人の多くは「一致」「受容」「共感的理解」という言葉やそれらをまとめて「中核3条件」ということも知っているであろう。しかし、これらの言葉がカール・ロジャーズの「治療的人格変化の必要十分条件」の論文で述べられている言葉であることを知らない人も多いかもしれない。

 「一致」「受容」「共感的理解」は人間性心理学を大切にしている臨床家だけではなく、多くの臨床家にとって大切な概念であると、私達は思っている。そこで、これらの概念を伝える本を作ることを考えた。人間性心理学の方々をメインに原稿をお願いした。人間性心理学の中でも個人臨床、グループ臨床、フォーカシングなどの幅広い分野の方に、そしてこれらの概念が他学派にとっても大切な概念であることをきちんと伝えるために、他学派の方にも執筆していただいた。また、外国の臨床家にもこれらのテーマに沿っての執筆を依頼し、できるだけ幅広い視点でこれらを考える機会となるように考えた。これらの概念の真髄は共通であるが、臨床への活かし方が人によって異なり、個性がでることが伝わるような構成となっている。

理解する機会、考える機会になる本

 今、振り返ってみると、私達はこの本を通して、何か絶対に強くこれを伝えたいということではなく、執筆者に「中核3条件」という概念についてさまざまな角度から考え、書いてもらい、それを読んだ人達が、その人達なりに理解する機会、考える機会になれば良いなと思って、この本を作ることを考えた気がする。

 この3冊を通して伝えきれたかどうか不安なこともある。それは「一致」「受容」「共感的理解」がバラバラに存在するのではなく、それぞれが絡み合って、関係しあって存在していることを3冊の本で伝えられているのであろうかということである。

 ロジャーズの「一致」「受容」「共感的理解」の言葉は多くの人が知っている言葉であり、臨床家以外の人も使うときもある言葉である。しかしそれ故にその理解も人それぞれになってしまっている。カウンセリングにおける人間関係で大切なこの「一致」「受容」「共感的理解」、そして「治療的人格変化の必要十分条件」をカウンセリングの枠組みで理解し、臨床家であるカウンセラーがカウンセリングの中で活かせる手助けとなる本でありたいと願っている。

根底に「一致」の態度(文・本山智敬)

 中核3条件のなかでも「一致」の態度が一番わかりづらいだろう。傾聴について考える時に「受容・共感」は自然と頭に浮かんでも(それらを十分に理解しているかは別として)、そこに「一致」がどのように関係しているのか、なかなかイメージしにくい。

 しかし、傾聴を学びたい読者の中で「ただ聴く(受容・共感する)だけでいいのだろうか」という問いや「もっと受容・共感の態度について学びたい」という思いをお持ちの方にこそ、この「一致」の態度を学んでほしい。傾聴が単に相手の体験(気持ち)を大事にするだけでなく、聴いている自分自身の体験(気持ち)をも大事にすることであり、こちらの「受容・共感」が真に相手に伝わる際の根底に「一致」の態度があることに気づくはずである。

 さらにロジャーズは、この中核3条件の態度でかかわる先に生まれるものは「愛されているという体験」であると言う。さて、中核3条件が「愛」の体験につながるとはどういうことなのか。ここから先はぜひ本書で確認してほしい。

相手のそのままを理解しようと関わりをもつ(文・坂中正義)

 この本のタイトルを注意深く観察すると「受容:無条件の積極的関心」となっている。この用語はロジャーズのUnconditional Positive Regardに相当する。「受容」という用語は日常的に用いるので分かりやすいが、そのイメージが「無条件の積極的関心」が示す全体像をみえにくくする。ただ「無条件の積極的関心」では本のタイトルとしてとっつきにくい。ゆえに両者の並記をタイトルとした。

 ダイバーシティ(多様性)という用語を見聞きする。様々な背景(人種、文化、宗教など)をもつ人々がそれぞれを認めつつ共存できる(インクルーシブ)社会といった使い方がなされる。そのためには自分と同じ考え方だから認め、違うから認めない(条件つきの関心)ではなく、自分の枠組みはちょっと脇に置いて、相手のそのままを(無条件に)、理解しようと関わりをもつ(積極的関心)ことが必要であろう。視点を個人内に定めれば、1人の人間の中にも様々な考えや思い、感情などがある。そのどれもそのまま理解しようと関わりをもつことが無条件の積極的関心である。「それは難しいのではないか」という反応がかえってくることも多い。時に関わる側自身のありようが問われる厳しさがある。そのような面も含めて「受容:無条件の積極的関心」なのである。

その人の視点に立つ(文・三國牧子)

 「共感できる!」という言葉は日常生活の中で人々の会話から、あるいはテレビなどのメディアを通して多く耳にする機会がある。この「共感できる!」という言葉を私はカウンセリングの中で使ったことはない。カウンセリングにおける「共感的理解」は、カウンセラーがクライエントを「共感できる!」ことを目的とはしていない。イギリス人の友人が共感的理解を説明する時に「put oneself in someone’s shoes」という言葉で説明したことがある。私はこの表現が好きである。他者の靴を履いてその人の視点に立ってその人の景色を見る。高いヒールを履いて見える景色、履き慣れたボロボロの運動靴から見える景色、高さが違うから見える景色も違う。そして歩き方も異なる。目の前にいる人がどのような靴を履いて歩いているのかな、どのような景色が見えるのかなって、クライエントの話を聞きながら一生懸命それを理解しようと務めるのである。私達は決してその靴を実際に履いて、歩いている目の前の人のことを完全に理解することはできない。共感的理解は努力目標で、「あっ、共感します!」と言えるものではないのである。

ページトップに戻る

じんぶん堂は、「人文書」の魅力を伝える
出版社と朝日新聞社の共同プロジェクトです。
「じんぶん堂」とは 加盟社一覧へ