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「醸造」は翻訳できない?! 日本固有の文化を背景にした醸造の概念 〜未来を拓く技術として

記事:朝倉書店

微生物の概念が誕生するよりもはるか昔に、醸造物は造られはじめた。
微生物の概念が誕生するよりもはるか昔に、醸造物は造られはじめた。

醸造の歴史は古く、まさに地球に優しいサステナブルな技術

 醸造の歴史は古く、ワインは紀元前4000年、ビールは紀元前3000年ごろにすでに造られていたといわれています。人類は、微生物の存在を認識するよりもはるか昔から、その働きを食品の加工や保存に活用し、食文化を形成してきました。もちろん、日本の伝統的な食文化である和食も例外ではありません。

最近,SDGs(持続可能な開発目標)という言葉をよく目にするようになった.2020年10月26日に行われた菅義偉首相による所信表明演説の中でも,「2050年脱炭素」宣言が注目を集めた.カーボンニュートラル,脱石油,脱石炭などの用語とともに,サステナブルもよく登場する.これらを考えてみると,「醸造」は,まさに地球に優しいサステナブル(持続可能)な技術を集約したものととらえることもできる.
『醸造の事典』序より 北本勝ひこ 著

醸造の歴史は古く、ワインは紀元前4000年、ビールは紀元前3000年ごろにすでに造られていたと言われている。
醸造の歴史は古く、ワインは紀元前4000年、ビールは紀元前3000年ごろにすでに造られていたと言われている。

醸造の全体像を俯瞰する新しい事典

 朝倉書店では1988年に『醸造の事典』を、2002年にはその改訂版として『醸造・発酵食品の事典』を刊行しています。それから約20年が経ち、醸造を取り巻く状況は大きく変化しました。長いあいだ経験的に行われてきた作業工程が分子生物学的に理解されるようになり、また、醸造物の健康機能性に関する研究も進んできました。日本ワインブームなど、肌で感じられる動きも多々あります。

 こうした昨今の状況をふまえ、醸造の全体像を俯瞰する新しい事典を作ろうと企画されたのが本書です。弊社刊『食と微生物の事典』でも編集代表を務めていただいた北本先生、酒類総研初の女性理事長としても注目された後藤先生をはじめとする編者陣のご人脈により、大学研究者・メーカー技術者にとどまらない幅広いご所属の方々に執筆いただき、読み応えのある一冊になりました。映画「君の名は。」で有名になった口噛み酒や、調味料としてすっかり定着した塩麴など、専門家でない読者にも楽しめる話題が豊富です。

醸造の全体像を俯瞰する新しい事典を作ろうと企画された『醸造の事典』。
醸造の全体像を俯瞰する新しい事典を作ろうと企画された『醸造の事典』。

「醸造」から「JOZO」へ。伝統文化から広がる未来への可能性

まず,本のタイトルとしては,シンプルに『醸造の事典』とした.これは,1988年にやはり朝倉書店より刊行された同名の事典[野白喜久雄・吉沢 淑・鎌田耕造・水沼武二・蓼沼 誠 編]のタイトルに,いわば先祖返りするものである.これは,「発酵」は西欧にも存在するが,「醸造」という概念はわが国固有のユニークな文化を背景にしたものであるということ,さらに,「醸造」という意味が,この30年の間に,ただ伝統的で保守的なものから新しい先端的な可能性を含むものへと変化しつつあることを意識してのことである.本書の一節(p.412「6-6 未来をデザインするJOZO」)にも書かれているように,醸造文化を「日本食のOS(オペレーションシステム)」ととらえる斬新な考え方も登場している.21世紀の「醸造」は世界を意識したサステナブルな「JOZO」へと可能性を広げていると考えたからである.『醸造の事典』序より 北本勝ひこ 著

 カバーにあしらった英語書名にもご注目ください。和英辞典で“醸造”を引くとbrewingと出てきますが、これは主にビール醸造を指す語で(お茶やコーヒーにも使われますが)、日本語の“醸造”ほど幅広い意味をもつ語は存在しないのだそうです。Encyclopedia of Jozoと表記することで、本書を手に取る人に新しい醸造の可能性を感じてもらえれば嬉しいです。

和英辞典で“醸造”を引くとbrewingと出てくるが、これは主にビール醸造を指す語で、日本語の“醸造”ほど幅広い意味をもつ語は存在しない。
和英辞典で“醸造”を引くとbrewingと出てくるが、これは主にビール醸造を指す語で、日本語の“醸造”ほど幅広い意味をもつ語は存在しない。

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