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深大寺の国宝仏はなぜ関東にあるのか? その伝来の謎に迫る歴史ミステリー

記事:春秋社

深大寺境内(深大寺提供)
深大寺境内(深大寺提供)

白鳳仏の魅力

 まずは白鳳仏とは何かを説明しておこう。飛鳥時代に仏教が日本に公式に伝えられ仏像が造られるようになった。当初は飛鳥大仏や法隆寺の釈迦三尊像に代表されるように杏仁形の目、大きめの高い鼻、アルカイック・スマイルといった厳粛な趣の仏像だった。

 その後、大化の改新を経て、仏教が日本全体に広がっていくとともに、仏像も日本的な様相を帯びていく。興福寺の仏頭や法隆寺の橘夫人念持仏のように、半眼の目、丸みを帯びた小鼻というように丸顔で若々しい、柔らかい姿となった。この時代の仏像が白鳳仏である。

 この白鳳仏の特徴を著者は「かわいい文化の起源」と説明する。

仏像の日本化を一口で説明しようとすれば、古語の「うつくし(愛し)」が浮かぶ。現代語では「かわいい、愛らしい」の意味に近い、「愛し」こそ、白鳳仏の魅力を端的に伝える表現ではないだろうか。(本書16頁)

 そして清少納言の『枕草子』第151段「うつくしきもの」を引用し、そこに挙げられた幼い子供の顔(童形)こそが白鳳仏の特徴であり、この「かわいい」の感性は、清少納言の文学よりも数百年も前に、すでに白鳳仏として造形になっていたといえないだろか、と述べている。白鳳仏は当時の人々だけでなく、現代の人々の心を今もなお魅了する愛らしさに満ちている。だからこそ、その謎も大きな魅力となっているのだろう。

奈良の都と武蔵野を結ぶ豪族

 さて、深大寺の白鳳仏に話を戻すと、その謎は大きく分けると二つになる。一つめは、とても地方で製作されたものとは思えないこの仏像は誰の持ちものであったのか。二つめは、その由緒ある仏像を、誰がどのような経緯で深大寺に持ってきたのか、である。著者は仏像研究者の水野敬三郎先生の講演を受けて、まず二つめの謎の解明にとりかかる。

 当時武蔵国には高句麗から移住してきた人々が住んでいた。その武蔵野の国司も務め中央で大出世した人物に高倉福信(たかくらふくしん)がいる。巧みな相撲が聖武天皇に評価され、幾多の政変をうまくかわし、最終的に従三位という上級貴族にまで昇り詰めた、調べれば調べるほど興味深い人物である。福信であれば奈良の都から武蔵野に深大寺仏を持ってきてもおかしくはない。

 一方で、深大寺を開基したと伝えられるのが、満功上人(まんくうしょうにん)。問題は満功上人と福信の関係である。この二人はどのようにつながるのか。深大寺の創建年代と合わせて難問である。

 著者は系図を調べ、あることに気づき、創建縁起に描かれたロマンスに隠された二人の驚きの関係を導き出す。さらに、創建の年代も再検証し、深大寺の白鳳仏が、福信から満功上人へ渡ったのは疑いないと結論づけるのである。

とある貴族の念持仏

 しかし、著者にはもう一つの難題が待っていた。一つめの誰の持ちものであったのか、確信のある答えがまだだったのだ。「聖武天皇の念持仏で国分寺創建を受けて譲り受けた」という初めの説は、水野先生から「再考の必要あり」との指摘を受けてしまう。

 再度チャレンジを試みる著者がとった方法が、推理小説で常套手段の時間軸を表に整理して見比べるものだった。朝廷・深大寺・高倉福信一族の3つの項目を並べた年表をゆっくり見直していく。

 そして、もう一つの大発見をする。福信の出世には必ずある人物がいる、その人物ならば仏像を福信に譲り与えることが可能である。そして、この人物に関係の深い者が持っていたに違いない、と。著者はその推理を確かめに、木津川へと向かうのである。カーナビにも表示された天啓もあり、その推理が正しいことを確信していく。

 帰りに木津川のほとりを歩きながら、著者は1300年前の朝廷へと思いをはせる。福信ととある人物の強い絆と政変に翻弄される兄妹の情愛、これら奇跡的な縁によって武蔵野にもたらされた深大寺仏に――。

 この深大寺仏の謎に迫る歴史ミステリーは、水野先生への報告で大団円を迎える。報告の中で、一つ一つのピースがつなぎ合わさり、一つの絵にまとまっていく様子はまさしく爽快そのものである。著者の長年の調査の旅はここで無事に終わったのであるが、その推理の一部始終はぜひご自身の目で味わっていただきたい。

 最後は著者の「まえがき」の言葉で締めくくって終わりたいと思う。この言葉こそ、読者への最上のメッセージと思うからだ。

白鳳仏は美しい。そしてその世界は面白い。
さあ、ようこそ。白鳳仏ミステリーロマンの世界へ――(本書iv頁)

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