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マッチョな男性的コミュニティで、「父」になることはできるのか?(上):よい父親の条件

記事:晶文社

ジョルジャ・リープ『プロジェクト・ファザーフッドーーアメリカで最も凶悪な街で「父」になること』
ジョルジャ・リープ『プロジェクト・ファザーフッドーーアメリカで最も凶悪な街で「父」になること』

貧困、ドラッグ汚染、警察による差別行為

「父親として、男として、答えてほしい。問題はもうわかっている。で、俺たちはどうする?」

 この本は、サウス・ロサンゼルスにあるワッツという町で生まれ育ったある男たちのグループが、この疑問に答えを出そうとする物語である──家族の中においても、コミュニティにおいても。〈プロジェクト・ファザーフッド〉というプログラムを通じて、彼らは週に一度集まり、親の役割にまつわる問題について考えた。しかしこのグループは、彼らにとってしだいにもっと大きな意味を持つようになっていった。会合で、彼らは冗談を飛ばし合う一方で、心に深い傷を残した経験についても話し、また、刑務所に入ったり疎遠になったりして、離れ離れになっていた子供との絆を取り戻そうとする喜びと悲しみについても打ち明けた。そこは、かつてみずから破壊しようとしたワッツというコミュニティを癒すための計画を練り、実行に移す場でもあった。

 わたしは共同リーダーを務めてほしいと頼まれて加わったのだが、グループでの出来事は広く知ってもらうべき物語だとすぐに気づき、人類学者であり民族誌学者でもある自分の経験を活かすことにした。父親たちの物語を集める作業をしながら、どれだけ激しく心を揺さぶられたか。グループという枠組みをはずれた場での彼らを知るにつけ、この会合が始まる以前の、一人ひとりの過去を理解することがとても重要だと知った。そこで明らかにされたのは、警察による虐待行為、いわゆる「麻薬戦争」が引き起こした災害、そして貧困が人をどれだけ責め苛むかという厳然たる事実だった。

 しかし、彼らが歩んできた人生は、それぞれの個性の基盤にある生来の強さと負けん気(レジリエンス)を物語るものでもあった。彼らは面白くて強く、怒りを燃やし、凶暴で、そして何より、固い絆で結ばれている。わたしがワッツ・コミュニティで暮らし、父親たちと一緒に過ごすあいだに、とてつもない災難にぶつかった彼らの話をわたしは繰り返し記録した。ところが、そうして彼らの人生や暮らしについて書き留めるうちに、思いがけない結果が生まれたのだ。わたしは、彼らの癒しのプロセスをこの目で目撃することになった。わたしたちがともに日々を過ごし、変身していく中で、彼らに、そして自分自身に何が起こったか、わたしは四年間、記録を続けた。この本は、その変身の物語である。

スラム街で父になるのは難しい

 わたしは、父親たちのあいだに絆を築くにはどうしたらいいか、いまだに考えていた。わたしの危惧をよそに、翌週の会場も父親たちでぎっしり埋まっていた。出席率に気をよくして、マイクもわたしもちょっと大胆になった。自然な流れで、大前提となる問題を話し合おうということで二人の意見が一致した。「よい父親の条件とは?

 男たちはいっせいに口を開いた。びっくりするほど激しい反応だった。

俺たちにどうしてわかる? あんたらが教えてくれるんだと思ったのに!」

親父がそばにいたことは一度もなかった──」

俺には父親なんかいなかった──」

「この会はそのための──」

「ドクタージョルジャリープ、俺たちにそれを教えるのはあんただ!」

 いつもならマイクにまかせるところだが、今度ばかりは、なぜ彼らがここに一緒にいるのか、その目的をはっきりさせようと決めた。

「今まであなたたち一人ひとりと、一対一で話をしてきた。誰もが、子供のそばにいてやりたいと言っていた。よい父親になりたい、と。でもまずは、よい父親になるには何をすべきか、ちゃんと話し合わなくちゃ。それも自分の言葉で」

 わたしはサイと目を合わせた。彼はそれに応じてくれた。

「俺は父親として、子供に手本を見せ、手本になろうとしてる。口で言うだけじゃなく、それを自分で実行するんだ。そうすれば子供たちは、パパは口先だけじゃなく、そういうふうに生きてるんだとわかる。とくに息子たちの前では、こういうヤバいことにおまえたちは手を出しちゃだめだって示そうとしてる。話して聞かせるだけじゃだめなんだ。ちゃんと行動で見せないと。俺はつねにそれを実践してる」

 サイに続いたのがチャブだった。内気で、元々発言が少なかったが、最近だんだん心を開き始めていた。声が小さくて、耳を澄まさないと聞こえず、なんだか頼りない感じがしたけれど。「よい父親の条件はよくわからない。俺には父親がいなかったから。俺は子供を守りたいんだ。だからときにはめちゃくちゃ逆上するよ。『俺は娘を愛してる。娘を傷つけたら承知しない!』だが、そういうやり方をしちゃいけないと理解しなきゃならない。子供ってのは遊ぶものだ。たとえば娘がどこかのガキにぶたれて、泣いて帰ってきたとする。とても黙っていられないよな。仕返しをしてやりたくなる。だけど、相手は子供だ。遊んでるうちに、少々度が過ぎるってこともある。だから受け流さなきゃだめだ」

 わたしはチャブの言葉を聞きながら、問題を解決したければ襲撃するか、ギャングの兄貴分に相談するのが常だった人間にとって、今この会に出席して別のやり方を身につけなければならないのは、やっぱり難しいものなんだな、とつくづく思った。

 (中略)

「俺はまだ話してねえ」ロナルド・ジェームズまたの名をツインが口を開いた。「一つ言いたいことがあるんだ。怠けるのはやめること。子供なんかそこにいないみたいな、自分は関係ないみたいな態度をしちゃだめだ。父親らしく振る舞い、父親らしい態度をとること。父親役を買って出ろ。父親として振る舞えるせっかくのチャンスを他人に渡すな。だってさ、あんたが子供のそばにいて、子供があんたのそばにいてくれる、こんなに最高なことはないんだぜ。赤ん坊じゃなくなって、名前を呼べば駆け寄ってきてくれる頃はとくに。電話もよこすかもしれない。そういう電話は必ずとるべきだ」

 これは、父親会で以前みんなが総意として言っていたこととは矛盾する──子育ては女の仕事だ、と訴えていたではないか。だが、べつにそれを指摘する気はなかった。自分たちが子供のときには、そんなふうに見えていたのかもしれない。目くじらを立てるほどのことではない。大事なのは、全員が「ファザーフッド(父親であること)」について熱心に話をしていることだ。

(『プロジェクト・ファザーフッド』「ワッツ」「ファザーフッド」より)※本記事の太字は、担当編集者によるもの。

後編:「変化する覚悟」につづく

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