マッチョな男性的コミュニティで、「父」になることはできるのか?(下):変化する覚悟
記事:晶文社
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「もう一つ言わせてくれ」今度はデュボワだ。「いい父親になるには、いつでも子供を助けてやることだと思うんだ。助けると言っても、靴を買ってやるとかそういうことだけじゃなく、子供が必要とするときにそばにいてやることも大事だ。子供にも自分なりの世界があるから、ときにはいやな目に遭うだろう。そういうときに父親が必要なんだ。俺には実際に体験がある。双子の息子の一人から学校でつらいことがあったと連絡が来たから、学校に駆けつけたんだ。息子と向かい合って、何があったのか話を聞いた。だが息子は元気そうだった。つらい一日だったけど、とにかく俺に学校に来てほしかっただけなんだ。俺は普段あんまり家に寄りつかないから、息子も妙な感じがしたと思う。俺は学校に行って息子に寄り添い、話をした。そうして元気づけたんだ。あとで先生に電話をしたら、息子は元気に過ごしてると話してくれた」
デュボワが話をするあいだ、男たちは熱心に耳を傾け、やがて一人、また一人と、彼を讃えた。
「それはまさに、子供のために俺たちがすべきことだ」ビッグ・マイクが続けた。「子供の学校へ行き、教師と話をし、子供が困っていることは何か知る。保護者懇談会だけじゃだめだ。子供の担任の名前を知っている者がどれだけいる?」
室内はしんとした。
「なるほど」ビッグ・マイクはため息をついた。「いろいろとやるべきことがあるな」
「だが、マイク」デュボワが口を挟む。「これがずっと黒人家族の問題だったんだよ。中には理想的なお手本がいる家庭もある。俺たちが手本になって、助け合う必要がある。俺のいちばん上の兄貴のビッグ・ボブみたいに。ボブが俺をすごく支えてくれたんだ。この会で、俺たちがたがいの手本になったらいいと思う」
「わかるよ、ブラザー。だが、このへんで全体を要約したほうがいいと思うな、デュボワ」ビッグ・マイクが言った。
「いい父親になるには、変化する覚悟をする必要がある。子供は親を変える。マット、おまえみたいに若い人間は、変わる覚悟ができてないかもしれない。だから若い父親は、簡単にあきらめちまうことがあるんだ」
「俺は違うよ」マットは憤慨するように言った。
デュボワが続けた。「いい父親になるには時間がかかるが、そういう時間の使い方は悪くない。人間として変われるんだから。さっきも言ったように、ここでは若いうちに子供を持つ連中が多いが、若さゆえに変わる覚悟ができてない。いまだにストリートに出て、ぶらぶら遊びたがってる。赤ん坊は父親なしのまま置き去りだ。女たちは一人で子育てするはめになる。それがワッツの問題の一つなんだよ。俺たちみんな一丸となってその問題に取り組み、助け合い、初めて父親になる若者を助けなきゃならない。この父親会にいる連中も、まだ来ていない連中も」
「そして、俺たち自身でやらなきゃならない。人に頼っちゃだめなんだ」ベンが静かに言い、リーリーがすぐにそれに賛同した。
「そのとおりだ。俺たちがやらなきゃならない。だって政治家だのソーシャルワーカーだのはここに来てはあれこれ約束して、投票をお願いしますと言うばっかりだ。だが具体的にどうしたらいいか教えてくれはしない。連中はいろいろと約束し、何か出来合いのものをさしだしてくれるかもしれない。だが、それじゃだめだ。自分たちでやらないと。ここで、家族の中で、そしてこのコミュニティで、父親になる。最初にそう宣言したんじゃなかったか? 見せつけてやろうじゃないか、俺たち黒人やラティーノでもいい父親に、いやグレートな父親になれるって」
この話し合いのあいだ、わたしは一言もしゃべらなかった。会の中にはこれから父親になる若者が三人いた。マットを除くと、彼らは話を聞くだけで、ほとんど何も言わなかった。でもかまわない。グループはついに団結し始めた。目的を見つけたのだ。彼らはおたがいの父親役を務めようとしている。マイクが閉会しようとしていた。
「忘れるな、俺たちはたがいに助け合うんだ、と。みんなで一緒に父親になるんだ」
ビッグ・マイクは室内を見渡した。そして初めて、男たちに首を垂れるよう告げた。「祈ろう」
(『プロジェクト・ファザーフッド』「ファザーフッド」より)※本記事の太字は、担当編集者によるもの。