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カウンセリング初心者のための案内書 『100のワークで学ぶ カウンセリングの見立てと方針』

記事:創元社

『100のワークで学ぶ カウンセリングの見立てと方針』書影より
『100のワークで学ぶ カウンセリングの見立てと方針』書影より

事例全体のタイトルをつけるワーク

(すでに事例を担当している人は)自分が今担当している事例を1 つ思い浮かべ、その事例全体のタイトルをつけてみてください。

 私はスーパーヴァイジーに、「この事例にタイトルをつけてみて」と言うことがあります。タイトルをつけるのは事例検討会で事例を発表するためだけでなく、この事例で自分が何をやっているのかを自覚するのに役立ちます。タイトルは、その事例の特徴、見立てと方針を最も端的に表すものだからです。自分が何をやっているのかわからなくなってきたときにはタイトルをつけてみてください。別の言い方をすれば、タイトルをつけるときには、その事例の特徴を最も端的に表すものとなるよう工夫しましょう。要は、「私はどういう人と会っていて、何をしているのか」です。場合によっては副題も用いるとよいでしょう。

 主題は学術的なものにし、文学的修飾は避けます。「抱えることと生き残ること」のようなタイトルは、特定の学派の人には伝わるかもしれませんが、他学派の人にはピンとこないでしょう(もしかすると、借金を抱える人の苦労話と誤解されてしまうかも……それはそれで大変な心理的葛藤ですが)。事例のタイトルの構成要素を表1 - 1 に私なりにまとめてみます。

 これに従って、タイトルの例をいくつか挙げてみましょう。

「父親から暴言・暴力を受け、発達に遅れがみられる3 歳男児とのプレイセラピー」
「自閉スペクトラム症とADHDの疑いがある小5 男児との4 年間にわたる遊戯療法過程」
「選択性緘黙の思春期女子との面接事例―治療関係を再考する―」
「万引きを繰り返す高校生男子との面接―描画と箱庭に表現されたもの―」
「『コミュニケーションが苦手』と訴える20代男子大学生との面接過程」
「娘の不登校をきっかけに来談した40代女性との心理面接―自身の母親との関係を問い直す2 年間のプロセス―」
「動悸と息切れを主訴として来談した60代女性との面接―夫との関係や自身の人生を見つめ直した2 年間―」

 では、これらを参考に、自分の事例にタイトルをつけてみましょう。

面接で集める必要のある情報を自覚するワーク

個別事例について現象を記述するために、面接を通して言語的なやりとりをする中でどのような情報を集める必要があるでしょうか。その項目をできるだけたくさん挙げてください。

 見立てをするために必要な言語情報の全体をまとめたものを表2 - 1 に示します。

 少し解説を加えます。

(A)基本情報
氏名、年齢、性別、住所、電話番号など。基本情報を明らかにしたがらない人もいます。それだけ警戒心が強いということかもしれません。性別については、性自認の観点を考慮すべき事例もあります。
(B)主訴
「相談したいこと」としてクライエントが提供する内容のことです。これについてはステップ3でもう少し詳しく検討します。
(C)家族構成
現在の家族、あるいは原家族についての情報です。続柄(つづきがら)、家族の年齢、最終学歴、職業、同居か別居かの別、健康状態など。
(D)成育歴・家族歴
生活史とも言います。子どもであれば、保護者からの詳細な情報が必要になります。成人であれば本人の記憶に頼るほかない場合が多いでしょう。家族関係の推移(同居、別居、結婚、離婚、死別、家出など)も含みます。
(E)問題歴
主訴として語られている「問題」の現状と経過です。平たく言えば、困りごととして何が起きていて、それはいつどのように始まり、どのような変遷を経ているかをまとめたものです。
(F)相談歴
主訴として語られている「問題」について、いつどこの誰に相談し、どのような形の援助を受けてきたかに関する経緯です。以前にもカウンセリングを受けたことがあるか、現在はどこでどんな支援を受けているか、医療機関で治療を受けたことはあるか、向精神薬は飲んでいるかといったことです。専門の相談機関、治療機関だけでなく、家族や知人への相談歴も含まれます。また、これらの相談や治療はクライエントにとってどういう体験だったのか、役に立ったのか、逆に苦痛だったのかなども押さえておきましょう。
(G)来談経路
この相談機関をどこでどのような方法で知り、どのように辿り着いたかです。相談歴の続きとして、最後の相談相手が紹介してくれたということもありますし、これまで誰にも相談したことはなく、何かでたまたま見て知ったということもあります。これは、クライエントが人とどのように関わっているか、情報を自分からつかむ力があるかといったパーソナリティの査定や、ここでカウンセリングを受ける意欲の高さの査定にもつながります。

 では、得られた情報のうち、どれがどの項目に該当するかを考えてみましょう。これはまた、どの情報がまだ得られていないかという自覚にもつながるはずです。

家族構成に関する情報を整理するワーク

〔事例8 〕の家族構成についてジェノグラムを書いてください。
 
〔事例8 〕
本人(女性、19歳、大学生)
父親(52歳、公務員)
母親(42歳、専業主婦)
弟(16歳、特別支援学校、知的障害)
妹( 6 歳、小学1 年生)
祖父(80歳くらい、無職)
家族全員が同居。

 家族関係を理解するための方法の1 つにジェノグラムがあります。ジェノグラムは家族構成、3 世代以上の家系の連なりや、家族、親族関係の広がりを視覚的に把握するのに優れた方法です。書き方は多少のバリエーションがありますが、1 つの書き方の例を挙げてみましょう。

 さて、最初の5 人は書けますが、祖父を書き入れようと思うと、父方か母方かがわからなくて戸惑うはずです。情報を整理することは、まだ不明確な情報に気づくことにつながります。

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