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多民族国家シンガポールと日本のつながりとは? ――『シンガポールを知るための65章【第5版】』見どころ

記事:明石書店

屋内の人工滝としては世界最高の40メートルの高さから水が落ちるジュエル(チャンギ空港内)
【撮影:田村慶子】
屋内の人工滝としては世界最高の40メートルの高さから水が落ちるジュエル(チャンギ空港内) 【撮影:田村慶子】

世界の人々が集まる人気の観光地

 日本人にとってシンガポールは魅力ある旅行地である。2018年にシンガポールを訪れた外国人はシンガポール総人口をはるかに上回る1850万人、うち日本人は83万人と第6位で、この5年間に40万人も増えている。大手旅行会社の「2019年人気海外旅行先(都市)ランキング」では、シンガポールは第8位であった。日中関係の悪化によって中国旅行を控えた人が多かったことと、カジノを付設した総合リゾートやガーデンズ・バイ・ザ・ベイなど次々と作られる新しい観光スポットの効果であろう。

 シンガポール観光の魅力は、「飛行機でひとっ飛びに行ける手ごろな場所にありながら、中国、マレー、インドの伝統文化と料理が味わえ、イギリスのハイティーも楽しめる異国情緒たっぷり、そしてカジノで遊べる国」である。

日本人コミュニティの現在と過去

 もちろんこのようなお手軽な観光だけでなく、シンガポールは日本にとって重要な貿易相手国であり、日本からの投資も活発に行われている。シンガポールの在留邦人は2019年10月で3万6797人(大使館に在留届を出している人数)、進出している日系企業は805社(日本商工会議所登録企業数、2021年4月)という巨大な日本人コミュニティが存在している。日本の大手デパートや書店、ラーメン屋なども目立ち、シンガポールでは日本と変わらない生活を送ることができる。なお、日本に滞在するシンガポール人は2020年6月で3037人である。

イーストコースト沖に停泊中の船舶。マラッカ・シンガポール海峡が世界の海上物流の大動脈であることを物語る【撮影:佐々木正治】
イーストコースト沖に停泊中の船舶。マラッカ・シンガポール海峡が世界の海上物流の大動脈であることを物語る【撮影:佐々木正治】

 もっとも、1970年代末頃まではシンガポール人の日本を見る眼には厳しいものがあった。シンガポールは日本の東南アジア軍政の中心として中央軍政局が置かれ、抑圧的な支配が行われた。シンガポール占領直後の1942年2月下旬には多くのシンガポール華人が「抗日分子」として摘発され、大虐殺が行われた。「粛清」と称されたこの虐殺を今でも鮮明に覚えている高齢のシンガポール人は多い。

本書の目的 コロナ禍のシンガポール社会もわかる

 本書は2001年に刊行した『シンガポールを知るための60章』、2008年の第2版『シンガポールを知るための62章』、2013年の第3版『シンガポールを知るための65章』、2016年の第4版に続く第5版である。第5版の目的は当初と変わらない。

 小さな都市国家がどのように世界史に登場したのか、アジアを中心とする世界各地からの移民がどのように「シンガポール人」になっていったのか、世界で最もビジネスのしやすい国として多国籍企業のハブとなり成長を続ける経済の現状や課題は何か、急激な経済成長のなかで人々の暮らしはどのように変容していったのか、近隣のアジア諸国やアメリカとはどのような国家間関係を築いているのか、長期にわたる抑圧的な政治体制はどのように形成され、なぜ継続しているのか、今後どうなるのかなど、シンガポールの歴史や社会、文化や娯楽、人々の暮らし、経済、国際関係や政治などについてより深く知ってもらうことである。

性的少数者の存在をアピールし、その権利拡大を訴える集会ピンクドットは2009年に始まり、2013年以降は毎年2万人を超える人が集まる【撮影:田村慶子】
性的少数者の存在をアピールし、その権利拡大を訴える集会ピンクドットは2009年に始まり、2013年以降は毎年2万人を超える人が集まる【撮影:田村慶子】

 さらに、2020年新型コロナウィルス(Covid-19)によってもたらされた未曾有の経済危機とその対応にも1章を割き、他の章のいくつかでもコロナ禍について触れ、海外からシンガポールに帰国した人のホテル隔離生活についての生々しい体験をコラムにした。

 各章の執筆は、それぞれの分野についてシンガポールや日本の第一線で活躍している研究者のみならず、シンガポール人との結婚や日系企業・メディアなどの研究員や特派員などとしてシンガポールに長く居住して仕事をされている方々にもお願いした。

 本書を読まれる方は、どこからでも興味のある章から自由に読んでいただければと思う。コラムを先に読んでくださっても構わない。章やコラムにはテーマに沿った写真や図表も多く挿入しているので、それらを眺めてシンガポールに思いをはせていただきたい。本の最後には関連書ガイドがついているので、より深く学びたい方はぜひガイドを利用してほしい。本書がシンガポールをよりよく理解する手引きとして、またシンガポール研究、東南アジア研究の入門書となれば、執筆者一同これにまさる喜びはない。

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