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文化財や文化遺産としての都市祭礼。「地方創生」「見せる祭り」としての発展や、その継承問題に向き合う

記事:朝倉書店

京都祇園祭の山鉾
京都祇園祭の山鉾

ユネスコ無形文化遺産登録と伝統的な都市祭礼

 都市祭礼の中には、文化財や文化遺産として位置づけられているものも少なくない。日本では、昭和25年(1950)に文化財保護法が制定されたが、祭礼を含む無形の民俗文化財に指定制度が整う昭和50年(1975)以降、京都祇園祭や日立風流物など各地の祭礼が文化財指定を受けた。

 そして、平成28年(2006)には、重要無形民俗文化財の33件の祭礼が「山・鉾・屋台行事」の名称で、ユネスコ無形文化遺産に登録(代表的一覧表へ記載)された。このことは、伝統的な都市祭礼の今後を左右する大きな出来事であった。日本の代表的な祭礼が世界に知られることになり、国内でも各地の祭りがあらためて注目され、保存継承への意欲も高まりをみせている[文化庁 2017]。

 民俗学の研究においても、こうした動向に対する発言が目立つようになり、文化遺産登録に向けた自治体の取り組みや登録後の継承問題などに焦点をあてた事例研究も登場している[村上 2010;清水 2017]。また、山・鉾・屋台行事は、大都市や各地の中核都市を拠点とする大型の都市祭礼であり、「地方創生」の時代を代表する祭礼群として今後を展望する見方もある[福原 2016]。

 いずれにしても、文化遺産という視座からの都市祭礼の研究は、今後さらに広がりをみせることが予想される。見物人を意識して発展してきた都市の祭礼が「見せる祭り」として、今後どのような方向に進み、営まれていくのかその動向も注視していかねばならない。

日立風流物(茨城県日立市)
日立風流物(茨城県日立市)

都市祭礼の担い手と継承をめぐって

 都市祭礼は都市を舞台に行われるが、実働の部分は、周辺地域の人びとの協力を得て行われてきた。特に山車祭りでは、町方と在方の連坦的な役割分担は明確である。山車の曳き手やお囃子の演奏者は、氏子圏を基本とながらも周辺地域から動員される場合が少なくない。都市の内部でも、専門技術を要する山車の組み立てや修繕は、大工や鳶などの職人が受け持ち、車方や大工方などの呼び名で山車の運行にも関わる。しかしながら、都市部でも産業構造の変化や少子高齢化、青年層の流出は例外でなく、祭礼の維持と継承を困難にしている。

 このような祭礼を支えてきた社会的基盤の揺れ動きは、当事者たちに新たな模索や選択を余儀なくさせる。その一つに、「伝統」と「文化財」というナショナルブランドの結合が指摘されており、文化財指定によって改変が制限され、祭礼の担い手である町衆が「伝統」の管理人の立場となることで、祭礼のもつ自律性が後退することが懸念されている[吉田 2010]。その一方、文化財に指定された祭礼でも、都市社会における新旧複数のコミュニティが相互依存的に協同し、祭礼の維持と創造が保たれていることも考察されている[樋口 2014]。

 伝統的な都市祭礼の継承をめぐっては、さまざまな実践が各地でみられる。都市祭礼は、規模が大きいだけに、伝承を担う人材、山車や祭具とそれを製作・操作・修理する技術、公開の場となる施設や空間が一体的に整うことが求められる。経済的な負担も大きく、伝承活動に対する国や自治体の支援に頼らざるをえない状況も生じている。また、地域の観光資源としての活用もはかられており、予期せぬ変容も危惧される。

 令和時代に入り流行した新型コロナウイルス感染症は、多くの人が参集する都市祭礼の開催や存続に大きな影響を及ぼしている。祭りの中止や規模の縮少が各地で相次いでおり、その一方でパンデミック下での新しい祭りの形を模索する動きも始まっている。伝統的な都市祭礼は、文化遺産や文化財という社会的認知を受けているものが多いが、その未来図を描くことは簡単ではない。民俗学や祭礼研究に携わる者たちが日本の祭礼文化の継承問題に対し、どのような提言や参画をしていくのか、その是非も含め、真剣に考える時期がきているように思われる。

前田俊一郎(文化庁主任文化財調査官)

『講座日本民俗学3 行事と祭礼』
『講座日本民俗学3 行事と祭礼』

【参 考 文 献】
芦田徹郎 2001『祭りと宗教の現代社会学』世界思想社
阿南 透 1997「伝統的祭りの変貌と新たな祭りの創造」小松和彦編『祭りとイベント』pp.67-110、小学館
池上良正 1986「ネブタの文化」『ネブタ祭り調査報告書 ─ 文化・社会・行動 ─ 』pp.5-54、弘前大学人文学部人間行動コース
伊勢門水 1910『名古屋祭』川瀬代助

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