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辞書とはなにか? いつもわたしたちの身近にある「辞書」の歴史をひもとく

記事:朝倉書店

文字が出現したことによって、文字表記を知るための辞書が作られることとなった。
文字が出現したことによって、文字表記を知るための辞書が作られることとなった。

辞書のはじまりは文字の誕生とともに

 辞書は文字の誕生とともにその萌芽が見られる。紀元前3400 年ごろに古代メソポタミアにおいて文字が誕生したと考えられているが、ウルク遺跡(ユーフラテス川の下流にある)からはシュメール語(膠着語の一種)の語彙リストが楔形文字で書き記された粘土板が発掘されている。それは、さまざまな日用品名、動物名、職名などの文字表記を知るためのテキスト、いわば表記辞典とでもいえるものである。書記官は行政における文書作成のために専門的な書記法に習熟する必要があり、世襲されていったと考えられる。このように、文字が出現したことによって、文字表記を知るための辞書が作られることとなった。

 紀元前2350 年ごろ、シュメール人を駆逐してアッカド王朝が建国されるが、行政のうえで文字は不可欠であり、引き続きシュメール語の文字、すなわち楔形文字を使用することとなった。アッカド語はセム語系(ヘブライ語・エチオピア語・アラビア語など)であるので、言語の系統を異にするシュメール語の文字で書くにはさまざまな困難があり、その楔形文字による表記を習得するために、シュメール語とアッカド語の二カ国語対照単語集が粘土板で作成された。それは、法律、樹木、陶器、皮革、金属、動物、人体、植物、地理、飲食物などの意味分類でまとめられたもので、後にはアナトリアやシリア北西部ではさらにそれぞれの言語の単語を添えた三カ国語以上の辞書も作成された。このような二言語辞書は、中世までラテン語との二言語対照などという形で長く引き継がれていった。

 一方、一言語辞書は、1604 年に英英辞典である『アルファベット一覧』がロバート・コードリーによって出版されたのが最初である。

 ちなみに、一定の配列順ということでいえば、ウガリト(現在のシリア)の遺跡から紀元前1400 年ころのものという、30 個の文字を一定の順序で並べた楔形アルファベットが発見されている。

日本にも多大な影響を与えた古代中国の辞書

 古代ギリシアでは、言葉を定義づけ分類し体系化することが進められたが、紀元前200 年ごろ、アリストファネスは類語辞典のように意味の類似した単語をひとまとめにした『単語集(レクセイス)』を編集している。同じころ、中国でも最古の辞書『爾雅』が編集された。

 これは、紀元前2 世紀ごろ前漢の学者たちが経書、とくに詩経に見られる古語を、用法や種類別に釈詁・釈言・釈訓などというように19 に分類整理したものである。その後、中国ではさまざまな辞書が発達するが、中国語では原則として漢字が語に相当することから、一定の配列基準が求められる辞書では、漢字の形音義という側面が分類基準とかかわることとなる。古代中国の辞書は、次のように大きく三つに分類される。

①字書(字形によって部首分類するもの)
『説文解字』(100 年ごろ、許慎。9353 字を540 に部首分類したもの)
『玉篇』(543 年、顧野王。1 万6917 字を542 に部首分類したもの
②韻書(字音によって韻分類するもの)
『切韻』(601 年、陸法言ら。反切に基づいて193 韻に分類したもの)
『広韻』(1008 年、陳彭年ら。反切に基づいて206 韻に分類したもの)
③義書(漢字や字句の意味によって、部門に分けて分類するもの)
『爾雅』(紀元前2 世紀ごろ、詩経などの古語を19 に分類整理したもの)
『釈名』(後漢の劉煕。物の名、字義などを27 に分類整理したもの)

このほか、書物とかかわって作成された辞書の類も編集されている。

④類書(多くの書物から類似の表現を収集して分類するもの)
『芸文類聚』(624 年、欧陽詢ら。46 の部門に詩文を抄録したもの)
『太平御覧』(983 年、李昉ら。55 の部門に詩文を抄録したもの)
⑤ 音義(特定の書物のなかから難解な字句を順に抜き出し、その発音・意味を注記するもの)
『経典釈文』(唐の陸徳明。14 の主要経書の字句を解説したもの)
『一切経音義』(648 年ごろ、玄応。454 の仏典の字句を解説したもの)

このような古代中国の辞書に大きな影響を受けて、日本でも辞書が編集されるようになる(第18 章以降参照)。

日本語辞書の分類

 記号としての言語を見出しとする辞典を言語辞書と称すると、それには、一言語を対象とするもの(一言語辞書)と、二言語、または三カ国語以上の言語を対象とするもの(多言語辞書)とに大別される(図1)。そして、日常普通に用いられる語を普通語といい、それらを見出しとする辞書を「普通語辞典」という。これに対して、専門語や同じ性質の語だけを取り出して編集した辞典(非普通語辞典)がある。

図1 日本における言語辞書の分類
図1 日本における言語辞書の分類

 日本語において普通語を網羅的に見出しにしたものが国語辞典である。日本における普通語辞典は大槻文彦の『言海』(1889~1891)に始まる。他方、普通語を含む日本語の語彙や表記などに関する情報を中心に、漢字を親字として説明したものが漢和辞典で、これは「字典」とも称される。(後略)

日本語ライブラリー『辞書の成り立ち』
日本語ライブラリー『辞書の成り立ち』

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