地球規模の問題を自らの力で理解し、惑わされずに考えていくために 〜「高分子物質」を知る
記事:朝倉書店

記事:朝倉書店
われわれの日常生活において、繊維、プラスチック、ゴムなど、高分子物質は欠かせないものとなっています。一方、その生産と消費は莫大なものとなり、大量なゴミが発生するようになっています。一部は投棄などによって海洋に流出し、マイクロプラスチックとして生態環境への影響が懸念されています。このようなプラスチック問題をはじめとして、この世の中で起こる問題のほとんどが、複雑で捉えどころがなく、専門家でさえも有効な対策を見出せずに右往左往しています。また、地球温暖化への対策として脱炭素社会の実現が強力に進められています。
このような問題は地球に住んでいるすべての人に関係しています。われわれには、事実を正しく理解し、問題を見出し、じっくりと多様なアイデアを考えて、実際の対策を粘り強く行うことが求められています。さらに、それら対策の妥当性についても自らの力で理解できるように、学んでいかなければいけません。他に惑わされずに自らが考えて生きていく時代になってきています。
プラスチック問題に対しては、すべての責任をプラスチックに押し付けるのではなく、まずは高分子を正しく理解することから始めるべきであると、強く主張したいと思います。例えば、毛皮など動物由来製品の代用として合成高分子が使われることによって、動物保護につながっています。また、航空機や自動車では金属部材を軽量なプラスチックに置き換えることよって、燃料の使用削減とCO2排出の抑制につながっています。また、高分子物質にはタンパク質、核酸、多糖のような天然高分子も含まれています。これらは地球に優しいバイオベース素材として注目されています。また、高分子には分解性を示すものがあり、いくつかは環境中で無毒な低分子化合物へと分解されていきます。このように視点を広げてアイデアを考えていくためにも学んでいく姿勢が大切になってきます。
さて、高分子を専門とするものには、科学的な知見をオープンにして、その内容をわかりやすく伝達していくことが求められています。初めて学ぶことや専門的なことはややこしくて、途中で投げ出しそうになります。そこで、学んでいくためのガイドブックとして、本書を作成することにしました。
第1章では、高分子がなぜ重要なのかを考えてほしいと思います。その手掛かりとして、第2章では高分子の特色を解説しています。ここでは高分子の仕組みを易しい科学の言葉で表現しています。さらに第3章では高分子の特性を解説し、機能を生み出すことを学んでいきます。第4章では高分子を作る方法を解説しています。これまでの章で学んできた高分子のイメージを実際の形にすることを学びます。さらに第5章では高分子の未来について解説しています。
各項目原則1 ページ(例外的に2~3ページもあり)という形をとっていますが、高分子への入り口はどこからでもよいと思います。各項目を自由につなげて高分子についての理解を深めていってほしいと思います。 また、いくつかの項目に対しては理解の助けとなるような図表を付録として入れました。ご活用ください。教員には、講義内容を補足してまとめるための副読本として、あるいは深く学んでいく際の入門書として使ってもらえればと思います。
本書の作成にあたっては、簡潔な表現を用いて共通のイメージを抱くことができることを第一と考えました。項目の選択とそのつながりに当を得ていない点も少なくないと思います。その際は、ご指摘いただけましたらありがたく存じます。
2022年1月 藤本啓二
(『高分子基礎ガイド』はじめに より)