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宇宙史の枠組みの中で生命とは何か考える 『なぜ地球は人間が住める星になったのか?』

記事:筑摩書房

生命がいつ、どのように発生したのかは現在でも大きな謎である
生命がいつ、どのように発生したのかは現在でも大きな謎である

T前大統領やP大統領に謙虚に熟読してほしい力作

 著者山賀進さんは都内有名進学校で地学の先生を永く務められた方だ。実は彼と私は小学校の同級生だった。卒業後は疎遠になっていたが、20年ほど前、高校地学の教科書の執筆時に、使用図の作者を調べ見覚えのある名前に行きついた。なんと、それが山賀さんだった。

 山賀さんは退職後、「理科と教育」というフェイスブックを立ち上げ、医学・生物・地学・天文に関する最新ニュースや独自の分析を精力的に発信されている。近所でミミズと絡んでいる怪しい生き物を見つけ、写真をフェイスブックに上げたら、すかさず山賀さんからオオミスジコウガイビルとの鑑定を頂いた。その広い学識に脱帽している。

 さて、本書は生命とは何か、その発生と進化、人類文明の由来を46億年の地球史、138億年の宇宙史の枠組みの中で、最新の知見を交えて系統的に説いた力作だ。本書に着目した読者には、読みやすく広範な知識が整理できる好著として、自信を持って推薦できる。某国のT前大統領や別国のP大統領などには、是非とも謙虚に熟読してほしいものだ。

宇宙空間にばら撒かれた原子

 138億年前にビッグバンで始まった高温高密度の宇宙は最初の3分間で水素とヘリウムの原子核を作り出した。その後急激な膨張で宇宙は冷え、3000万年後にはドライアイスの温度まで冷えてしまい、水素原子が薄く漂う暗黒時代に入る。

 やがて、物質密度の少し濃いところにその重力で周辺の物質が集まり、約2億年後には宇宙のあちこちで最初の星やその集団としての原始銀河が生まれる。恒星はその中心部で水素からヘリウムを作る核融合反応で光る。特に質量の大きい星では核融合反応がさらに進み、炭素、窒素、酸素から鉄までの原子が順に合成される。重い星は最後に超新星爆発を起こして、合成した原子を宇宙空間にばら撒く。我々の太陽はビッグバンから92億年後にこうした元素を含むガスから生まれた星の一つである。

 太陽の誕生時に周辺に集まったガス円盤から無数の微惑星が誕生し、地球などの惑星は微惑星の衝突合体で大きくなった。46億歳の地球の誕生初期には衝突で全体が溶けた時代があり、鉄などの重い成分は中心に沈み、コア、マントル、地殻ができる。マントル対流が内部の熱を外へ逃がし、大陸移動などの地殻変動を起こしている。ガス成分のうち、水素は地球の重力を振り切り宇宙へ逃げていく。マントルや地殻から放出された水蒸気は冷えて雨となり海洋ができ、二酸化炭素や反応性の低い窒素からなる原始大気ができるが、酸素は存在していなかった。

驚きの展開としか言いようがない人類への進化

 生命がいつ、どのように発生したのかは現在でも大きな謎である。だが、化石などいろんな証拠から38億年前にはなんらかの形で単細胞の原始生命が存在していたものと考えられている。単細胞から多細胞生物、そして植物と動物の誕生、海から陸への展開、哺乳類の分化から人類への進化の歴史については、まさに驚きの展開としか言いようがない。生物による光合成で大気中に酸素が増えてきた。生物界と地球の共進化で酸素の生産と消費が平衡状態となっているという理解が重要である。

 最終章の内容に近いことは筆者も以前書いたことがある(「人類文明の品格と寿命」岩波『図書』2019年、家正則)。ちなみに、2020年にはこの拙文が2つの大学の入試問題に使われた。過去問の出版社から著作権照会があり、知って驚いた。 

『なぜ地球は人間が住める星になったのか?』(ちくまプリマ―新書)書影
『なぜ地球は人間が住める星になったのか?』(ちくまプリマ―新書)書影

地球の他の宇宙文明があるとしたら

 生命学者はこんな奇跡の連続が他の惑星でも起きたとはとても信じられないという。天文学者は無数にある惑星の中で地球だけが特別と考えるのは思い上がりだと考える。

 では他にも生命を宿す惑星、さらには交信できるまでに進化した宇宙文明はあるのだろうか? そのような探索のため、さまざまな最新天文学の具体的研究が進められている。

 実際には、他の宇宙文明があったとしてもその距離は極めて大きく、交信には優に百年以上、いや1万年かかるかもしれない。その間に人類が核戦争や環境破壊で自滅してしまうようでは、やはり宇宙文明の仲間入りはできない。

 向こうからそのようなコンタクトがあったとすると、それは自滅の危機を乗り越えた高度な文明のはずであり、SFとは違って戦っても勝ち目はない。植民地化されるのが怖いなら宇宙に対して我々の存在を知られないようにひっそり暮らすしかないのかもしれない。

 でも、それって……無理ですよね?

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