各地で吹く特徴的な「風」〜地域の人々の生活に深く根付いた「日本の風」を感じる
記事:朝倉書店
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日本百名山・百高山1)の八ヶ岳は長野県東部に位置し、赤岳・権現岳・編笠山で山梨県境をなしている。南北30 kmに及ぶ火山群で八ヶ岳中信高原国定公園に指定されている。南八ヶ岳には高山が多く急峻な地形で、赤岳(2899 m)の最高峰を中心に北に横岳(2829 m)、中岳(2700 m)、硫黄岳(2760 m)、南に権現岳(2715 m)、編笠山(2524 m)、西に阿弥陀岳(2805 m)などがある。一方、北八ヶ岳は樹林帯が山頂近くまであり比較的なだらかな峰が多く、天狗岳(2646 m)、縞枯山(2403 m)などがある。南東部の野辺山高原には天文台とアメダス観測点があり、また鉄道最高所と高原野菜(キャベツ、レタス)が有名であり、南部域の清里高原も高原野菜や観光牧畜が盛んである。
冬季、西高東低の気圧配置時に、日本海からの雪雲は新潟・長野県境の妙高山(2446 m)付近や北アルプスで降雪をもたらし、残った雪雲は北アルプス・浅間山間の山地域を通って、蓼科山(2530 m)─八ヶ岳連山を越える時に雪を落とし、低温の乾燥した強風となって吹き下ろす。この風を八ヶ岳おろし2)(fall wind Yatsugatake)と呼ぶ。八ヶ岳南麓から主に甲府盆地が強風域になるボラ型強風である。八ヶ岳を越える時に山上の雪雲で雪を落とすとともに、風は甲府盆地から黒岳(1793 m)─節刀ヶ岳(1736 m)を越えて河口湖域への吹き下ろしで強風化する。
(中略)赤城・榛名・筑波おろしのように、付近の有名な山名を付けたのとは異なり、八ヶ岳おろしは山の名称と風下の地域が一致している。2020年11月30日に西高東低型で日本海側に雨、高山に雪を降らせ、八ヶ岳を越える時に少し雲が残り、山麓の大泉では最大瞬間風速13.8 m/sであった。主に南岸低気圧の影響で2014年2月15日には河口湖25.1、甲府14.8 m/s(北西風)の強風を伴う大雪(143、114 cm)となり、山梨県の果樹・農業施設に雪害が発生した。これは最近の異常気象・極端気象の激化の中、地球温暖化に伴う無氷の北極海の拡大およびシベリア高気圧の中心移動による低温化が原因とされる。
八ヶ岳おろしと産業の関係では、乾燥・低温を利用した切り干し大根が有名である。大根を細切りにして天日干しすると甘味・栄養価が高く長期保存食品となる。産地は清里高原が多い。また、甲府盆地周縁部では、冬季の低温・乾燥気候と夏季の冷涼な気候のもとブドウ栽培が盛んであり、特に勝沼が有名で、国産ワインの先駆けとして知られている。
文献
1) 真木太一(2019):75歳・心臓身障者の日本百名山・百高山単独行,海風社,165pp.
2) 真木太一(2022):東アジアにおける局地風.山川修治他編:図説 世界気候の事典,朝倉書店.