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「白粉の花落ち横に縦にかな」 ~俳句にも詠まれたオシロイバナの生存戦略

記事:朝倉書店

南米原産の多年草で,広く世界各地で栽培されているオシロイバナ。
南米原産の多年草で,広く世界各地で栽培されているオシロイバナ。

Four o’clockとも呼ばれるオシロイバナ

 南米原産の多年草で、広く世界各地で栽培されているオシロイバナは、江戸時代に日本に入り、観賞用に植えられてきた。夏から秋に、香りのある紅、白、黄、絞り模様などの花を咲かせる。現在でも、庭などに植えられているが、各地で野生化したものも多くみられる。花が夕方開くことから英語ではfour o’clockと呼ばれ、翌朝の午前中にしぼむ一日花である。径3 cmほどの漏斗型の花は大きく開き、夏の間、途切れることなく次々と咲き続け、香りを漂わせる。(中略)

オシロイバナの繁殖戦略

 オシロイバナを通して植物の生存戦略について考えさせられることは多い。夜咲き香るのは、たくさんの種類の植物が競合する昼間を避け、受粉のために夜行性の昆虫を原産地では引き寄せているのだろう。日本で花粉媒介者や種子散布者が観察されないのは、オシロイバナが外来種であるためと思われるが、自家受粉によって日本に定着できた。

オシロイバナは人間の生活に入り込むことで、人に種子を運ばせて分布を拡げてきたと思われる。
オシロイバナは人間の生活に入り込むことで、人に種子を運ばせて分布を拡げてきたと思われる。

オシロイバナと人々の生活

また、暑い夏に咲くオシロイバナの華やかさや香りは、人間にも心に安らぎを与え、毎年の開花を待ち望ませた。オシロイバナは、人間の生活に入り込むことで、人に種子を運ばせて、分布を拡げてきたと思われる。

「白粉の花落ち横に縦にかな」(高浜虚子)

 いたる所で、華やかな花を咲かせて、黒い果実を落とすオシロイバナの生命力を感じて詠まれた歌である。冷房のない時代、人々が家々の軒先で夕涼みしていた頃、縁側や庭に出て、暑さをしのぐ先人たちに届いたオシロイバナの華やかな香りは、今もなお絶えることはない。

(『教養のための植物学』「6.1 オシロイバナ」より)

『教養のための植物学』「6.1 オシロイバナ」より
『教養のための植物学』「6.1 オシロイバナ」より

身近な植物に学ぶということ

 本書は植物の起源から形態、生態、環境や人との関わりまで、オールカラー図版で解説しています。移動ができない固着性の生物である植物は、温度や水分などの環境要因への適応ばかりでなく、送粉や種子散布などの子孫を残すための繁殖に関する過程も他の生物に依存し、あるいは影響を受けて進化させてきました。植物の多様性の進化は、植物と関わりをもつ生物にも影響をもたらし、植物を取り巻く生育環境をも多様化させ、その新たな環境に適応するために植物がさらに多様化したと考えられています。

 本書を通して植物の形態や生態の基本的な知識を学ぶとともに、植物の生育環境への適応の様子を理解していただけるように、肉眼ではとらえにくい植物の連続的な形態的変化や生態のカラー写真や図をなるべく多く掲載するようにしました。

 また、本書の巻末には植物学における重要用語の英和翻訳リスト「英和対照用語一覧」があります。英語の教科書、専門書や論文を読む際に、英語で文章を書いたり、話したりする際に活用していただきたいと思います。また、留学生の皆さんが日本語で植物学を学び、さらには、日本に生育する植物や環境、文化などを理解するための一助になることを願っています。

(『教養のための植物学』「まえがき」より)

『教養のための植物学』
『教養のための植物学』

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