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小田急百貨店の展覧会を通して振り返る新宿西口の戦後

記事:筑摩書房

小田急百貨店・全館開店広告(朝日新聞1967年11月23日朝刊)
小田急百貨店・全館開店広告(朝日新聞1967年11月23日朝刊)

 1904年に誕生した日本最初の百貨店である三越以来、大正から昭和にかけて、日本の百貨店は販売を目的としない〝文化的な催し物〟(以下〝展覧会〟と記す)を多様な内容で行い、都市の文化的なインフラとしての機能を果たしていた。戦後も百貨店各店はその機能を継承し、老舗の百貨店はもちろん、後発のターミナル百貨店においても、展覧会はますます盛んに開催されるようになった。

 百貨店には婦人服売場など固定された売場(元売場)とは別に、週替わりで様々な催し物を行うスペース、いわゆる催物場が必ず設けられている。催し物は、売上ばかりでなく、話題性やPR効果、集客、店の賑やかしなどのエンターテインメント的な役割も重視されるのだが、展覧会の開催が盛んになったとは言え、それは各種催し物のひとつとして催物場で行われるものであり、そのための専用スペースを設けるという考え方はなかった。

 小田急百貨店も、1962年の開業の時から展覧会を行っていたが、やはり催物場での不定期開催で、週替わりで行う催し物のひとつとしてあった。しかし、67年の本館開業とともに、百貨店としては初めての展覧会専用の施設となる〝文化大催物場〟を本館11階に開設した。百貨店で最初の常設美術館となる西武美術館に先駆けること8年、当時の百貨店業界では画期的と言ってもよい施設であった。その後、73年に〝小田急グランドギャラリー〟、92年に〝小田急美術館〟と改称した。

 百貨店は、その誕生以来、都市生活者に文化的な娯楽と刺激を提供し続けてきた。小田急百貨店も戦後昭和の新宿西口でその一端を担い、本館11階で30年余り、開業時からであれば40年弱の間、美術展を始め、写真、歴史、考古、文学、科学、子ども向けなど、幅広いジャンルの展覧会を開催してきたが、2001年、小田急美術館の閉館をもって展覧会の専用施設はなくなった。

 私が小田急グランドギャラリーで展覧会の企画、運営の仕事をしていたのは80年代、世の中がバブルに向かって一直線の頃で、百貨店業界も活況を呈し、各百貨店では頻繁に展覧会が開催され、中には多額の経費と推定されるものも多々行われていた。小田急グランドギャラリーには、小田急百貨店より企業規模の大きい例えば髙島屋、伊勢丹、西武ほどには展覧会のための予算はなかったが、開催した展覧会は多くのお客様に親しまれ、楽しんでいただいていたことは他店のそれと変わりはなく、私が在職していた頃もユニークな展覧会をやっているという評価も得ていた。

文化大催物場最初の子ども向けの展覧会『小田急こどもSF大博覧会』(1968年8月)新聞広告(朝日新聞同年8月8日夕刊)。SFマガジン編集長でSF作家の福島正実が総監督を務めている
文化大催物場最初の子ども向けの展覧会『小田急こどもSF大博覧会』(1968年8月)新聞広告(朝日新聞同年8月8日夕刊)。SFマガジン編集長でSF作家の福島正実が総監督を務めている

 百貨店が戦後日本の都市文化の形成と進展に及ぼしてきた影響を百貨店の展覧会から探ろうと、戦後昭和の都心の各百貨店が開催した数々の展覧会を紹介する『百貨店の展覧会−昭和のみせもの1945—1988』を4年前に上梓した。最初の構想は百貨店の展覧会の全体像を示すことであったのだが、調査を始めてみれば思い描いていた以上に百貨店の展覧会はバリエーション豊かであり、まずはその多様性に重点を置いてまとめることにした。幸いいくつかの書評にも取り上げられて反響もあり、いずれ続編として百貨店の展覧会の内実にもっと踏み込み、それを多くの方に知っていただきたいと考えていた。

営業を終了する予定の小田急百貨店新宿店本館=朝日新聞社ヘリから(朝日新聞社)
営業を終了する予定の小田急百貨店新宿店本館=朝日新聞社ヘリから(朝日新聞社)

 新宿西口の再開発にあたり、新たに地上48階の複合施設を建設するため、2022年10月から小田急百貨店本館の解体工事が始まるとのことである。小田急百貨店の営業は続いていくが、30年余りの間、文化大催物場、小田急グランドギャラリー、小田急美術館と会場名を変えながら展覧会を開催し、多くの人たちに親しまれてきたその場所は消えてしまうことになる。そこで、坂倉準三監理設計のこの建物への哀惜の念を込めつつ、小田急百貨店の誕生から小田急美術館の閉館までの40年弱の間に開催してきた展覧会にスポットをあて、それを通して百貨店の展覧会とはどういったものであったのかを紹介していくことにした。小田急グランドギャラリーで8年間、様々なジャンルの展覧会の企画、運営に裏方として携わってきた私の経験も踏まえ、百貨店の展覧会の功の部分と限界も含め、現場感をもって解き明かしていきたい。戦後の百貨店が〝文化〟で果してきた足跡の一端を読み取っていただければ幸いである。

 また、より理解を深めていただくために、その背景となる、同時代の都内の百貨店、特に小田急百貨店と同じく副都心に位置する新宿、池袋、渋谷の各百貨店の動向にふれるとともに、百貨店の展覧会を語る上で欠かすことができない百貨店美術館についても論述した。

『小田急百貨店の展覧会――新宿西口の戦後50年』(筑摩書房)書影
『小田急百貨店の展覧会――新宿西口の戦後50年』(筑摩書房)書影

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