人は生涯にわたって発達する。ー教育心理学や発達の理論を実践につなげるために
記事:朝倉書店
記事:朝倉書店
発達(development)とは、「受胎(受精)から死に至るまでの変化」をいう。この変化には2つの側面がある。1つは(中略)量的な変化であり、このうち量的増大を成長(growth)、量的減少を衰退という。(中略)もう1つの側面は質的な変化(分化と統合)である。
歳を重ねることでできるようになるものもあれば、歳を重ねたことで今までできていたことでも時間がかかり、むずかしくなることもあることがわかるだろう。とくに歩く、走るなどの運動能力や記憶力にはこの傾向が認められやすい。
一方で、発達は質的な変化も含む概念である。たとえば本を読み返したときや音楽を聴いたときに、歳を重ねたからこそ感じる味わい深さがあったり、若いときには逃げ出してしまうような困難に対してうまく対処できるようになったりなど、歳を重ねるからこそ可能になる発達の側面も併せもっている。
それゆえ人生のそれぞれの時期に応じた課題があり、それらを1つずつ達成していく過程そのものが発達といえる。このように生涯にわたって発達していくことを生涯発達という。
(1) 発達を規定する要因
発達を規定する要因としては、遺伝と環境がある。遺伝的要因がより強く影響するものを成熟(maturation)、環境的要因の影響がより強いものを学習(learning)という。(中略)どちらが発達により強く影響するかについては議論がなされてきた(図1.2)。
生まれたときから備えられていた生得的な要因(遺伝的要因)が後天的な要因(環境的要因)によって外に引き出されることで発達が生じ、その際の遺伝と環境の相対的な影響の度合いは、領域(身体、言葉、運動、学業成績など)により異なると考えられる。
(2) 生涯にわたって必要不可欠なこと
J. ボウルビィは発達初期(乳幼児期)のアタッチメント(特定の他者との間に築く緊密で情緒的な絆)の重要性を指摘している。(中略)アタッチメントはその絶対的な安心感・安全感を基盤に、自立という新たな発達課題に向けた過程で生じる現象である。ここに発達の連続性をみることができる。
教育心理学は、保育・教育の場におけるさまざまな事柄を対象とする学問であり、保育・教育にかかわるさまざまな問題に取り組むための心理学的な基礎を学ぶことで、保育・教育実践に役立とうとする実践的な性格を有している。(中略)
本書では、さまざまな発達や理論について学んでいくと同時に、それらをどのように保育・教育実践につなげるのかについて考えていく。
本書では,教育心理学が扱う人生のさまざまな問題について,教育・保育の現場に携わる執筆者が実例をもとにコラムを書いています.
これらを参考に,読者の方々も自分なりの答えを考えてみてください.
(コラム「みんなで考えよう!」より)
第1部 若いからできること 歳を重ねるからこそ輝くこと
第1章 人生って何だろう?-生涯発達からみた「今の自分」-
1.1 人は生涯にわたって発達する
1.2 生涯にわたって発達していくために大切なこと
1.3 発達の連続性をふまえた保育・教育の担い手となるために
第2部 ひとりよりもみんなでいることのほうが幸せか?
第2章 人がともに生きるとは?-人間関係とコミュニケーションの発達-
2.1 赤ちゃんは世界とどう出会うか
2.2 アタッチメント
2.3 気質
2.4 パーソナリティ
2.5 非言語コミュニケーションと言語コミュニケーション
2.6 向社会的行動
2.7 攻撃行動
2.8 いざこざといじめ
2.9 子育て支援第3章 メディアとともに生きるとは?-メディアからの学びを考える-
3.1 子どもの育ちと「メディア」
3.2 現代の多様なメディアによる協同活動
3.3 現代社会のメディア環境における子どもの発達・学習
第3部 なぜ学校に行くの?
第4章 いっぱい遊んだ子どもは賢くなる?-非認知能力と認知能力-
4.1 遊びが大事?
4.2 遊びとは?
4.3 保育・幼児教育における遊び
4.4 非認知能力
4.5 協同的な活動第5章 学習することで世界は変わるか?-発達に応じた学習と思考・知能の発達-
5.1 学習の理論
5.2 学習と記憶
5.3 知能と学力
5.4 非定型発達
5.5 おわりに-学習することで世界は変わるか?-
第6章 「やる気」を引き出す魔法-動機づけがもたらすもの-
6.1 子どもの育ちに大切な動機づけとは?
6.2 期待・価値と動機づけ
6.3 興味と動機づけ
6.4 自律性と動機づけ
6.5 不適応につながる動機づけ
第4部 誰よりも幸せになる方法?
第7章 幸せはすでにあなたの手の中に?-認知と感情の発達がもたらすもの-
7.1 赤ちゃんの感じる世界
7.2 「私」ってなんだろう
7.3 他者について知ることと,ともに生きる世界第8章 「私,ほめられて成長しますので」-叱ってはいけない? 真の「ほめる」とは-
8.1 社会の中で学習する仕組み
8.2 ほめるべきか,叱るべきか
8.3 発達・成長を支える-ほめる・叱るを越えて-