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知っているようで知らない「洗剤」のはなし ー安心・安全をもとめる界面活性剤の歴史

記事:朝倉書店

「洗剤」の主成分である界面活性剤の起源は、紀元前にまで遡る。そこから、人の清潔な生活を守るために、脈々と開発が続けられてきた。その歴史は、まさにその時代時代に求められた安心・安全の達成、現代的に言い換えればサステナビリティへの貢献ともいえる。
「洗剤」の主成分である界面活性剤の起源は、紀元前にまで遡る。そこから、人の清潔な生活を守るために、脈々と開発が続けられてきた。その歴史は、まさにその時代時代に求められた安心・安全の達成、現代的に言い換えればサステナビリティへの貢献ともいえる。

洗剤と洗浄剤

 一般に、「洗剤」は衣類、食器や台所用品、住居、機械など身体以外の物を洗うためのものを指し、「洗浄剤」は、毛髪や皮膚を洗うものとして区別される 1)。これらの主成分はともに界面活性剤である。界面活性剤の起源は、紀元前にまで遡る。そこから、人の清潔な生活を守るために、脈々と開発が続けられてきた。その歴史は、まさにその時代時代に求められた安心・安全の達成、現代的に言い換えればサステナビリティへの貢献ともいえる。

界面活性剤のはじまり

 界面活性剤を用いた洗浄の歴史で最も古い記述は、紀元前3000 年頃、古代バビロニア王国のシュメール人による記録である 2)。この時点で、油とアルカリを混ぜて洗浄が行われていたと記載されている。約2000 年前のローマ時代には、サポーの丘において、動物の肉を焼いた際、肉から落ちた油を含んだ木灰を水と一緒に使うと泡が立って汚れが落ちることを発見したという逸話が残されている。これが現在でいう脂肪酸石鹸(脂肪酸アルカリ金属塩)による洗浄の起源といわれている 3)。7~8 世紀頃からはヨーロッパにおいて脂肪酸石鹸工業が広まり始めており、この脂肪酸石鹸による洗浄文化は、1920 年代まで続いてきた 4)。すなわち、すべての洗剤は脂肪酸石鹸で作られていた(洗浄剤というカテゴリーはなかった)。

脂肪酸石鹸はよく泡立ち、高い洗浄力を有するが、

①水の硬度により、水に難溶のカルシウム塩(スカム)を形成し、毛髪、皮膚、繊維上などに沈着、それらの表面にざらざらとした感触(きしみ感)を残す
②脂肪酸石鹸が弱アルカリ性であるため、皮膚への刺激がさけられない

という2 つの大きな課題があった。

界面活性剤を用いた洗浄の歴史で最も古い記述は、紀元前3000 年頃、古代バビロニア王国のシュメール人による記録である。この時点で、油とアルカリを混ぜて洗浄が行われていたと記載されている。約2000 年前のローマ時代には、サポーの丘において、動物の肉を焼いた際、肉から落ちた油を含んだ木灰を水と一緒に使うと泡が立って汚れが落ちることを発見したという逸話が残されている。これが現在でいう脂肪酸石鹸による洗浄の起源といわれている。
界面活性剤を用いた洗浄の歴史で最も古い記述は、紀元前3000 年頃、古代バビロニア王国のシュメール人による記録である。この時点で、油とアルカリを混ぜて洗浄が行われていたと記載されている。約2000 年前のローマ時代には、サポーの丘において、動物の肉を焼いた際、肉から落ちた油を含んだ木灰を水と一緒に使うと泡が立って汚れが落ちることを発見したという逸話が残されている。これが現在でいう脂肪酸石鹸による洗浄の起源といわれている。

合成界面活性剤の出現

 1920~30年代、ドイツの有機合成化学および石油化学産業の発展に伴い、合成界面活性剤が次々と開発されはじめ、これらは「洗浄剤(detergent)」とよばれるようになった 5)。現在に至るまで広く使用されている界面活性剤は、概ねこの時代に開発されたものである。特に、より皮膚に近いpH である中性で使用でき、水溶性も高く、洗浄力も高いアルキル硫酸エステル塩(AS)は、現代に続く洗浄剤として、欧米で広く使われるようになる。これらの脂肪酸石鹸を脱却した洗浄剤技術が日本でも広まり始めたのは、それから20 年の時を経た1950 年代である。合成界面活性剤は、洗剤の洗浄性能を向上し、「(低pH で使えるので)肌に優しい」という現代にまでつながる商品価値と「洗浄剤」という新しいカテゴリーの創出に大きく貢献した。

界面活性剤のソフト化

 1960 年代、洗浄後に排出された界面活性剤の自然界での残留の影響が問題視され、界面活性剤が河川や海の水質汚濁の一因とみなされるようになった。生分解性が低いものはハードな界面活性剤、逆に易分解のものはソフトな界面活性剤とよばれ、界面活性剤のソフト化研究が行われ、界面活性剤の置き換えが行われた。衣料用洗剤の主成分として広く使用されていたアルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS)は、石油化学由来の分岐した疎水基をもつ界面活性剤であり、自然環境中での生分解性に課題があることが判明し、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)へと置き換えられた。これに端を発し、界面活性剤の製造に関し、石油化学原料から天然植物油脂および獣脂(牛脂)原料(いずれも直鎖型疎水基を含む)への転換が行われはじめた。90年代に入ると、世界規模での牛海綿状脳症(BSE)への不安から、獣脂原料からの脱却が進み、さらに植物原料へのシフトが加速された。

よりマイルドな界面活性剤へ 

 1970 年代は、合成界面活性剤の出現で花開いた「皮膚にマイルドな」界面活性剤が再び注目された。それまで皮膚のpH に近い中性領域で使用できることをもって「マイルド」とされてきたのに対し、界面活性剤そのものの皮膚への安全性の議論が始まった。現在でも香粧品洗浄剤に用いられている「皮膚にマイルドな界面活性剤」は、この時代に開発されたものが多い。それまでは多くの液体洗浄剤の原料として上記のAS が用いられてきたが、AS そのものの皮膚刺激性への懸念から、より水に溶けやすく皮膚にマイルドなポリオキシエチレンアルキル硫酸塩(AES)へと変化した。1980 年代以降はさらに、より高レベルな皮膚へのマイルド性の追求が続き、皮膚科学との融合により、アシル化アミノ酸塩、モノアルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルカルボン酸塩などの実用化が行われた。これらの界面活性剤の実用化が、より肌を大事にしたいという消費者ニーズと合致し、「洗顔料」「身体洗浄剤」という新たなカテゴリーを市場に創出した。

1970 年代は、合成界面活性剤の出現で花開いた「皮膚にマイルドな」界面活性剤が再び注目された。それまで皮膚のpH に近い中性領域で使用できることをもって「マイルド」とされてきたのに対し、界面活性剤そのものの皮膚への安全性の議論が始まった。現在でも香粧品洗浄剤に用いられている「皮膚にマイルドな界面活性剤」は、この時代に開発されたものが多い。
1970 年代は、合成界面活性剤の出現で花開いた「皮膚にマイルドな」界面活性剤が再び注目された。それまで皮膚のpH に近い中性領域で使用できることをもって「マイルド」とされてきたのに対し、界面活性剤そのものの皮膚への安全性の議論が始まった。現在でも香粧品洗浄剤に用いられている「皮膚にマイルドな界面活性剤」は、この時代に開発されたものが多い。

さらなる安心安全を目指して

 1990 年になると、エコロジー重視の世界環境と相まって、界面活性剤の「天然化(植物原料化)」の動きは加速し、肌に優しいことは当然の性質とした上で、より天然化率が高く、高性能な界面活性剤の開発が行われた。この流れの中で開発されたのが、α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩やアルキルポリグルコシドである。さらに、より環境負荷を少なくする低水棲生物毒性化など、より高いレベルの安全性達成への努力が行われるようになった。

 1992 年の「地球サミット」、2002 年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」、2006 年の「国際化学物質管理会議」と化学物質に関する議論が進められ、国際的な化学物質管理に関する戦略的アプローチ(SAICM:Strategic Approach to InternationalChemical Management)が採択されるに至った。これにより、界面活性剤に関しても、科学的なリスク評価に基づくリスク削減を考慮しながら、使用していくことが求められている。現在も、エコロジーだけに留まらず、人体への安全・安心の提供、人々の快適な生活を持続するため、「現代のサステナビリティ」の達成に向け多くの検討が行われている。

文献
1) 日本石鹸洗剤工業会HP, https://jsda.org/w/03_shiki/senzaimemo_01.html( 2020年2月20日).
2) M. Willcox, “Poucher’s Perfumes, Cosmetics andSoaps (10th ed. By H. Butler)”, Kluwer AcademicPublishers(2000).
3) 藤原正美, “界面と界面活性剤(改訂第2 版)”, 日本油化学会(2009).
4) R. G. Bistline, Jr., “Anionic surfactants: organicchemistry(H. Stache, ed.), CRC Press(1996).
5) R. Diez, IFSCC Magazine, 12, 188―193,(2009)

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