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銀座ど真ん中、「昔ながらの街の本屋さん」:教文館

「教文館」店長の津田篤志さん
「教文館」店長の津田篤志さん

国内最大級のキリスト教書店

 言わずとしれた高級繁華街・銀座、その中心地と言えるエリアに教文館はある。1885(明治18)年に創業し、1891(明治24)年には銀座に書店を開業。現在の建物は1933(昭和8)年に竣工されたもので、和光や銀座ライオンビルなどと並び称される、銀座のランドマークとされる建築物のひとつだ。

「銀座のど真ん中にあるのですが、本当に昔ながらの街の本屋さんです。たくさん出る新刊の中からお客さまのニーズを考えて、セレクトしたものをほどよく置いている。お客さまと直接やり取りをして、そのご希望をなるべくかなえる形で本を届けたいと思っています」

 一般書籍は主に1階と2階にある。1階では雑誌、旅行ガイド、文具が販売されていて、2階には文芸書、人文書、ビジネス書、料理専門書、文庫、新書などが置かれている。そして、9階のこどもの本売場「ナルニア国」では「ナルニア国ものがたり」の国に模したフロアに、豊富な児童書が並んでいる。

 教文館の特色は国内最大級のキリスト教書店であること。そもそも創業の経緯は、アメリカから派遣されたメソジスト教会の宣教師たちが、伝道用の書籍の出版や販売をするために作ったのだそう。今でも日本各地からキリスト教関係者が文献を求めて集まる。ビルに5フロアある中で、3階はキリスト教書コーナー、4階にはキリスト教グッズなどを販売するショップ・エインカレムが入っている。

 いろいろな教派に細分化されるキリスト教だが、3階のキリスト教書コーナーでは、カトリック、プロテスタントほか、諸教派の関連書籍を取り扱っており、王道でオーソドックスな並びを意識しているとのこと。教文館の出版部から刊行された本をはじめ、キリスト教出版社としては著名な、キリスト新聞社、日本キリスト教団出版局、新教出版社などの書籍を中心に取り揃えている。お客さんは、信仰書を求める教会員さんや牧師さんが中心だが、シモーヌ・ヴェイユなどキリスト教に関わる思想家や、キリスト教に感化されたことで知られる中村哲さんなどの著作を買いに来るお客さんもいるそうだ。

3階のキリスト教書コーナーには、教文館の出版事業で刊行された著作も並ぶ。
3階のキリスト教書コーナーには、教文館の出版事業で刊行された著作も並ぶ。

「キリスト教関連の本をこれだけたくさんまとめて置いてある書店はほかにないと思います。本当に必要としている人にとって、大事な場所だと思っています。私はクリスチャンではないのですが、アメリカやヨーロッパなど、影響力のある国の多くがキリスト教文化圏ですよね。だから世界のことを学ぶためには、キリスト教の書籍を読むことは、ひとつの助けになると思っています」

2階の人文書コーナー。岩波書店とみすず書房は独自の棚があり、そのほかはジャンルごとに並ぶ。
2階の人文書コーナー。岩波書店とみすず書房は独自の棚があり、そのほかはジャンルごとに並ぶ。

哲学はむずかしそうだと思う人にも

 津田さんは、一般書などのコーナーの棚づくりのこだわりについて次のように語る。

「いつもお客様の顔を意識しています。新刊リストを見ながら、あのお客様はこの本を置いたら喜んでくれるかなと考えるんです。そして棚を見たときに、そのジャンルの見取り図を感じられるといいなと思っています。今週はこんな本が出たんだ、最近はこういう著者が注目されているんだなどと、全体的な本の出版傾向を感じてほしい。僕自身、昔よく神保町の東京堂書店で新刊台を見ながら、そのようなことを感じていました」

 そんな津田さんに、おすすめの人文書を教えてもらった。ベンジャミン・クリッツァーさんの『21世紀の道徳――学問、功利主義、ジェンダー、幸福を考える』(晶文社)。「学問の意義」「功利主義」「ジェンダー論」「幸福論」といったテーマを、「道徳」の観点から最新の学問の知見や古典的な思想を合わせて論じている。

「哲学や思想というと、物事の真理とは何かといった問題を、延々と問い続けているような印象もあるかもしれません。でもこの本ではそうではなく、答えを出さないと意義がないと指摘するんですね。現実的に哲学や思想をどのように活用しているのかが、いろいろな観点から書かれていて、非常に魅力的な本です。人文書に馴染みがなく、哲学はむずかしそうだと思う方にも、ぜひ読んでもらいたいです」

坪内祐三さんのスタイルに感銘

 津田さんは小さな頃から書店にいることが好きだったという。小学生の頃から歴史にまつわる学習漫画、伝記、評伝などを愛読。10代の後半からは森鴎外や三島由紀夫などの日本近代文学作家を手始めに、村上春樹、村上龍など現代作家を読むようになった。20代以降は、金井美恵子、保坂和志、中原昌也など、作家による創作論も好きになったのだとか。

 大学生のときに、新宿にある紀伊國屋書店でアルバイトをした。お客さんからいろいろな問い合わせに答えなければならないなど、その大変さが身に染みたが、本好きの津田さんにとって、書店員のアルバイトは楽しいものだった。20代前半に教文館に最初はアルバイトとして入り、20年以上勤務している。

 津田さんに人生を変えた一冊を聞くと、評論家・坪内祐三さんの『古くさいぞ私は』(晶文社)を紹介してくれた。2020年に亡くなった、週刊誌や雑誌で名連載を数多く抱えた博覧強記の坪内さんの本への愛が伝わる雑文集だ。神田・神保町の古本・新刊散策マップ、1カ月で300冊の新刊に目を通す読書法、目的によって使い分ける図書館利用法などが収録されている。

「坪内さんの文章では、場所や時間が具体的に書かれています。この本を見つけたのは自分が何歳のときで、どこの本屋でどんな時代状況だったのかと詳細にわかるんです。そうした時間、空間、歴史の具体性があることはすごく面白いですね」

「坪内さんが神保町の古本屋をどのように回るかのルートを書いていて、私も同じルートを辿ってみました。坪内さんは街を自分の足で歩いて、自分の目と耳で探す。そうした経験が土台としてある上で、たくさんの本を読んで、執筆をしています。頭だけで考えて書いているわけではなくて、本当に現実を生きている中で考えたことが書かれている。そんな坪内さんのスタイルが好きなんです」

津田さんは、雑誌『鳩よ!』(マガジンハウス)の坪内祐三特集も何度も読み返すそうだ。坪内さんの仕事部屋の写真や学生時代の愛読書などが掲載されている。
津田さんは、雑誌『鳩よ!』(マガジンハウス)の坪内祐三特集も何度も読み返すそうだ。坪内さんの仕事部屋の写真や学生時代の愛読書などが掲載されている。

言葉は交わさなくても

 教文館を「街の本屋さん」と表現した津田さんにとって、坪内さんの本屋への愛が伝わるエッセイは特に愛読しているのだという。

「普通の街の本屋が好きだとよく書いていますね。さりげなく、しかししっかりと本が置かれている本屋が好きだそうです。そこにしょっちゅう行っては、棚の些細な変化を見たり、どんな新刊本が出ているのかに驚く。僕自身、そういう感覚に共感するところがあります」

 そのスタイルは、書店員としての仕事にもつながっているのだという。

「坪内さんの本を読んでいると、本と本、著者と著者がつながっていることがわかります。一冊一冊が独立して出来上がって並べられるものですが、それを執筆する過程やつくる過程では繋がりがあるんですね。ある作家の影響下において出てきた作家たちには共通点がありますし、作家同士で影響を及ぼし合っていることもあります。だから棚をつくるときも、そうした文脈や背景を意識していますね」

 最後に津田さんに書店員という仕事のやりがいを感じる瞬間について話を聞いた。

「僕が一番嬉しいのは、店員と言葉は交わさないものの、いつも来てくれる常連さんがいることです。マイナーなジャンルの新刊が出たとしても、少し前に似た系統の本があって棚に一冊いれていたら買ってくれた人がいたからと、その近くに入れておけば、実際に買ってくださったりする。言葉は交わさないのですが、本当に本が好きな方に対して、しっかりと本を届けられる場所を提供できたと感じるんです」

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